「まるまる、フルーツ」には 42人の作家の作品が入っている。
「はっさく、ぽんかん、夏みかん」は 川上弘美の作品。
はっさく。ぽんかん。夏みかん。ネーブル。いよかん。グレープフルーツ。
川上さんのお母さんは
そんな季節の柑橘類を皮をむいて房にし
保存容器に入れて常備してくれていたそうだ。一年中。
冷蔵庫を開けると いつも、剥いたみかん、が入っている。
何だか夢のようなお話です。
私にも みかんで思い出す人がいた。
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学校の保護者会に行って、見慣れないお母さんが座っていることに気が付いた。
転校生のお母さんだった。誰かに確認したわけでなく、その様子のよさにそう思ったのだった。
我々は 普段着のカットソーにパンツやスカートみたいなラフな格好がほとんどだったから
彼女の 穏やかなツーピース姿はとても目立っていた。私がもし逆の立場だったら、そこまでの心遣い?ができたかどうか怪しくてドキドキしたことを覚えている。
子ども同士が同じクラス・同じ部活になり、届け物の所用で彼女の家に一度行ったことがあった。
玄関の続きの廊下に 開いた段ボール箱がいくつも並んでいて、
中身は みかんだった。
出身が和歌山とのことで ふるさとから送られてきたというそのみかんは
驚いた事に 箱ごとに違う種類だった。箱は 七つも八つもあったのに。
「よかったらもらって。」と渡されたみかんの名前を忘れないように唱えながら、うちに帰った。
引っ越して来たら よく虹を見るようになった。
別の時に 彼女がそう言って、そんな風に考えたことがなかったので不思議な感じがした。
いつかもう一度虹の話を聞いてみよう。そう思っているうちに時が流れ、
転勤族だった彼女のおうちは 西の方へ もう一度引っ越されていった。