ノイバラ山荘

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河童のうた――大野誠夫

2010-03-15 15:37:07 | 短歌
大野誠夫(のぶお)『薔薇祭』(1951) にこんな楽しい歌を見つけました!


・いつのころよりかわれの室にも河童棲みさびしきときに低く歌へり

・春くれば蘆荻茂りあひ青あをとわれの河童の眼もうるみくる


戦後の悲惨な景を詠んだ風俗詠、社会詠、貧苦の生活詠が続き、
間に交じる西洋芸術への憧憬に引き裂かれるような歌を読んできて、
最後のあたりに河童の歌があり、おやと思いました。

大野誠夫については今までほとんど知らなかったのですが、
茨城県河内町に生まれ、利根川のほとりに育ったらしいのです。
故郷にたつ歌碑には次の歌が刻まれているそうです。

・逢いたかる人みな失せし川べりの村歩みをり眠れるわれは
                       『水観』

「河童幻想」と詞書を添えながらも河童の歌が、
他の虚構の歌に比べて生き生きとしているのは、
幼日の川で遊んだ体験が支えている幻想であるからに違いありません。

「さびしきときに低く歌へり」「青あをとわれの河童の眼もうるみくる」

なんだか、涙が出てくるような河童ではありませんか!
いとおしくて、抱きしめたくなります。
今、私の傍らにもいるような感じがします。
2首目の上句「春くれば蘆荻茂りあひ青あをと」は故郷の川の景を
描写しているのでしょう、リアルです。

『薔薇祭』の評価とは違うので、多分この歌は
どのアンソロジーにも載らないでしょうが、
歌集を丸ごと読む楽しみというのは、
こんな歌を見つけることにあるのだと思いました。