入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’23年「秋」(15)

2023年08月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 
 きょうもまた鹿の話になってしまう。昨日、第1牧区の一番西の奥にある「舞台」とか「どん底」と呼んでいる放牧地を見回りに下りていったら、車の音を聞き付けて100頭近くもの鹿の群れが逃げていくところだった。写真を撮る間もなく、ただ呆れて見送るしかなかった。
 第1牧区には牛を出していないから、放牧地はまさに野生鹿の独壇場である。しかも、憂鬱なことにあの数がまた来年になればもっと増える。

 罠の中の鹿のことについても思いがけないことがあった。一応、追い出しを試みたのだが、ゲートの際まで行っても、まるであの鹿には頑丈な扉によって出口が封じられているようにでも見えるのか、どうしてもそこから出ていこうとしない。
 その後、罠全体を見下ろせる第2牧区の高台の斜面から見ていても、どちらの鹿もゲートの近くまでいくのだが、また踵を返してしまうという不思議な行動を繰り返す。
 下と連絡を取り合い、罠を仕掛けずしばらく様子を見ることにしたのは、この後のことだ。

 ところが、夕方、もう辺りは薄暗くなっていたが、1頭の鹿が扉の前に近付いたのが小屋の近くのキャンプ場から見えた。200㍍くらいの距離はあったろうか、試しに両手を強く打つと、その音に促されるようにしてその鹿は呆気ないほど素直にゲートをくぐり外へ出ていった。
 なぜ、追い立てられても頑ななまでに罠から出ようとしなかった鹿が、まるで別の鹿のような行動を見せたのか、分からない。残りのもう1頭も中にいるのか、すでに脱出したのかはこれまた分からなかった。

 罠の中に入るのを怖れる鹿たちはいる。しかしあの2頭の鹿たちはまるで逆の行動をとって、外へ出ることを怖れた。
 群の中で他の鹿に迫害されて逃げ出してきて、偶々快適な環境の罠の中に迷い込み、それを罠とも知らずに自分たちの縄張りにでもしようとしたということだろうか。鹿の生態については分からないことばかりだ。
 鉄砲よりか罠の方が捕獲効率が高いことは段々と知られるようになったが、増え続ける鹿に対してそれだけではどうにもならない現状を、どう考えているのか専門家や行政に問いたい。
 
 本年度の営業案内については下線部をクリックしてご覧ください。
 小屋の電話が不通でご不便をおかけしてます。予約、問い合わせは何卒JA上伊那東部支所組合員課、電話0265-94-2473にお願いいたします。
 本日はこの辺で。

 
 


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     ’23年「秋」(14)

2023年08月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 たとえ夜中でも、ここは無音というわけではない。電気牧柵へ数千ボルトの電気を送るカツ、カツという音が絶えず間欠的に聞えてくる。しかし、その音も慣れてしまえば聞えないも同じように脳が修正してくれるから、深夜の静寂、孤独感は保たれて耳障りというほどではない。むしろ時には、この機械的な音が闇の中に吸収されていくのを、より夜の深さと感ずることもある。

 そんなことを呟いているうちに、夜が白み、明けてきた。きょうはいい天気になるようだ。
 昨日の夕暮れ時、第2牧区へ再度牛の様子を見にいった帰り、道路を挟んだ眼下の囲い罠を注視しても鹿の姿は確認できなかった。昼間、1頭増えて2頭が中にいたから、新たな仲間になった鹿に連れられてようやく外に出たのだろうと思いながら急な斜面を下ってきた。
 追い出せば、出された方は当然ながら恐怖を覚える。そして、2度と囲いの中には入ろうとしなくなるかも知れない。しかし、もしもそれが自発的な行動であれば、また仲間を連れて戻ってくる可能性も充分にある。牧草も豊富だし、塩や水もあり、あの2頭の鹿は結構囲いの中を気に入ってるようにさえ見えた。

 きょうは予定通り罠を仕掛ける。捕獲頭数は相手次第であるが、できるだけ多くの鹿を捕るために仕掛けのやり方、誘引に使う塩の置き方、量などを、経験と勘を頼りにやることになる。
 そんなことを考えながら今朝小屋の外に出てみたら、いなかったはずの鹿がまた罠の中にいる。夜のうちに戻ってきたのだろうか、あまり怖れる風を見せない。面倒なことになってきた。昨日呟いたような事態が考えられる。
 きょうはキャンパーも来る。森林管理署の職員も来る。いつもの頭数確認に加え牛たちには給塩をする日だし、ゴミを燃やすことも予定に入っていた。下にもきょう罠を仕掛けると予告してあるから、週末の捕獲が期待されているだろう。

 何とそんな中、偶然にも県の獣害対策室というところから、牧場の周辺に鹿の様子を探るために監視カメラを設置したいという連絡が入った。もちろん異存はないがこういう場合、県の職員がそれをするのではなく、専門の業者に委託されるので、その関わり方が大いに物足りない
 いい機会だと、最近の鹿対策に関して行政に日ごろ感じていることを言い、立ち会うから牧場の外よりかも中にカメラを設置すべきだと伝えておいた。そして、電話を架けて来たご本人(女性)も実際の現場に来て、実態を知るべきだとも。

 結局、下とも相談した結果、まだ罠を仕掛けずに3,4日、中の鹿の様子を見るということになった。

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     ’23年「秋」(13)

2023年08月17日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 
 台風は去ったというのに空模様は変らず、きょうも曇天が続いている。久しぶりに霧の中から鳥の声が聞こえてくるが天気は下り坂のようで、この分だと雨になるかも知れない。気温は暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい。
 
 囲い罠の中にはまだ1頭だけ鹿がいる。あの鹿は、罠のゲートが開いているのを知っていながら逃げていくことができないでいるのだ。上から落ちてくる所謂「断頭台型式」のゲートに対してはどの鹿もかなり警戒するが、この鹿は特に臆病のようで、ゲートの近くまで行っても未だに決心できないでいる。
 アレが中にいる間は罠を仕掛けるのを控えてきたが、いつまでもそうしているわけにもいかなくなってきた。きょうあたり、追い出すしかないだろう。
 あの鹿が誘引用の塩を目当てに仕掛けに接触しただけてもゲートは落ち、罠は閉じてしまう。そうなれば、捕獲したも同然のたった1頭の獲物にさらに罠を仕掛けたことになり、その結果は他の鹿の捕獲の機会を封じてしまうことになる。ましてや、たった1頭の邪魔ものを始末するために、下から鉄砲撃ちにお越しを願うことなどできない相談でもある。

 また一段と霧が濃くなってきた。鳥の声もしなくなった。マルバタケブキの黄色い花だけが見通しの効かない灰色の空間に目立って、時間があの霧のようにゆっくりと流れていく。
 先程からずっと名前を思い出せないでいたが、イタドリの葉が少し色付き始めているのに気付いた。落葉松の木はそろそろ水の吸い上げを止めるようになるだろうし、盆が過ぎたから、里を流れる天竜川の川面もその色を変え、何となく流れの音も寂しく聞こえるようになるはずだ。
 そう言えば、先日里へ下った時、松倉の集落でたくさんのコスモスの花が咲いているのを目にした。いつもの秋ならその花を廃屋の目立つ芝平の谷で目にするのだが、6月の大雨以来、あの集落を抜けてオオダオ(芝平峠)へ通じる道は通行できなくなってしまった。この秋は一つの馴染んだ風景が消えてしまう。

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     ’23年「秋」(12)

2023年08月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 Photo by Ume氏

 約1週間、盆の休みも含めて台風7号の情報に翻弄された。被害も出た。亡くなった人もいた。江の島の海岸では、あれほど注意喚起がされていたのに海水浴に興ずる人たちがいて、それをテレビが写す。
「行くな」と言っておいてああいう人たちの姿をわざわざ見せれば、同じことをしようとする人がまた出るだろう。増える可能性だってある。そして事故が起きればまた非難めいた口調で報じるのだろう、顔をしかめて。

 囲いの中に鹿が3頭入っている。昨日も1頭を確認している。まだ仕掛けはせず誘引だけにしているが、そろそろ捕獲を考えても良さそうになってきた。
 そもそも牛たちを管理の難しい第2牧区へ持っていったのは、鹿の捕獲のために囲い罠と第4牧区を空ける必要があったからだ。牛が牧区内にいるのに罠を仕掛けたり、捕らえた鹿をズドン、ズドンとライフルで撃つわけにはいかない。
 もっとも、いつも言ってることながら、それで有害動物に指定されてる野性鹿の駆除にどれほど繋がるかははなはだ心許ない、分からない。鹿は、トリカブトのような毒性の強い草でも、それに対する耐性が次第に体内で作られていく動物らしいから、それで産めよ増やせよをやられたら、ここでの捕殺効果など高が知れている。

 ウクライナからの客人は昨夜33歳の誕生日を終えて、今夜もう1泊するようだ。管理人としてはもうすぐ父になる彼のために、台風対策を万全にして、何事も起こらないようにしておいた。
 年齢差ナント42、それでも知識はなかなか豊富で知らないことをいろいろと教えてもらった。ただ、今彼の母国で起きていることについてはあまり問わず、控えておいた。彼は長い間国を留守にしているし、興味本位で話題にするには気の毒だったからだ。
 
 昨日は「スラブ人」などと呟いたが、あの広大な土地を領するのはスラブ系ばかりでなくトルコ系もいればユダヤ系、その他もいる。宗教も「正教」ばかりか、イスラム教の信者は相当の数になるというし、ユダヤ教信者もいる。
「ソ連」と言って、「ロシア」と言って、これまでアメリカと並ぶ二大強国として主に表面的な政治や軍事力にばかり関心が傾き、あまり深いことは知らないまま来た。ただ残念ながら、もう、この深い鬱蒼とした世界に入っていくだけの気力はない。

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     ’23年「秋」(11)

2023年08月15日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 昨日の朝よりか雨風は強まってきたようだが、それでもまだ台風の接近を思わせるほどではない。クリミア半島で10日間のキャンプ経験があるというK氏の一人用テントがそぼ濡れて、あの国の人たちのように気の毒な姿を晒している。

 昨日、ここに3時ごろ到着すると知らせてきたK氏は、予定よりか少し遅れてやってきた。コーヒーを出しながら出身地を尋ねれば「ウクライナ」だと応えた。一瞬そういう国があるなと思いきや、ややあって、あのウクライナかと改めて国名を認識し、驚いた。8年前に筑波大学の院に入り、そこで経営学の博士号を取得したという。
 よりによってこんな山の中に、それも大型の台風が明日にも来るという時に、まさに世界中がその行方を案じ、関心を寄せている国からの来訪者である。何でも翌日、つまりきょうが、彼の誕生日であり、それを一人で寿ぐために台風を承知の上でやってきたのだと。
 
 妙に、こういう話題性のある人、事件に縁があるような気がして、昨夜はまた小宴を張り、ここ数日の酒量を気にしながらも二人で歓談した。
 何しろ、あんなことが起きなければ、人生最後の海外旅行はまだ行ったことのない欧州、それも主にかつてハップスブルグ家が威光を放った東欧と呼ばれた国々を訪れ、帰路はシベリア鉄道に乗り頭がおかしくなるほど退屈してみたいと考えていたからだ。それを諦める羽目になったのは、あのロシアによるウクライナ侵攻である。

 話しをしていてどうしても、ロシアやウクライナを旧ソビエト連邦というくくりで捉えてしまうというのが、極東の島国の牛守である自分だと気付いた。
 しかし、かつては連邦を構成したウクライナもキリギスもベラルーシも、今は独立した国々である。日本と韓国は全く別な国であるし、あるいは台湾が中国とは別な独立国であると主張するように、ロシア民謡やロシア文学を大雑把に「ロシア」とひとくくりにして語られることに、K氏は相当に抵抗があると感じた。
 トルストイも、ドストエフスキーも、ゴーリキーも、はたまたショーロホフも、イエフトシェンコーも、シェフトフも、一体本当はどこの国に生まれた人か知らない。みんな「ロシア」で済ませてきた。チャイコフスキーなどの音楽家もやはりそうだ。
 フムー、これも悪い言葉を連想するかも知れないが、「スラブ」の方が彼の耳にはいくらか響きがよく聞こえるだろうか。

 小宴は今夜も続くかも知れない。台風来襲の夜に祝う誕生日に相応しい話題とは、さて何だろう。
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