ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

川原で昼寝

2017-05-22 12:18:00 | 旅行

一歩間違えれば犯罪者だった。

5月の青空は、眩しいほどに蒼く、とてもじゃないが家にこもる気にはなれない。いや、青空とは無関係に、無性に身体を動かしたかった。じっとしていると、心がざわめいて気が狂いそうだったからだ。

23で難病にやられ、既に三年目。長期入院は終えていたが、自宅療養に切り替わっただけ。治る見通しはなく、ただ薬を大量に服薬して、眠るだけの毎日は、気が狂うほどに退屈であった。

それに昨日の電話が心をかき乱した。十代の頃の友人の結婚報告であった。もう4年以上、連絡とっていなかったのに突然かかってきた電話であった。多分、舞い上がっていたのだろう。それは嬉しそうな声であった。正直、結婚の報よりも、係長に昇進した話のほうが心に堪えた。

私は当時、平静を装うことを心がけていた。内心の激情なんて、絶対人に知られたくなかった。だから月並みなお祝いの言葉と、式典への出席を約して、さりげなく電話をきった。

明日も、明後日も私は生きていることは分かっていた。でも5年後は?と問われれば、肩をすくめるしかない現状で他人の幸せは、時として心を引き裂く。まだ二十代前半で、世の中から置き去りにされる孤立感と焦燥感は、確実に私の心を病ませた。

床に就き、暗闇を見詰めながら「狂ってしまえば、楽になれるかな・・・」などと独白してみる。分かっている、狂ってしまうには、私は冷静に過ぎる。激情を表に出すのを極端に抑制する性分が、今にして恨めしい。

基本、楽天家の私は一晩寝てしまえば、昨日の気分を引きずることはないのだが、今回はダメだった。こんな時は、身体を動かすに限る。本当は安静を守るのがイイのだが、心が耐えられない。

幸いにして日差しが眩しいほどの晴天であった。自転車を漕ぎ出し、多摩川まで走り、川沿いのサイクリングロードを走らせる。風は微風であり、絶好の自転車日和であった。

府中近くまで走り、コンビニでお弁当を買い、川原で昼食をとる。昨日までの鬱屈が、汗とともに流れ出たような気持ちである。やはり、基本私は脳みそ筋肉系なのかもしれない。

ただ、体力の衰えは如何ともし難く、満腹感と共に急速に眠気に襲われる。人目につかなそうな茂みをみつけ、そこに銀マットを広げ、お日様の下でのお昼寝である。

多分、小一時間は眠ったと思うが、足音が地面から伝わり、ぼんやりと目を覚ます。足音のほうへ首をひねると、ショートパンツとTシャツ姿の若い女性が十メートル先で、私に背を向けて座り込んでいる。

いや、坐っているのではなく、草むらで小用を足しているようなのだ。あの水音は間違いない。多分、私のことを見過ごしていたのだろう。

さすがにビックリして目が覚めた。が、困った。私は人並みにスケベだし、同世代の若い女性に興味がないなんて、口が裂けてもいえない。しかし、スケベはスケベでも正統派だと思っている。

いわゆるスカトロ趣味は皆無である。草むらの丈がけっこうあるので、上半身は見えないが、下半身は丸見えである。まさか、大きい方はないよなァと、一応悩んでみる。

この時点で邪な考えがなかったとは言えない。首をひねって注視していたのは確かだしね。ただ、ここで初めて自分が痴漢行為をしていることに気が付いた。こりゃ拙い。どう言訳しても、バレたら警察行きだよなァ。

寝っころがって悩んでみたが、なんだか面倒臭くなって、再びまぶたを閉じて寝ることにした。20代の若者としては、いささか情けない気もするが、疲労感と睡眠欲の方が重要だった。

次に目が覚めた時は、既に日が傾いており、周囲には人気はなかった。件の現場を確認する気もなく、自転車を置いた場所に戻り、夕暮れ時の川原をひたすら走り、夜には帰宅した。実家で夕食を食べ、家に戻り入浴すると凄まじい疲労感で、そのまま熟睡してしまった。

翌朝、起きた時も、まだ疲労感は残っていたが、精神的には快適であった。なまっ白いお尻を見ただけなのだが、こんな他愛無いことで、気分が変るのだから、我ながら呆れるほどにおバカである。

いや、バカだからこそ、あんな苦しみのなかでも生きていられたのだろう。もう少し賢かったら、あるいは誇り高かったら、きっと自殺でもしていたかもしれない。

最近は忙しくて、多摩川沿いのサイクリングもご無沙汰だが、いつか暇があったら再び走ってみたいものだ。


コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 戦火の兆し | トップ | ワイルド・スピード アイスブレイク »

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (青蛙堂)
2017-05-23 23:59:43
ヌマンタさんのタフさが感じられたエピソードたでした。
さて…私は20の時に女性の御開帳に遭遇しました。別に嫌らしい事はしてません。喫茶店の共用トイレのドアを開いたら、目前で白人の若い女性が用をたしておられました。
頭の中は真っ白になり、どうして良いのか解らないので、とっさに敬礼してドアを閉めました。幸いに騒ぎになりませんでした。ただ…その女性が目を丸くしていた記憶しかない。
それで帰隊してから仲間にさんざんにからかわれただけでした(笑)
返信する
Unknown (ヌマンタ)
2017-05-24 12:15:55
青蛙堂さん、こんにちは。とっさの出来事って、上手に対応するの、難しいですね。私の場合、寝起きであったことと、まったくの予想外の事態に困惑して、そのうち面唐ノなって寝て誤魔化しただけですけど。
返信する
Unknown (ヌマンタ)
2017-05-25 13:15:20
ニシタツさん、こんにちは。けっこう仮面の必殺技ですね。あまりに露骨すぎると、むしろ厭らしさは低減します。ちょっと見えるくらいのほうが、厭らしさはいや増します。まァ、ギャグ漫画ですから、いいんですけどね。
返信する

コメントを投稿

旅行」カテゴリの最新記事