ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

樹海脱出 マーカス・スティーヴンス

2014-01-22 12:04:00 | 

日頃は一番とか先頭とかに拘らないのだが、山登りの時はトップを歩くのが好きだった。

東京育ちのわりに野山で遊ぶことが好きだったので、わりと観察力はある。動物の足跡や、虫の居場所、獣道と隠れ沢などを見つけるのが得意だった。当然に地図読みは得意であり、コンパスで方位を確認しながら地形を読んで、適切に現在位置を把握して、最適な道を探すことに長けていた。

だが、そんな私でもジャングルでは素人同然であろうと思っている。

本格的なジャングルを歩いたことはないが、それに近い密林なら経験している。そこで私が戸惑ったのは、平地に近い状態では地形図は意味をなさないことだった。起伏が少ないので、地形を読み取ることが困難なのだ。

おまけに植物が密生していうので、見通しが効かない。だから私の読図力がまるで役に立たないのだ。そんなジャングルで役に立つのは、まず観察力である。特に踏み跡などを確実に見つけ出す目が重要となる。おそらく嗅覚と聴覚も重要だろう。

植生の濃い密林では、人間だけでなく動物だって移動するルートは限定される。自然と歩きやすいルートを選択し、その積み重ねが道となる。人だけでなく、動物も歩く道であり獣道と称される。

直立して二足歩行により移動するのは人間だけで、多くの動物は四足で歩くため、だいたい人間の腰から上は植物で覆われて、その下にトンネル状のルートが出来る。人間は四足での移動に不向きなので、そのトンネル状のルートを植物をかき分けて歩くことになる。これを藪漕ぎといい、文字通り草むらを泳ぐように移動する。

足元が見えないので、足先の感覚が重要になる。また獣道は、多くの場合動物たちの匂い付けの痕跡がある。この匂いを嗅ぎ分けることが出来ると、人の道と獣道の区別が出来るようになる。

聴覚を必要とするのは、水の音を聴き分けるためだ。水なしでは人は三日と生きられない。水の確保は野生では絶対に必要な術となる。感覚が鋭敏な人だと、水の匂いまで分かるそうだが、私はそのレベルにない。

もっとも水の音を聴き分ける際、重要なのは危険を察知することだ。水のある場所は案外と危ない場所に近いことが多い。水の流れが大地を削り、谷を作っていることは珍しくない。水の音に誘われて、無造作に進むと谷に転落することもある。

慣れてくると、水の近くと、そうでない場所では植生が違うので、それで気が付くこともある。視覚、嗅覚、聴覚を全て活用しないと、密林は歩けない。

そのことを思い知らされたのは、あの観光地であるグアム島である。私はゴルフをやらないので、ゴルフをやる知人とは別にグアムを散策していたのだが、ちょっと観光ルートを離れると、すぐにジャングルといっていい密林となる。

敗戦後、旧日本兵がグアムの密林に隠れていたそうだが、実際に行ってみると本当にジャングルそのものだった。軽い気持ちで入り込んだのだが、すぐに戸惑った。まず昼間でも薄暗いため見通しが効かない。起伏はけっこうあったが、植生が濃すぎて山と谷の区別も難しい。

10分と歩かぬうちに道に迷ったことに気が付いた。山歩きには慣れていたが、このような密林は初めてであり、かなり戸惑った。落ち葉が多くて、自分の足跡さえなかなか判別できない。

さすがに困ったが、冷静に立ち止まり、周囲を見渡し、改めて耳を澄ますと水音が聴こえてきた。そういえば、観光パンフレットに滝があり、そこに行くはずだったと思いだした。そこで、水音を頼りに歩いてみると、整備された遊歩道にぶつかった。

ほっとして、その遊歩道を水音の方向へ向かったのだが、ふと気が付いて脇を見てゾッとした。その遊歩道の奥は崖になっていて、2メートルほど下に清流が流れていた。もし、遊歩道がなかったら、私はその崖から転落していたかもしれない。

ジャングルは怖い、とつくづく思った。

表題の作品は、反政府組織に囚われたジェット旅客機から隙を見て逃げ出したものの、ジャングルで迷子になり政府からも行方不明者として見捨てられたセールスマンと、その救出に向かう妻子の物語。

泥水をすすり、マラリヤに罹患し、現地の避難民の少年に助けられたセールスマンに困難な脱出劇の主人公の面影はなく、助けに向かう奥さんは現地で戸惑うばかり。息子さんは盲目であり、手助けどころかお荷物なのだが、この息子さんの父親への想いがなければ、この救出劇は成り立たなかった。

ジャングルからの脱出を描いた冒険小説かと思ったが、妻の思い出を胸にジャングルを彷徨う情けないセールスマンと、これまた夫に優しく出来なかった悔恨を胸に勢いでアフリカに乗り込んだものの、なにも出来ずに呆然とする妻の情けない話には、正直呆れた。

呆れはしたが、実際に都会生活に慣れた文明人がアフリカのジャングルで迷ったならば、似たり寄ったりの悲惨な状況に陥ることも理解できた。その意味で迫真のドラマだと云えなくもない。

冒険小説として読めば失望を禁じ得ないでしょうが、現代文明が通用しない野生に突き当たった人間たちのドラマとして読めば、それなりに思うところはある。

正直、再読することはないと思いますが、改めて人間の弱さを確認させられた作品でもあります。もう軽い気持ちでジャングルに入り込むことは止めにします。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする