ヌマンタの書斎

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F4ファントムの引退

2020-09-14 11:57:00 | 日記

空を飛ぶ航空機は、安定して飛行できることが重要だと思っていた。

これは旅客機や輸送機には当然のことであるが、戦闘機は真逆であると知った時は驚いた。

飛行機が実用化された時、一番最初に注目したのは軍人であった。その目的は偵察であった。敵はどこにいるのか、どのくらいの兵力なのかを上空から観察できる飛行機は、軍人にとって夢の存在であった。

そして、それは第一次世界大戦において実現した。上空から偵察され、位置や規模を知られてしまった敵は驚き慌てふためいた。そして同じような偵察機の開発と同時に、偵察機を撃ち落とすことが出来る戦闘機を生み出した。

ヨーロッパ戦線において、史上初の戦闘機による空中戦が行われることとなった。しかし、航空機の開発技術者は戸惑った。軍人が求める戦闘機の飛行性能は、明らかに飛行の安定性とは真逆のものであった。

当時の戦闘機の対戦闘機用の武器は連発銃である。これを相手に向けて撃つため、また相手からの攻撃を躱す為には、飛行機を自由自在に操縦することが求めらえた。しかし、それは飛行の安定性を損ねるものでもあった。

空気よりも重たい機体を空に飛ばすためには、航空機の翼から生じる揚力が必要であり、その揚力を生み出すために動力エンジンが必要となる。そして一旦浮上したのならば、空気の流れに干渉するフラップによる操縦が求められる。

本質的に航空機は不安定なものであるが故に、安定性が必要となる。しかし、戦闘機はその操縦性能を高める為、敢えて不安定な状態で飛行できることが求められる。

これはプロペラを回す方式から、ジェット式に替わっても変わらない相矛盾した航空機の宿命であった。飛行機の操縦とは、安定した飛行と、不安定な飛行の両方を両立させることであった。それゆえ、操縦士個人の技量がものを云う世界となった。

しかし電子技術の進歩が、この人間の感性と技能の限界を突破した。

アメリカが開発したステルス攻撃機F117は、レーダーに感知されずらい形状ゆえに、その操縦は恐ろしく困難なものとなった。しかし、コンピューター制御により、人間には到底不可能な微細な操作による飛行が可能となった。

この技術はステルス機のみならず、一般の戦闘機にも採用され、コンピューター制御によるアクロバティックな飛行が可能となった。現在の第四世代以降の戦闘機は、すべてこの電子制御による飛行システムを採用している。

ところで、日本の空を半世紀にわたって守ってきた航空自衛隊のF4ファントム戦闘機が、遂に来年には全て退役することになった。実はこのF4ファントムは、人間の手による操縦される最後の戦闘機であった。

F4ファントム乗りの操縦士にとって、扱いの難しいこの機体を飛ばせることは誇りであり、栄誉でもある。操縦士個人の力量により飛行能力に差が出るので、職人肌の操縦士が多く生まれ育ったのも当然であろう。

そのせいだと思うが、今でも退役したアメリカの元ファントム機のパイロットが、わざわざ観光で来日して百里基地に見学に来ている。やはり懐かしいらしい。アメリカでは湾岸戦争を最後に引退したファントムだが、フライバイワイヤー制御とは異なる操縦感覚は、操縦士にとって挑みがいがあるものであったらしい。

私はもちろん操縦したことはないが、あの武骨なシルエットは個性的で好きなのです。操縦士とレーダー操作手に分かれた二人乗りであるせいか、ファントム乗りはお喋り好きが多いそうだ。一般的には、戦闘機のパイロットは無口なのが多いので、アナログなファントム乗り独特のものだとされている。

もっとも初飛行から半世紀であり、いい加減時代遅れというか、機体の老朽化が問題視されていたので来年の引退も止む無しだと思う。

ただねぇ・・・私は少数でいいから残しておいて欲しいと思っている。

数年前のことだが、日本の国防上、たいへんな事態が生じたことがあった。飛行機が事故などを起こした場合、その原因解明と対策が出るまで、該当の飛行機と同種の機体は、全て飛行停止となる。これは軍民問わない空の大原則である。

まず最初に航空自衛隊の主力戦闘機F15に不具合が生じて全機飛行停止となった。続いてF2戦闘機にまで不具合が生じ、やはり全機飛行停止となった。

日本の事情など知ったこっちゃないロシアやシナは、ここぞとばかりに日本領空に飛行機を侵犯させる。その際、老骨に鞭打ってスクランブル発進でロシアやシナを追い散らしたのがF4ファントムであった。

基本設計は半世紀前であり、電子装備は旧式なオンボロであるが、信頼性は高く、しかも日本は世界で唯一ライセンス生産をしていた関係上、非常に良く整備されていた。この老骨戦闘機の奮闘があり、日本は危機を乗り切った。

旧式であるからこそ整備も簡便であり、またアナログであるからこそパイロットの力量次第で危機も乗り切ることが出来たと私は考えている。

構造上の耐用年数があるのは承知しているが、今少しファントムは残しておいて欲しい。多分ですけど、最新鋭の戦闘機であるF35は、きっと何かしらのトラブルで飛べなくなる時があるでしょうからね。

コメント (4)
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