ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

タヌキの祠 (再掲載)

2023-10-13 13:21:58 | 旅行

下記記事は、10年近く前に拙ブログに投稿したものです。先日の投稿で「お狸様」って何かと問い合わせがあったので再掲しました。

 

深夜の国道を歩きながら、こんなはずじゃなかったとぼやいていた。

ほんの一時間前には、スケベな妄想に浮かれ、期待で胸がはずんでいた。暖かな布団と、艶かしい夜を過ごせるとニヤついていたのだ。

まだ春というには肌寒い四国の中央部を、ブラブラと歩き巡っていた大学3年の時のことだ。例によって宿には泊まらず、野宿で済ませていたが、その分食事には金をかけていた。

その夜も町外れの国道沿いの居酒屋で、遅めの夕食を豪勢に食べていた。私の食べっぷりの良さを盛んに感心していた給仕の女性が、いろいろと話しかけてきた。

既に客は私一人だし、厨房の奥の店主は片付けを始めていた。給仕の女性に勧められた地元の酒を飲み交わしながら、この後うちで飲まないと誘われた。年は30?いや40代かもしれないが、妙に色っぽい女性だった。旦那は今夜は帰ってこないはずだからとの言葉が、私を舞い上がらせた。

店を出て信楽焼きのタヌキの像の前で少し待ってから、彼女の車で家にむかったまでは良かった。ところが家の前にはトラックがあり、女性の顔色が変わり、ちょっと様子をみてくると言い残して車外に出た。

気になって車の窓から覗いていると、なにやら怒鳴り声がする。こりゃ、ヤバイと思い、車を出て来た道を歩いて戻ることにした。十分ほど車で走ったから、徒歩なら一時間程度で街まで戻れると踏んだ。

そんな訳で、灯りの乏しい深夜の国道を、とぼとぼと歩いていた。その気になれば、エアマットを膨らませて寝袋に潜り込めばいいので気楽なものだ。ただ、曇りがちの空が気になる。野宿であっても、やはり屋根は欲しい。

嫌な予感は当たるもので、小雨が降ってきた。まだ街は遠い。折りたたみの傘を広げて歩くものの、街の明かりはいっこうに近づかない。車で10分だと思っていたが、どうやら酔っていた私の勘違いらしい。

そんな時だった。私の目の前を小さな陰が横切った。その陰は街路灯の下で立ち止まった。なんとタヌキであった。

本来警戒心の強いタヌキがなぜ、車道に出てきたのか分らないが、そのタヌキは私の前10メートルほどを歩き続けた。そして、なぜか私を振り返って見やるのだ。

深夜の山のなかだし、多少酔っていた私は、タヌキにバカされているのかと憤慨したが、正直言うと少し嬉しかった。なんとなく運に見放されて、寂しい気持ちだったので、タヌキの存在が気持ちを癒してくれたからだ。

既に時計の針は0時をまわっており、私も眠気に襲われだした頃だ。急に立ち止まったタヌキが、再び私を振り返ったのち、急に山側に入り込んだ。

その場所に追いつき、横を見ると踏み固められた小道があった。不思議に思い、その小道に分け入ると、その先に祠があった。ありがたいことに屋根があり、私が潜り込める程度のスペースもあった。

全身を伸ばすほどの広さはなかったが、それでも雨に濡れずに一夜を過ごすことは出来そうだ。で、ふと気付くと、タヌキの姿はどこにもない。礼ぐらい言っておくべきだったと思うが、睡魔には勝てずそのまま寝込む。

翌朝、日の明るくなったことに気付き、寝袋を出て祠の外に出てビックリ。昨夜夕食を食べた居酒屋の裏手だった。寝袋を片して、駅へ向かうため国道を下り、居酒屋の前に出ると店主に出くわした。

「あんた、大丈夫だったのかい」と尋ねられたので、事情を聞くと昨夜遅く給仕の女性の旦那が怒鳴り込んできて、私を探していたらしい。怒鳴り込んだ時刻は深夜零時過ぎだというから、丁度私が祠に潜り込んでいた頃だ。

どうやらタヌキに助けられたらしい。その話しを店主にすると、嬉しそうに「そうかぁ、まだ居たのか」と信楽焼きのタヌキ像をなでながら肯いている。緑豊かなこのあたりでも、タヌキはそうそう見かけるわけでもないらしい。「学生さん、はやく電車に乗って行っちまいな」と言われたので、早々に立ち去ることにした。

なにもしてないのに恨まれても困る。こんな時は逃げるに限る。唯一、タヌキにお礼が出来なかったことだけが残念だ。
私は駅に着くと、すぐに電車に飛び乗り、金比羅様に向かった次第。お賽銭に色をつけたのは、恩返しのつもりだ。

あれから20年あまり。街で蕎麦屋の軒先に信楽焼きのタヌキを見ると思い出す。以来、困った時の神頼みの際は、「神様、仏様、おタヌキ様」と唱えることにしている。おタヌキ様様である。


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3 コメント

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Unknown (ヌマンタ)
2023-10-16 09:01:58
馬鹿も一心さん、了解しました。いろんな方、いますね。まぁ私も掲示板やブログは長いので、あれこれ経験してますが、楽しくないこともあったものです。小説は週末にでもゆっくり読ませて頂きます。
返信する
Unknown (馬鹿も一心。)
2023-10-15 17:24:46
只今、メールしました。
返信する
Unknown (馬鹿も一心。)
2023-10-15 16:06:05
プレビュー葉桜よ、もう一度を
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返信する

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