ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「シルクロードの鬼神」 エリオット・パティスン

2008-05-01 09:31:04 | 
なにを今更と、腹立たしい気持ちで報道をみていた。

北京オリンピックを直前に控えて、中国の支配下にあるチベットのラサで起こった暴動に端を発した聖火リレーへの抗議行動。報道に値する事件でもあるし、反中国感情の盛り上がりも分らないではない。

しかし、人民解放軍のチベット解放という名の侵略戦争は、1951年だぞ。以来、チベットは共産中国の支配下にある。西側の報道機関が入りにくい地域であるため、そこで行われてきたチベット人弾圧と虐殺は、ほとんど報じられぬままになってきた。特に日本では長年にわたり、ほとんど無視されてきた。

広大な中国の西側、とりわけ、数千年にわたって中原の地を何度となく侵略してきたウィグル、チュルク、チベットといった異民族に対する漢民族の恨みは深い。

新彊ウィグル自治区をはじめとして、漢民族による移住と現地民への弾圧は半世紀に及ぶ。チベットだけではないが、中でもイスラム教徒であるウィグル系、チュルク系への弾圧は凄まじい。チベット仏教の信者でもあるチベットも含め、真綿で包む様なえげつなくも残虐な政策が、半世紀にわたり行われてきた。

あるカザフ系の女性は、北京政府の作った病院へ入院したところ、知らぬ間に麻酔、手術をされ、子供は堕胎され不妊手術までされて退院させられている。孤児を集めて施設に送り込み、毛語録を暗誦させ、伝統的文化を否定する洗脳をされ、漢民族の女性と婚姻して中央アジアに戻される。そして、民族弾圧の尖兵として活躍させる北京政府のやり口が、今も横行している。

何故、これほどまでに苛烈な弾圧がなされるのか。

単に北京政府に対する暴動なら、中国各地で今も頻発している。しかし、これほどまでの虐殺政策はとられていない。おそらく、鍵となるのは宗教だと思う。

中国を支配してきた歴代の王朝は、民衆の暴動だけでは滅びない。恐ろしいのは、宗教を背景にした暴動が起きた時だ。古くは黄巾の乱に始まる宗教的秘密結社が暗躍する反政府運動は、歴代の王朝に致命傷を与えてきた。

現在でも法輪行に対しては、苛烈な取締りを続行している。宗教組織が反政府活動をはじめた場合の恐ろしさを誰よりも知る北京政府が、チベットの暴動を許すはずはない。聖火リレーへの妨害なんぞで、北京政府のチベットへの弾圧が止む訳ない。むしろ弾圧を水面下に隠し、より仮借なき弾圧を推し進めるだけだと思う。

なお、表題の本は、そんなチベット周辺での北京政府の支配下における怪奇な事件と、その背後にある宗教弾圧を抉り出すミステリーです。できるなら、第一作目の「頭蓋骨のマントラ」を読んでから、読んで欲しい作品です。より、チベットの現状を理解する助けになると思います。もちろん、ミステリーとしても第一級の面白さを持っているので、是非どうぞ。
コメント (18)
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