ヌマンタの書斎

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石の血脈 半村良

2014-01-15 13:07:00 | 

かつて欧米の人は、日本の伝統家屋を指して、木と紙で作られていると云っていた。

木はともかくも、紙(障子)を使って建材とする文化は確かに珍しい。だが隣のシナでは土を使って家を建てていた。原始的などと言ってはいけない。雨が少なく、良質な粘土質の土に恵まれたシナの中原では、この土で作られた家は熱を遮断する機能に優れ、かつ材料が豊富で、しかも堅牢な優れものなのだ。

また移動を重視した遊牧民族は、木と布だけで家を作り、極めて機動性に優れた文化を築いていた。エスキモーに至っては氷を切り出してイーグルと呼ばれる家を作っていた。その地域特性を活かしての家づくりであり、決して馬鹿にしたものではない。

だが、概ね人類は木を建材として用いることが多い。木は断熱性に優れるだけでなく、組み立て方も多彩で、加工も容易であり、もっとも多く用いられた建材である。なによりも、地球全土に木々はあり、それゆえに木の家は世界各地で建てられた。

ただ、火に弱いなどの欠点も多く、耐久性に欠けることもまた事実であった。その点、耐久性では格段に優れていたのが、建材に石を用いた家であった。ただ石は重いために、建築に時間がかかる。またその重さゆえに、アーチ構造が発明されるまでは、高層建築には不向きな建材でもあった。

建築技術に優れたローマ帝国に置いて、アーチ構造が産みだされると、石を建材に用いた建築物が多く作られるようになった。抜群の耐久性をもつがゆえに、二千年近くたった今日でも、この石の建築物はほぼ元の姿を保っていることが少なくない。

その堅牢性ゆえに、教会や戦勝記念碑など永く残したいと考えた場合、石を建材として用いての建築が普通であった。もちろん、軍事的施設は酷Sが普及するまでは、当然のように石を使って建築されてきた。

実際、石を使って建築された壮大な建造物を目にすると、その堅牢性が心に染み入る。あたかも永久に聳え立つがごとく力強さを感じ取れる。この巨大で壮麗な石の建造物の如く、未来に向かって永久に生きてみたい。

いつの時代でも、限られた寿命を嘆き、永遠の人生を謳歌したいと願う人は必ずいた。もし、可能ならばすべてを投げ打っても手に入れたいのが永遠の人生だ。

そのような夢をベースに、ヴィンパイア伝説、狼男伝承、巨石文明などを織り交ぜて書かれたのが、表題の作品だ。数多くの伝奇小説をものにしている半村良だが、私はこれこそが最大の傑作だと信じている。

半村良の伝奇小説が優れているのは、なにも古代の怪奇な伝承を現代に復活させているからだけではない。なによりも、何気ない日常生活の描写に優れているからこそ、非日常な異常で異様な異世界の描写が輝く。

新進気鋭の設計家として世間の耳目を集め、美しい妻との恵まれた家庭を築く男前の主人公だが、その栄光の日々は砂上の楼閣であることを痛感していた。失踪した妻を怪しげな乱交パーティで見かけた事実は、彼の心を苦しめる。

派手で奇抜な設計による彼の建築物は栄光だけでなく、不安材料も織り込まれており、それが未来に暗い影を投げかけている。そんな時に偶然出会った昔の恋人との邂逅が、彼を異常で異様な世界へと導く。

永遠の生命、永遠の繁栄など、平等な民主主義の社会にあるはずのない別格の特権階級への誘いは、彼の理性を狂わせずにはいられない。そして、煌びやかな栄光の未来の入り口で知った、妻の本当の想いと、思いもかけぬ意外な結末。

この作品が発表されてから40年が過ぎましたが、今も色あせぬ魅力を放つ本物の伝奇小説。もし未読ならば、是非ともご一読頂きたい傑作です。

コメント (5)
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