
長い静寂の後、思い出したように風が吹く。その度に静かに霧が下りてきて、林をかすめゆっくりと北の方へと流れていく。権兵衛山はずっと白い空白の向こうに閉ざされたままで、そういえば、今朝はあの森から聞こえてくる鳥の鳴き声もしない。それに、まだ雨は降り出すのをじっとこらええているようだ。
一体どれほど、こういう同じようでそうではない景色を目にしてきたことか。森を真似て、自分も霧のような思いを吐き出しているような気になり和むこともあれば、時に得体の知れない焦慮にも駆られる。
嵐の来る前に取り敢えず牛の様子を見ておこうと外に出たら、西の方には小さいながらも青空があり、それまで東の狭い曇り空ばかりを眺めていただけに、その印象の違いに驚いた。
弁天様下の三叉路まで車で行ってから対岸を見ると、和牛もホルスも普段は鹿が好む斜面に大分広く散らばって見えていた。
小屋に戻り、車だと面倒なゲートの開け閉めを嫌い、牛たちの頭数確認には歩いて行くことにした。少し肌寒かったので、黒衣を来た。
白衣なら医療関係者でお馴染みながら、黒衣はその名の通り黒く、牧畜に携る者が身に付けるようだが、今はあまり目にしない。新品ながら東部農協時代(今はJA上伊那東部支所)のロゴが付いていて、誰かが仕舞い忘れた物だろう。
ホルスは斜面の下の方に固まって、2頭を省き、耳に付けている番号札ですぐにそれぞれを確認することができた。問題は和牛の方で、例の中間検査の時に上がってきた4頭が群を乱し、さらに上部の方に他の牛も連れて逃げるように移動していく。
冬の登路に使っている斜面を登り、第1牧区に続く広い放牧地に出たところで声を出した。調教のできている牛たちを落ち着かせるためだ。
昨日も、午前と午後の2回、同じように第2牧区を登り下りしながら歩いて頭数確認をした。それでひとまずは最低限の役目を果たしたと安堵するものの、何年やっても習い性とでもいうのか、未確認の牛がいると咄嗟に事故を疑う癖が出てしまう。つまりこれは、きょう半日だけの安心でしかない。
こんな天気なのに、歩いて登ってくる登山者がこちらに向かっていると下から連絡が入った。外人らしい。以前にも来たことがある人かも知れない。
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本日はこの辺で。