世界一、性格の悪いプロレスラーを名乗るのが鈴木みのるだ。
その厭らしいほどに憎たらしい試合っぷりは、まさにその名に恥じぬもの。でも熱心なプロレスファンなら知っている。それが鈴木みのる渾身の演技であることを。
本気で強くなりたくて新日本プロレスに入門。でも当時の新日は、UWF勢の離脱や維新軍団の脱退でガタガタ。スパーリングに応じてくれる先輩は少なかった。そんな鈴木の想いに応えてくれたのがライガーこと山田と船木であった。
鈴木はやがて船木と共に関節技の鬼と呼ばれた藤原義明を慕い新日を脱退。ますます格闘技志向を強め、ついには船木と共に格闘団体パンクラスを設立。ここで強い者が勝つという理想を実践した。しかし、それは過酷な道であり、鈴木は脊椎を痛めてリアルに戦うのが厳しくなり、若手にも負ける始末。
いさぎよく引退を覚悟し、その引退試合の相手として若手時代に激しくぶつかり合った佐々木健介を指名。しかし健介は諸事情から辞退し、引退試合が宙に浮いてしまった。
そこで新日時代の先輩であるライガーが一肌脱いで、自分に不利なパンクラス・ルールでリングに上がってくれた。その引退試合で鈴木は勝てたが、これを契機に格闘技路線を諦め、プロレスラーとして再デビュー。
以降、鈴木組というフリー団体として新日、全日、ノアと渡り歩き、屈指の悪役レスラーとして確固たる地位を築く。その悪役ぶりは、多くのプロレスファンの罵倒に支えられ、悪役レスラーの手本ともいうべき存在になる。
だが基本となるのは正統派のレスリングだけにヘッドロック一つにしても本物の技を出す。派手な技には見向きもせず、古典的といって良いパイルドライバー一発で試合を決める。
そしてお決まりの罵声と憎まれ口のマイクパファーマンスで会場を沸かせる。世界一性格の悪いプロレスラーとは、格闘技を諦めた鈴木がプロレスラーとして再出発するための渾身のギミックである。
2019年のことだが、日本のみならず世界に於いてもジュニアヘビー級のプロレスを牽引してきた獣神ライガーが遂に引退を決めた。その対戦相手として名乗り出たのが鈴木みのるであった。
かつての先輩であり世話になったライガーであったが、鈴木の悪役ぶりはいつもと変わらず。試合前の挑発、マスク剥ぎ、憎々しげな悪役ファイトの数々で満身創痍のライガーをいたぶり、花道を飾らせる気はなく、最後は得意のパイルドライバーでライガーを倒した。
まったく動けないライガーを介助しようとしてリングに上がった若手を蹴散らしたと思ったら、大の字のライガーの横に座り一礼。一瞬、会場を沈黙に追いやった。錯覚かもしれないが、鈴木の目には涙があった気がする。
かつて新日の道場では、最後のスパーリングで根も尽き果てたレスラー同士が、座礼を交わして練習を終えたという。師匠の藤原曰く「プロレスは喧嘩じゃねえ、礼に始まり、礼に終わる、それがプロレスだ」。
悪役プロレスラー、鈴木みのるの引退はまだ先になりそうです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます