(1)政府、自民党が賃上げにこだわるのは、安倍元、菅前首相は物価上昇2%達成目標でデフレ脱却を目指して賃上げによる消費行動が上向き、企業利益を高めてそれがまた賃上げに回るというものでこれもひとつの経済循環であるが、このため法人税を下げる税制効果が大企業優先策で赤字経営で法人税を納める必要のない中小企業、物価上昇分で実質手取りが伸びない国民生活にとっては利益はなかった。
(2)岸田首相は新しい資本主義、成長と分配の好循環、賃上げを目指して分厚い中間層の拡充に光をあてる経済理論だ。22年度与党税制改正大綱が決定して、「賃上げ税制」として一定の賃上げなどを条件に法人税額から大企業で最大30%、中小企業で40%控除する。
中小企業に分厚い税制改革にみえるが、前出のように法人税を納める必要のない赤字企業の多い中小企業には利益はなく、やはり大企業優先税制には変わりがない。
(3)対象を固定給だけでなくボーナスを含めた総額のため一時金の調整で対応できるため恒常的な賃上げに結びつかない問題も指摘されている。賃上げは企業利益を従業員に還元するという事業目的で、岸田首相の企業への3%賃上げ要請に対しても経団連は各企業の自主判断にまかせるとしている。
トヨタはこれまでの会社一律の賃金交渉を見直して、職種、職域ごとの賃金交渉に切り替える。コロナ社会で好不況の落差のある経済構造変化にあわせたあたらしい賃金交渉が出てきて、企業への3%賃上げ要請といっても一律にはいかない。
(4)一方で企業は将来投資、担保として過去最大の総額数百億円といわれる「内部留保」があり、麻生前財務相は企業の「内部留保」を賃上げ財源として活用することを求めていたこともあり、岸田首相も成長と分配の好循環、賃上げを実現するために賃上げ税制強化の見返りとして企業の「内部留保」の取り崩しに言及することも必要だ。
(5)もちろん企業としても将来の成長、投資としての財源保障の確保は必要であるが、企業利益の還元としての賃上げ理論からすれば「内部留保」を貯めこむだけでなく、企業の人的投資、賃上げ効果に向けることはあって当然のことだ。
内部留保は政府予算の予備費と同じでなかなか実体がつかみにくい財産、財源であり、企業としてもあきらかにしにくいところはあるが、企業の人的投資、賃上げに活用することは企業目的に沿ったものであり、内部留保と賃上げ、利益の好循環につながる効果の期待もある。