ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

塩の世界史 マーク・カーランスキー

2009-02-25 12:16:05 | 
塩がないと食事は不味い。

23の時に腎臓の機能が著しく低下して、いわゆる腎毒症に陥った。本来、尿として体内の有害物質を排出する機能が低下しているので、人工腎臓を使って尿を濾過する。これを透析と言う。

この状態が2ヶ月ほど続き、その間に食べさせられたのが、無塩食もしくは低塩食だった。

私は食べ物に好き嫌いは無いし、出された食事は残さず食べるのがマナーだと祖母に叩き込まれた。だから大概のものは食べるし、いわゆる食わず嫌いはない。

その私にしたところで、この無塩食の不味さにはめげた。低塩食は多少はマシだったが、あまりの薄味に閉口した。残さず食べたのは、食べなくては体力がつかないとの切実な想いがあったが故で、意地で食べていただけだ。

実を言うと、科学の進歩した今日でさえ腎臓の濾過機能を回復させる医薬品は存在しない。身体が持つ自前の治癒力に頼るしかない。人工透析は未だ腎臓の機能の一部を補うに過ぎない。

塩を制限するのは、塩が腎臓にかける負荷を減らすためだと主治医から説明を受けた。幸いにして私は入院3ヶ月目にして、少しずつ回復をみせ、透析を離脱することが出来た。これでようやく本来の難病の治療に専念することができた。

ただ、腎臓にダメージは残っており、そのため低塩食の習慣はつけたほうがいいとアドバイスされ、今日にいたるまで塩は控えめに使うように心がけている。

海から陸上に上がった生物の末裔だけに、我々人類は塩なしでは生きられない。ところが過剰な塩分の摂取は、むしろ健康を損なう。困ったことに、人間は塩味が大好きだ。

生きていくために必要なばかりでなく、熱烈な嗜好品でもある塩は、人類の歴史に深く関る。塩を巡り戦を起し、塩を支配して権力を維持する。

その塩に焦点を当てて人類の歴史を振り返ってみたのが表題の本だ。学生の頃は、塩の重要性なんて、まるで意識しなかったが、塩分の制限を受けてみて初めて分った。人間の食生活には塩は欠かせない。

だからこそ、歴史の多くの場面で、塩が重要な役割を果たしていたのだ。近代は、人間の活動が飛躍的に広まった時代でもある。その移動には塩は欠かせない役割を持っていた。魚の保存はもちろん、肉の保存、野菜の保存にも塩は必需品となる。戦争だって、十分な塩を確保しなければ戦うことも出来ない。

塩に着目して歴史を見直した著者の慧眼には敬服するばかりです。
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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (タク)
2009-02-25 13:42:18
そういえば、兵士ソルジャーの語源は「塩をもらう人」というと、なにかで聞いたことがあります。ソルトからきている、と。
この本もまた、おもしろそうですね。
しかし、外で食べるのも大好きなヌマンタさんには、低塩制限はつらいでしょう~。
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Unknown (kinkacho)
2009-02-25 19:10:55
塩と言えば「塩賊」
中国史をやっていると塩の密売と国家転覆とは切っても切れない間柄です。国家の命運も塩が決めてます。
kinkachoの家は薄味です。低塩しょうゆと低塩味噌をお取り寄せしています。
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Unknown (ヌマンタ)
2009-02-26 12:51:41
タクさん、こんにちは。はい、この本でもローマ帝国の兵士の給与に塩の現物支給があり、それがソルジャーの語源になったと記載されてました。

ちなみに現在は塩分制限はありません。でも、なるべく控えめにするよう心がけています。薄味でも素材の味を活かせば、けっこういけると思います。
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Unknown (ヌマンタ)
2009-02-26 12:56:48
kinkachoさん、こんにちは。中国では塩は専売品でしたから密売、密輸が横行したようですね。この本でもかなりの章を割いて解説していました。欧米の塩井がせいぜい数十メートルだったのに対して、四川では千メートルを超す塩井が掘られていたというから驚きです。

私も現在は薄味ですが、慣れるのに時間がかかりました。慣れ親しんだ味は、なかなか忘れ難いものでした。
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Unknown (あかひで)
2009-02-27 17:44:19
こちらの記事読んで「塩と言えば?」と思い立ち、ちょっと書いてみました。(笑)
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Unknown (Nishitatsu1234)
2009-02-27 18:58:17
> こちらの記事読んで「塩と言えば?」と思い立ち、ちょっと書いてみました。(笑)

肝心の、エントリーへのダイレクトリンクが貼られてないっすよ(笑。
http://red.ap.teacup.com/akahide/28.html
http://red.ap.teacup.com/akahide/29.html
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Unknown (ヌマンタ)
2009-02-28 13:55:43
あかひでさん、こんにちは。塩って、かくも人類の歴史に深い役割を果たしていたのですねェ。中世から近世のヨーロッパの人の主食が塩漬けの魚だったなんて、私はまったく知りませんでした。当然、日本でも塩をめぐる歴史的な動きはあったのですね。楽しく読ませてもらいました。
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Unknown (ヌマンタ)
2009-02-28 13:58:26
ニシタツさん、ご丁寧にありがとうございます。まだまだ知らないこと、学ぶべきことって沢山ありますね。私は塩を海から採取するものと思い込んでいましたが、塩鉱から採取することを失念してました。シナでは欧米が数十メートルの塩井だった頃に、1千メートルを超す塩井を掘っていたというから驚きです。やっぱり歴史って面白いです。
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