ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「洗礼」 楳図かずお

2008-05-14 12:51:19 | 
医者の口から「手術」の言葉を聞くと、逃げ出したくなる。

怪我の多い子供であったので、流血は平気なくせに、手術と言われると浮き足立つ。ほとんどトラウマ(心的外傷)になっている。きっかけは、小学校1年の夏休みだ。

九州は宮崎に遊びに行った。私にとっては「虫の王国」だった。毎日毎日、虫取り竿を持って駆け回っていた。連れられて、山奥の木材の伐採場所に行った時のことだ。

凄まじい轟音をたてるチェーン・ソウで木を切り唐オ、集めて川に流す集積所に泊めてもらい、珍しい昆虫の採取に夢中になっていた。ある日、ガラスの破片を踏んでしまい出血した。山中にもかかわらず、医者が泊まりこみで配置された診療所があったので、そこに連れられていった。

私の足の裏を見ながら医者が言うことには、ガラスの破片が皮膚の裏に入り込んでいるので、手術して取り除くとの事。手術を受けるのは初めてなので、よく分らず言われるままに寝転んだ。そこでとんでもない科白を聞かされた。

「あ~、麻酔がないから、ちょっと我慢しろよ」

え?え!え~と慌てた。身体を起こそうとすると、周囲の大人たちに押さえつけられ、タオルを巻きつけた木の板を咬まされた。そこから先は記憶が途絶えている。

目を醒ますと夜で、宿舎のベッドの上だった。妙にのどが渇いていたことだけは覚えている。脇の皿の上に、色のついたガラスの破片がのせてあった。これが私の足の裏に入り込んでいた奴らしい。けっこう大きいものだった。

以来、手術と聞くと、逃げ出したくなる。

今にして思うと、かなり腕の良い医者だったと思う。木の伐採場所に配置された医者だけに、チェーンソウで大怪我をした樵の人たちを相手にしていたはずだから、私の怪我なんざ小手先の仕事だったのだろう。事実、私は数日後には走り回っていた。傷跡は、まったく残っていない。

それでもだ、やっぱり手術は怖い。なんか背筋が固まる。だから、表題の漫画を読んだ時は、恐ろしさに身悶えした。私の場合、怖がる箇所が、普通の人と少し違う気もするが、怖いものは怖い。

私にとって、楳図かずおの描く手術室は、その場面だけで怖い。実験室のような無機質な印象があり、自分がその手術台に縛られている様を思い浮かべてしまう。他の漫画家の描く手術室で、そのような恐怖感を煽られることはないから、やはり楳図かずおは別格なのだと思う。

死ぬまで病院とは縁が切れない私だが、出来るなら手術とは無縁でいたいものだ。
コメント (8)
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