生れ出でて半世紀ともなれば、そろそろ自らの人生の終焉を意識せざるを得ない。
たしかに体力も落ちたし、集中力にも衰えがみえる。だが、若い時よりはるかに狡猾になり、要領もよくなっている。なにより積み重ねた経験から、あからさまな間違いをしなくなると同時に、未来への方向性もより確実になっている。
これまで積み重ねたものを、将来に向けて如何に結実させるか。単なる夢ではなく、具体的なプランとして実現できるまでに、自らの実力も向上している。年をとって衰えたものは確かにあるが、逆に向上している部分だってある。
だから、年をとるのも、そう悪いものでないと思っている。
ただ、私自身の努力では如何ともしがたいものがある。それが、現在完結していない小説や、漫画の行く末である。いろいろな事情で、続編が書かれていないようだが、作家として自らの作品の完結させるのは義務ではないかと思う。
小説家でいうなら、田中芳樹と夢枕獏の両名が双璧であろう。この御ふた方、未完の作品が多すぎる。非常に困ったことに、読めば面白いのである。それこそ鉄板で面白いのである。だからひたすらに続編が出るのを待っているのだが、待てど暮らせど出やしない。
漫画家ならば、萩原一至「バスタード」と冨樫義博「HUNTER×HUNTER」が双璧だ。そろいもそろって週刊少年ジャンプ出身である。萩原は掲載誌を月刊誌に変えているにもかかわらず、年に数回しか連載していない。冨樫に至っては未だ週刊(週刊ですぜ、週刊!)少年ジャンプに居座っているが、掲載するのは年に8週から12週程度である。
信じがたい怠慢である。プロならば締め切りを守るのは、当然の義務である。ジャンプ編集部及び集英社がこの怠惰を許しているのは、営業的な理由に他ならない。なにしろ単行本を出せば必ずベストテンの上位に顔を出す人気漫画なのだ。だからこそ、余計に腹が立つ。
イイ年して、少年漫画に目くじら立てるなんて大人げないとは思うが、正直言えばこの漫画、大のお気に入りなんです。週刊少年ジャンプといえば、「ONE PIECE」と「NARUTO」が二大看板だが、内容質ともに勝るとも劣らないのが、この「HUNTER×HUNTER」なのです。
物語のパワーと勢いなら「ONE PIECE」だし、物語としての質の高さなら「NARUTO」でしょう。しかし、読者の期待を良い意味で裏切る物語の奇想天外さや絵の上手さならば「HUNTER×HUNTER」が頭一つ抜けている。
だからこそ、連載が年に二月に満たないことが腹が立つ。
なお、作者本人は特段言い訳していないが、連載が遅れる理由はまず本人の絵に対する拘りだと云われている。なにせ一時期はアシスタントを置かずに、全て一人で書いていたぐらいだ。おまけにスクリーントーンを使うことも嫌がり、全て手書きであった時期もある。
また確証はないが、メンタル面での病気療養が噂されたこともある。なにせ悪名高き週刊少年ジャンプの連載強行に、作者がめげてしまったケースは少なくないので、けっこう信ぴょう性はある。病気かどうかはともかく、精神面で繊細な感性の持ち主であることは、作品からもうかがわれる。
もっとも巷間噂される最大の理由は、やはり家庭、とりわけ育児であろうと思われる。奥様は「月に替わっておしおきよ」などと言い放って人気を博した少女漫画家であり、夫婦ともども産まれたお子さんの世話に夢中で、漫画が手に付かないと噂されている。
なにせ小学館の新社屋の建築費用を叩きだしたと云われる世界的大ヒット作「セーラームーン」の作者と、単行本を出せば集英社の社員のボーナス全額を賄えると云われる大ヒット漫画の作者の夫婦だけに、金には困らない。出版社としても作者の尻を叩きたいのだろうが、へそを曲げられるのが怖くて手が出せないらしい。
おかげで一年近く連載が空いている始末である。冨樫本人も少しは気にしているようで、そのことが映画製作を認める理由になっているのだろう。既にTVアニメ化された「HUNTER×HUNTER」だが、映画化されたのは意外にも一年前の「ファントム・ルージュ」が初めてで、表題の作品は二作目にあたる。
おそらく冨樫自身は製作には、あまりかかわっていないのだろうと思う。一作目は未発表の原稿がネタだとされているが、二作目は不明だ。一年前、丁度大雪で帰京できなくなった時に、甲府の映画館で一作目を観ているが、顔見世興行的な作品で、幻影旅団のファンなら満足できるものだったと思っている。
二作目は先日観てきたが、こちらも冨樫本人は積極的にはかかわっていないだろうと想像できる。ただし一作目より作品としては良く出来ていた。多分、スタッフが慣れてきたのだろう。
でもねぇ、ファンとしてはやはり冨樫本人の筆による原作を読みたい。そう思っているのは決して私一人ではない。ジャンプで現在連載されている漫画のなかでも、「HUNTER×HUNTER」ほど濃いファンを持つ作品はないと云われている。
その魅力はなんといっても登場人物の人間造形の良さにある。既に百人を超える登場人物が出ているが、もう作品に出てきていないキャラクターでさえ、きっとどこかで生き生きと暮らしているはずと思わせるほど、その人物造形は印象強い。
私はかれこれ40年以上、漫画を読み続けてきているが、こんなに多彩な登場人物が生き生きと感じられる作品はないと思っている。だからこそ多くのファンが再開を待ち望んでいる。
その要望に応える形で、劇場公開の映画が製作されたのだろう。なればこそ、早く本編が読みたいのだ。まったくもって困った漫画である。