入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「冬」(19)

2020年11月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牧場から下ってきて10キロ少々手前にこの第2堰堤がある。さらに山室川に沿って谷の中を10キロ以上も走らないと国道152号線の一部である「杖突街道」に出ることはできない。この間に廃村となった芝平、過疎化の進んだ荊口の集落があり、そして高遠の街を抜けてもまだ10数キロを走る。そうでないと、帰るべき所に着くことができない。
 帰路ともなれば今の時季、この辺りはすでに夜の帳に包まれて、寒空に眉月を眺めながら家路を急いだのも、まだついこの間のことだった。夜の山道を嫌う人がいるが、そういうことはない。むしろ好きだ。夏のころのように、まだ明るいうちに帰るよりか、狭い谷の中から星空を眺めながら帰る方が、快い安堵感が身体中に沁みてきていいものだ。
 今年は夏のころから里に下るのを止め、もっぱら山の中で暮らした。HALがいなくなったら、家に帰る理由が殆どなくなってしまったからだが、この片道38キロの道中で見たり感じたりすることが、結構大事であったことを後になってやんわりと気付かされた。言い方を変えれば、この道中があったことが、14年の牧場勤務を支えてくれたのではないかとさえ思う。
 この堰堤を下れば程なく舗装路になる。それでも道は狭く、かなり悪路であることに変わりはない。上りはオオダオ(芝平峠)まで3キロほどは未舗装の山道で、一時は「車が壊れてしまう」と言うほどの悪路であった。行くも帰りもそれにに耐えなけらばならなかったから、時にはこの山道を敬遠して、5キロほど遠回りになるが千代田湖経由の道を利用することもあった。この経路なら一応は牧まで舗装路を行けるが、しかし道中の自然が山室の谷と比べて変化に乏しく、その奥行きも感じない。歩いて登るべき登山路を、車や他の交通機関で済ませたような、なんとも味気ない気持ちになると以前にも呟いた。
 その点で山室の谷は、周囲の草木が、流れる下る清冽な水が、それらに育てられた動植物を含め、狭い谷間の印象を少しづつ変容させ、その先にいつしか新しい季節が来る。その繰り返しを毎年、日陰にまだ雪の残るころから見てきた。まさに自然の演出家の妙技の虜になって、そのお蔭で折れずに、この年までやってこれたのだと思っている。
 ただ、この独り言に誘われて来ても何もない、山の中の辺鄙で寂れた土地だという程度の感想しか持てないかも知れない。その可能性が高い。しかし、それが山を生活の場にしている者と、たまさか訪れた者との、敢えて言えば差ではないだろうか。だからもしも気紛れに手伝われ訪れることがあっても、遊子は何も語らずにそっと立ち去ってくれたら有難い、そう願いたい。
 本日はこの辺で。
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