SDGsという単語を見かけることが増えた。要は、持続可能な開発目標を掲げて、貧困問題や自然破壊などと向き合いつつ、健全な社会を築こうとする試みです。
その一環として行われているのが、廃ガラスを加工して微細な粒にして海岸に敷き詰める方法です。日本では長崎県の大村で行われている硝子の砂浜が有名です。
元々は海中の栄養が多過ぎて腐敗臭が漂う有明海の対策として、長崎空港近くの大村の海浜で試験的に行われたもので、2015年から既に6年が経過しています。
大変に綺麗な砂浜となっており、インスタ映えするとかで人気のスポットになっています。そのせいか、好意的な報道が多いのですが、これに疑問を呈する方もいます。
私が時折興味深く視聴しているユーチューブの番組の一つに「スイチャンネル」があります。漁師の方が、海中のゴミ掃除をしつつ磯を枯らしてしまうウニの退治をしている番組なのですが、この番組の制作者が実は上記の大村の出身でした。
彼が帰郷したおり、撮影した映像は地味ながらけっこうショッキングな内容でした。子供の頃から泳いで潜っていた海だけに、制作者の方はその変貌に驚いていましたが、注意すべきは海底の様子です。
まだ加工された廃ガラスを散布する前は、少し澱んではいましたが、でこぼこの海底に海藻が繁茂し、魚介類を見かける普通の海の映像です。しかしガラスが散布された2年後の海の映像は、だいぶ変わっていました。
以前より透明度が増した海浜はともかく、海底は平坦で生物の姿は稀な人工的な印象が強く、当初長崎市が宣伝していたアサリなどはまるで見かけず、魚介類もほとんどいない。
たしかに悪臭は減ったそうです。でも昔と同じ海ではない。疑問に思いつつ立ち去り、再びこの夏に潜ってみたら、平坦な海底の上にはうっすらと泥がたまり、その泥のなかに海棲生物が密かに棲息しているのが確認されました。ちなみにアサリはほどんど見当らず、魚影が少し増えた程度。
これが持続可能な開発なのかと、制作者の方は疑問を呈しています。しかし、その一方でインスタ映えする美しい海浜としての人気は上がる一方。ちなみに泳ぐには不向きな浜だそうですが、ネットで検索しても好意的な記事ばかりみつかります。
廃ガラスの一つの利用法としてこのような使い方があっても良いとは思いますが、制作者の方が言う様に、生物多様性はむしろ損なわれている。綺麗な海底では生物が生息できず、ガラス砂の上に堆積した泥があって初めて生物が生きていける環境が作られる。
人間の美的感覚ばかりが優先されて、自然本来の姿が歪められているのではないか。私にはそう思えてなりません。行政主導で行われているガラス砂の散布による美しい海辺は、たしかに見た目は良いでしょう。
でも、行政は自身が正しいことを前提に動きます。そこには自らを省みる姿勢が著しく欠けるのが、行政主導の最大の欠点です。この行政の在り方に疑問を持たずに安直に報道しているマスコミを散見します。
そこには批判精神の欠片もなく、ただ単に美しい自然を取り戻したことを賛美するのみ。人間にとって快適な環境が、生物全体にとって最適とは限らないことを理解できないようです。
まだまだ小さな問題ではありますが、自然保護とかSDGsとかの字面に弱いのは、日本人の右に倣えの悪習だと思います。どんな方法も100%完璧な方法なんて、決してあり得ません。必ず長所と短所が同時に存在するものです。
賛美するだけなら報道なんかしないで欲しい。美しいガラス砂の浜辺は、まだまだ実験途上であることを忘れずにいて欲しいです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます