入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「冬」(10)

2020年11月14日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 好天がきょうも続いている。厳しい季節の到来を思わせる真っ青な空、その下に拡がる幾重もの山並み、落葉をかろうじてこらえている木々もあれば、すでに葉を落とし尽くした広葉樹もあり、森や林はめいめいが冬に向かって慌ただしくその様相を変えつつあるようだ。
 昨日、恐らくそれが今年最後の機会となるであろう小入笠へ久しぶりに登った。冬対策を施した電気牧柵の最終の点検の為だったが、幸い鹿による断線などの被害は殆どなかった。雪による支柱の折損を避けるため、急な斜面に打ち込んだ支柱は抜いておいたが、それらを何本かにまとめ、保管しながら登っていく。来春には目印にしてあった杭や木の枝を除き、またそれらを1本づつ打ち込み、アルミ線を張っていく。そんな毎年の仕事のことが、何だかそんな日が来るのがいつになく遠いことのように思えた。もう今から、冬を飛び越し、春を待つ心境にでもなっているのかも知れない。
 小入笠の頭で一息を入れ、そこからの眺望を目にしながらしばらく、次々と頭の中を擦過する記憶を相手にした。風はなく、鳥の声もせず、無音である。その静けさが却って音のように聞こえていた。遥かな北アの名峰や、目の前の広大な空間、とりわけ山肌の複雑な色模様を目にしていると、他人の知らない秘密でも弄んでいるような気分になって、事実そんな記憶も釣られて甦ってきた。それほど昔のことではない、しかし最近のことでもない。一度目にしただけでも忘れられない風景、そんな思い出が誰にでもある。
 下りかけて、諏訪湖が見えた。その周囲を取り巻く人口的な街の密集を別世界のように感じ、それは山から帰ってきて、新宿や上野の駅に列車が到着する時に決まって味わった重い退嬰的な気分と似ていた。あのころはそれでも、その帰っていきたくない都会で生きていくしかなかったが、しかしもう、そんな必要はない。入笠牧場があって、それで得ることのできた今の生活である。ここの環境と自然と、それに誰にというわけではなかったが思い付く幾人かの人に感謝した。

 かんとさんが一昨日から来ている。来るのを1週間思い違いしていたせいか、信じられないような好天だった。珍しい限り。これで彼も雨男を返上すると信じたい。
 こんな素晴らしい天気だというのに、それに土曜日だというのに、通る人は一人もいない。ムー。
 本日はこの辺で。明日は沈黙する日です。

コメント
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