ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ステーキ マーク・シャッカー

2020-09-25 11:38:00 | 

ステーキが御馳走であることは、古今東西変わりないようだ。

私もステーキを食べる時は、ちょっと贅沢気分である。ただ、ここで悩ましい問題に直面する。このステーキ、本当に美味しいのかな?

ステーキは高い。値段だけなら寿司のほうが高い場合もあるが、概ねステーキは高い値段設定となる。はっきり言えば、高ければ高いだけステーキは美味しいはずだ。

特にA5クラスのステーキ肉は、蕩けるほどに美味い。松坂牛、コーベビーフ、但馬牛、前沢牛、宮崎牛など日本各地のステーキ肉を食べてきたが、正直に云えば常に美味しかったわけではない。

不味いとは、さすがに言わないが、ちょっと首を傾げたくなるステーキを食べた経験は少なくない。それは堅すぎたり、ジューシーさに欠けたりと些細な違いではあるのだが、最上のステーキと比較すると明らかに劣る。

実はステーキを美味しく焼くには、相応の技術が必要となる。欧米のレストランで一流どころには、ステーキを焼くことを専門にしているコックさんが配置されている。日本だって、そのような洋食屋さんは実在する。

また美味しいステーキを焼くには、ある程度の大きさと厚みが重要となる。グリルで焼くのが一般的だが、都内でも有数の名ステーキ店だとされる四谷のあるお店は、油に泳がせるような不思議な焼き方をしている。注文してからステーキが出るまで小一時間かかるのだが、席に運ばれたステーキはまるで油っぽくなく、ほのかに赤身が残りながらもしっかりと火が通っている。

一度しか食べた事はないのだが、ここのステーキはなかなか冷めない。時間をかけて焼いたからこその恩恵であるそうだ。そう、冷めたステーキは不味い。強火で一気に焼き上げたステーキは、焼きあがるのも早いが、冷めるのも早いそうだ。また訪れたいと思いつつ、なかなか行けないのが無念である。

先にA5クラスのステーキ肉は美味しいと書いたが、これも店の腕前次第だ。肉を仕入れた後、十分に熟成させて味を向上させているところもある。A3クラスの肉を、客にA5だと思わせるのが料理人の醍醐味だと語っていた。その笑顔には凄味があった。

そのような店で美味しいステーキを食べた経験から、私は家ではステーキを焼かない。一時期、安いステーキ肉を美味しく加工する技術にはまったこともあるが、やはり本物の料理人の焼く技量には敵わないと認めている。

表題の書は、旅行ライターである著者がステーキの味に疑問を持ち、かつて子供の頃に食べたステーキの味を求めて世界を旅した成果をまとめた物である。

草を食べていた食肉牛が、現在では蒸したコーンを大量に食べ、わずか5か月あまりで巨大に育ち、出荷されて市場に出回る。こんな牛が、かつて草を食べていた食肉牛と同じ味な訳がない。旅はここから始まっている。

全米のステーキの名産地を巡り納得できず、スコットランド、フランス、イタリア、日本、アルゼンチンと旅をした。帰国してからは自ら牛を買って育成して、その肉を食べる。

読んでいて呆れるほどの執念である。私はステーキは好きだが、他にも美味しいものはあると思うので、これほどまでに執念を燃やすことは出来ない。だが、資本主義社会における食肉牛の置かれた立場や、育成牧場の悩み、レストラン経営者の悩み、調理人の悩みなどが具体的に提示される様を読むと、簡単には否定できない。

ちなみにアメリカで大量に即席育成された牛肉は、もちろん日本にも大量に輸入されています。吉野家の牛丼の肉がたしかそうだし、焼肉食べ放題の店でも使われているはず。

決して他人事ではない問題でもあります。日本に来て松坂で畜産業者に「幸せな牛の肉は美味しいですよ」と言われて、それを疑問視していた著者が、自ら牛を育成する際に思い出して、やはり牛を喜ばせるために奮闘する様はなかなかに興味深いです。

ステーキがお好きならば、是非とも一読をお薦めします。

コメント
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