続きます。
染殿姫を主人公とした話が、今昔物語集にあります。
染殿の后、本名・藤原明子(ふじわらのあきらけいこ)。文徳天皇の女御。次の天皇である清和天皇の母。類稀なる美貌の人。
この染殿姫が狐憑きとなる。精神不安定となり床に伏した。心配した天皇は都から名の在る僧侶や修験者達を呼び寄せ祈祷させるも、一向に良くなる気配は無い。
そこで大和の葛城山の頂上、金剛山に住む聖人の話が出た。修行により神の如き法力を得て、鉢を飛ばしては食料を調達。瓶を飛ばしては水を汲んでくる程の力があると言う。
天皇はその聖人に染殿姫の祈祷を依頼。聖人は何度と無く断ったが、天皇の懇願を断れ切れずにそれを承知した。
几帳を隔てて狐憑きの染殿姫に対峙する聖人。直ちに祈祷を開始。すると染殿姫の侍女が狂い出し、喚きながら走り回る。
祈祷を続ける聖人。すると侍女は硬直し呪縛。侍女の懐から一匹の老狐が出て来て聖人の前に平伏す。
聖人は老狐を縄で縛り上げ、二度と人に憑かぬように諭す。これで染殿姫の狐憑きは解消された。
天皇らは喜んで聖人に逗留を願う。聖人はそれに従い滞在。何度と無く染殿姫と対峙する聖人。在る時、風で几帳が靡き美しい染殿姫の姿を聖人は見てしまう。
その美しさに心を乱す聖人。深い愛欲の念が渦巻く。そして聖人は欲望の命ずるままに染殿姫の寝所に入り染殿姫を襲う。
染殿姫は聖人の力に贖いきれずに乱暴される。その騒ぎを聞き付けた典医・当麻鴨継らに聖人は捕らえられ投獄される。
聖人は投獄され泣き続けながら叫ぶ。「我、直ちに死んで鬼となり、この后が生きている間、念願の如く睦みあうのだ」と。
天皇らは驚くも染殿姫を助けた経緯もあり聖人を許し金剛山に返す。
金剛山に戻った聖人は帰依している三宝へ祈ったが、染殿姫の事が忘れられない。発言どおり10日間絶食して死亡。身長2.4メートルの黒い肌の鬼となって蘇り、染殿姫の元へ。
染殿姫の侍女らは鬼となった聖人に驚き、恐怖の余り失神して倒れる者、逃げ出す者が続出。しかし、警護の兵らは鬼の姿が見えなかった。
鬼は染殿姫に対し「恋しかった、会いたかった」と語り、染殿姫もその言葉に喜ぶ。そして関係し鬼は去って行く。
次の日、染殿姫は何事も無かった様に振舞っているが、正気を失っているのは明らかであった。
其れを聞いた天皇は、染殿姫の元へ。
その夜、また鬼が現れ、天皇の前で染殿姫と睦み合う。更には几帳から鬼と染殿姫から姿を現し、天皇配下の者達の前でも睦み合いを行なう。配下達は恐れ慄きながら其れを見ている他無し。
事が終わると鬼と染殿姫はまた凡帳の中に入る。一部始終を見ていた天皇は、嘆きながら帰って行った。
続く。