口コミでしか情報がない世界で生きていくことの厳しさを痛感した。
それは情報で溢れる現代に生きる私には、想像も出来ない過酷な世界なのだろう。私たちは知っている。真田家のうち、長男の信之は徳川方について幕末まで生き残り、父・昌幸と二男・信繁(幸村)は豊臣側について滅んだことを。
真田家に従っていた土豪や農民たちは、どちらに付いたかによって、はやり大きな影響を受けている。ある者はなにも考えずに信之側に付き、ある者はしがらみから昌幸についていった。
時代の変化に判断を誤ったと誹謗するのは容易い。しかし、小さな村の農民やその村から徴兵された雑兵たちに、どれだけの選択権があったというのか。その非情さ、無常さは過酷に過ぎるほどである。
井上靖は、歴史上に名を知られていない武将や無名の農民兵を取り上げて、時代の変化に流され、その激流の中で必死で生きようとしてきた人々の人生を描きだしてみせたのが表題の作品である。
農民兵の立場から戦国時代を描き出す手法は、ありきたりの平凡なものになり勝ちだが、それぞれに個性ある生き方があったのだと分からせる手法はさすがの一言。
戦場で武名を挙げて一旗揚げるのは、あの時代の一つのサクセス・ストーリーなのだと思う。でも私なんぞは、土地にしがみ付いて平々凡々たる人生で終わることを望むのだろうなァ。
たしか、私の先祖は上州あたりの水のみ百姓であったはず。父方は武州の庄屋さんであったようですが、母方は幕末に江戸に出てきて、町民として暮らしていたようです。それはそれでドラマがあったのでしょうが、きっと平凡で、ありきたりのものだと思います。
でも、それでも今日まで子孫が生き延びているので、結果的に勝者の側であったのでしょうね。きっと、それは偶然の産物だと思いますけどね。