ヌマンタの書斎

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ストック・オプションを巡る顛末 その三

2005-12-02 09:34:21 | 経済・金融・税制

さて、ここで改めてストック・オプション付与の利益に対する課税がいかにあるべきかについて再考してみましょう。日本の所得税法は、所得を10種類に区分します。ストック・オプションをどの区分と考えるかについては、実は三種類の見解があります。

 まず租税法の権威である、金子宏 東大名誉教授は明快に、雑所得であると述べておられます。税法に明確な規定が存在しないがゆえに、雑所得である。実はこの見解が、一番シンプルで分かりやすいものですが、税負担が一番重く、実務では全く使われていないと聞いています。

 残り二つは、当初から意見が割れ、我々専門家の間でも随分議論されたものです。すなわち、ストック・オプションはインセンティブ報酬なのだから、その本質は賞与である。したがって給与所得として課税が相当である、との意見です。それに対して、いや、ストック・オプションは一時所得である。法令には該当するものはないが、通達にそれに類似したものがあるから、それを適用すべし、と。

 税務署の相談員が口頭(つまり文書は出してない)で指導したように、ストック・オプションは一時所得である、との見解はかなりの支持を得ています。このことを強く主張されているのが、国税局で長く税務訴訟を担当し、退官後は中央大学で租税法の講義をされている大淵教授です。

 一時所得説の根拠とされるのが、旧 所得税基本通達23~35 共ー6 です。これは勤務会社から従業員等が有利発行により新株引受権を取得した場合の扱いを示めした通達です。このため、税務署を退職したOB税理士や、ベテラン税理士ほど、一時所得説の支持者が多かった印象があります。ところで、「旧」としたのは、いつのまにやら削除、改訂されていた通達だからです。

ちなみに通達とは、法律ではありません。あくまで上位にある行政職員が、下位の行政職員に対して指示する解釈指針です。法的な強制力はありませんが、行政指導の根拠となるため、実務上は法律なみの威力をもっているものです。正直言って、通達に反した税務処理を行うには、よほどの根拠がないと、まず出来ません。

 また通達とは別に、ある出版社の出していた税務申告のQ&Aで、ストック・オプションは一時所得として申告するよう書かれたものもあったようです。このような質疑応答集は、大概大蔵省や、国税局の監修が入っていて、少なくとも国税局の意向に無関係であることは、ほとんどありえません。しかし、残念なことに「平和事件」という馬鹿げた最高裁判決で、質疑応答集をもとにした申告が後で税務署に否定されても、それはその質疑応答集を判断基準に選んだ納税者本人の責任であり、国には責任はないとされてしまっています。

 同様に、税務署に赴いて申告の指導を受けて申告したとしても、後でそれを否定された場合でも、国には責任はないとする、大馬鹿な最高裁判決もある始末。

 このような状況ですから、平成16年、17年と立て続けに納税者敗訴の最高裁判決が出てしまったのも当然といえば、当然かもしれません。普通、同じような訴訟に対して最高裁判決が2度同じ判断を示せば、それは確定した結論とされるのが通例です。

 それにもかかわらず、未だ(平成17年秋)60件を越えるストック・オプション訴訟が、現在も継続して行われているようです。いかに納税者の怒りが深かったか、わかろうというものです。


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