■岡田市長が、平成20年11月13日に、未来塾が提起した平成20年(ワ)第492号損害賠償等請求事件の第1回口頭弁論に安中市の代表者として、弁護士や市職員らをひとりも連れずに法廷に乗り込んで自説をぶちあげ、傍聴した市民はもとより、裁判官まで唖然とさせられたことは報告済みです。
でも、これは今回は初めてではありません。当会では、岡田市長が、安中市議会議員時代に、安中市土地開発公社の役員を2期に亘って就任した期間に、既に元職員の多胡邦夫が横領をしていたにもかかわらず、それを見抜けなかったばかりか、むしろ多胡邦夫と非常に深い関係を築いていたことは、刑事事件の資料から知ることが出来ました。しかし、岡田市長は、51億円事件のことについて全く語ろうとしないばかりか、「二度とこのような不祥事は起こしません」と反省をした公社の他の役員や職員らを尻目に、あろうことか、住民訴訟を提起した当会に対して、敗訴判決を出すように裁判所に圧力を掛けました。
前橋地方裁判所の裁判官も、岡田市長(当時群馬県議)の政治的圧力に屈し、当会はもとより、当会が起用していた弁護士も知らないうちに、突然、住民敗訴判決を出しました。
当会はさっそく岡田義弘氏(当時群馬県議)を相手取り、東京高裁に控訴しました。そして、平成11年9月10日に第1回口頭弁論の日を迎えたのです。その時の裁判の様子を報告します。
■巨額公金流失追及住民訴訟事件(前橋地裁平成11年(行ウ)第2号)は、群馬銀行と安中市が歴史的な「百年ローン」で和解を締結してから58日目の平成11年2月5日に、住民監査請求を安中市監査委員に提出して、同年2月16日に「不受理」とされたため、同年3月12日に提訴した事件です。初公判は同年5月19日に開かれました。
第2回公判は同年7月14日に行なわれ、以降、第3回公判が9月1日、第4回公判が10月20日、第5回公判は同年12月8日に、第6回公判は2000年2月9日に聞かれました。
第7回公判は同年3月17日に開催予定でしたが、5月31日に延期になり、その後、7月19日に再度延期となりましたが、裁判所から取下げの話が原告被告双方に持ち掛けられ、公社側も、再発防止に全力を尽すから、ということで、取下げの方向で手続が進められてきました。その結果、2001年5月7日に取下げ手続が原告と公社との間で行なわれましたが、公社元役員の岡田義弘氏が、ただひとり取下げに応じない事が判りました。
そのため、再度、立証活動からスタートするのかと思っていたところ、2001年6月20日に突然、前橋地裁が判決を下しました。判決は、原告住民の訴え棄却、即ち原告敗訴。原告住民に判決日なども聞かされておらず、全く寝耳に水の判決でした。
そこで、急速、岡田義弘氏を相手取り、東京高裁に控訴することになり、2001年7月4日に控訴状を前橋地裁経由で提出。その後、控訴理由書を8月14日に送達し、9月10日の第1回口頭弁論を迎えたのです。控訴理由書は本項の最後に掲載してあります。
■巨額公金流出追及住民訴訟控訴審(平成13年(行コ)第161号)の開催された2001年9月10日。台風15号が東海沖に接近というニュースを聞きながら、ひらく会のメンバーで構成される住民原告団4名(1名は都合で不参加)は、風雨の中、安中市民センターの駐車場に朝8時半に集合し、乗り合わせて、高崎駅に向かいました。9時出発のアーバン号で上野に向かい、それから山手線に乗り換え、11時半頃有楽町で下車しました。
昼食後、地下鉄有楽町線に乗り換え、一駅目の桜田門で下車。東京高等裁判所は、そこから歩いて5分ほどで到着しました。8階の822号法廷の向かい側にある一般待合室には、12時半に到着。1時半の開廷を待ちました。
12時50分頃、被控訴人岡田義弘氏が緊張した面持ちで待合室に現れました。ベンチに座るとしきりに、メモを見ていました。おそらく、事前に弁護士が書いたコメントに目を通して復唱しているに違いありません。一通りメモに目を通すと、せわしなくあたりに視線を走らせていました。
■午後1時になったので、822号法廷に移動しました。午後1時から1件、午後1時15分から3件、そして私たちの裁判は午後1時半からです。
法廷の中に入り、原告団4名の氏名を出席確認票に記入。少し遅れて岡田義弘氏も法廷に入ってきました。他の裁判の関係者も含めて、10人ほどが傍聴席に座りました。午後1時10分、書記官や筆記管が現れ、まもなく裁判官3名が入廷してきました。中央に江見弘武裁判長、右に小島浩裁判官、左に岩田真裁判官が着席。篠山裕一裁判所書記官が前に座りました。
私たちの裁判に先立つ4件の裁判は、1件が当事者の出頭がないためキヤンセルとなり、他の3件はいずれも訴訟代理人同士のやり取りの為、裁判官を含め非常に和気藹々で、スムースに進められました。
私たちの直前の案件は、アケボノゴルフと宇都宮金庫との間の訴訟で、そのやり取りの最中に、岡田義弘氏が傍聴席の右側最前列におずおずと歩み出て、裁判所の女性秘書に、なにやら書類を渡していました。「上申書云々」といっていたので、今回の裁判の答弁書や上申書をこの日に持参して、高裁に渡そうとしているようです。秘書に、「控訴人の分もありますか」と聞かれた岡田氏は「はい、二部用意してきました」と見せましたが、秘書に「被控訴人は5人居ますので人数分が必要です」と言われ、「えっ、そんなに作っていません」と岡田義弘氏。秘書は困った顔をしながらも、しょうがないという感じで岡田氏から書類を預かり、法廷の中に居る書記官の机のところに持っていきました。書記官は裁判中の案件に掛かりきりで、岡田氏の書類は机の端に置かれたまま
でした。
栃木県の事件の裁判は結審したらしく、10月17日に判決が出ることになりました。裁判官らが1、2分ほど自分の書類の整理をした後、いよいよ当会の番になりました。時間は1時40分近くになりました。
■控訴人と被控訴人が席につくと、裁判長は傍聴席に座っていたその他の原告団メンバーにも声をかけ、控訴人の席につくよう促しました。イスは三つしかなかったため、裁判所で急濾一つ追加のイスを持ってきました。
裁判長は書類を見ながら、当事者両者に対して、自分自身につぶやく感じで、「一審では双方とも代理人を使っていたんだ’ね」と言いました。
そして、原告である控訴人に向かって「この件は、損害について、弁護士報酬は市から出ていない、という公社の弁護士から書類が出ており、このことは知っているね」と確認を求めてきました。
当会は、裁判長が何のことを言っているのか分からず、「いいえ、知りません」といったところ、裁判長は「ここに来て見て欲しい」と促すので、裁判長の席の前に行くと、前橋地裁から送られてきた厚いファイルの中のページを見せられました。そこには、公社の田邊・菰田弁護士の二名が「安中市からは弁護士報酬を一切もらったことはない」という書類がファイルしてあり、昨年9月頃、見た覚えのある書類がありました。
「見た覚えはあります」と控訴人が答えると、裁判長は、そのはずだ、と言った感じで満足げに頷き、「これは弁護士が自分で言っていることだが、一応弁護士だから、ウソを言っているとも思えないので、証拠として、このように提出されているわけだ。もっとも、弁護士は公社からタンマリもらっているのだろうが…」と語ると、傍聴席から笑いが漏れました。
■これを受けて、控訴人から、次のような説明を行ないました。
「(彼ら弁護士は)ガッポリ1億円ほどもらっています。それまでオフィスを一階分しか持っていなかったのを、二階分に広げたくらいですから。しかし、この金は公社から出たもので、安中市は一切支払っていない、というのは、確かに金には番号はついているが、その金の出所を特定することはできない。しかし、公社は自力でそのような金を工面することはできない。公拡法で定められているように営利団体ではなく、安中市の債務保証、つまり連帯保証無くしては事業が出来ない仕組みになっている。銀行との民事和解で背負った百年ローンという異常な返済が既に始まっているが、これも安中市が公社に債務保証を出しているから、銀行は公社から103年もの長期間の返済に同意したわけで、その原資も、安中市が公社に事務費という形で、毎年5%を負担しているためだ。従って、弁護士に支払ったとされる1億円にしても、公社が払ったから市には損害がない、ということにはならない」。
■控訴人はさらに、「第一審では、1500万円という損害に絞ったが、それは私たちが証拠を集めようとしても一般市民なので限界があるから、その他の損害について証拠を示すことが出来ないと判断した結果、やむを得ないと判断して1500万円とした。裁判長は弁護士費用を取上げているが、その他にも、民事裁判を維持する為に必要な人件費や通信費、事務費などはあきらかに追加コストとして、その分正常な業務が妨げられたわけだから、安中市としては損失と考えられる。その点も主張したが、裁判長はどう考えるのか」と述べました。
裁判長は「その点については、争点として取上げるのは困難だと思う。日常業務と特別業務をどう仕分けるのか、困難だからだ」と言いました。
■控訴人は、「この件は、総額51億円にものぼり、警察が捜査した結果でも14億円以上が使途不明金として行方がわからないとされる異常な事件だ。本来は、銀行と市・公社との間の民事裁判の裁判費用がどうこういった問題ではない。実際に銀行との民事裁判の結果、100年以上にわたり総額24億5000万円を支払うことになり、すでに2億5000万円と毎年2000万円ずつ昨年末時点で3回、合計3億1000万円支払っている。私たちは、このような巨額な公金が外に流れたことから、住民監査請求では、これらの流失した金の損害を対象に、監査委員に調査を依頼した。それが、提訴後、一審で争ううちに、前述のような証拠入手の壁に突き当たり、損害を絞った。しかし、事件の本質はこのように矯小化されたものではない」と裁判長に説明しました。
裁判長は、「裁判官は当事者から出された証拠を基に判断する。本件は、警察が調べても14億円あまりも使途が分からなかったくらいだから、証拠がなおさら必要だ。皆さんが調べたものを我々の前に示し、事実はこうなのだか、このように、それによって、私たちは法律に基いて判断する。今回は、一審で、弁護士費用について、当の弁護士から、報酬は市からもらっていない、また、市からは損害がない、と言ってきており、それ以上、争点を拡大することは控訴審ではできない仕組みになっている」と述べました。
■裁判長は、「もし控訴人が、裁判の争点を拡張するのであれば、もう一度住民監査請求からやり直すことを勧める。これだけの大きな事件だから、住民として怒りの気持ちは理解できる。だが、裁判は一定のルールの基で行なっているのだから、その範囲でしか、我々も審議することが出来ない。そこのところを分かって欲しい」と、市民の気持ちを汲みながら、噛んで含めるように、話しました。
控訴人から、「証拠を入手して提示せよと言われたが、私たちはこれまでも、事件の真相を解明する為にあらゆる努力を払ってきた。それにもかかわらず、情報公開で行政からこの事件に関する資料を入手しようと手続をすると、ことごとく壁につき当たった。控訴に当たって、既に証拠書類として、文書取寄せの申出書を提出してある。そこに証拠は全部ある。だが、私たち市民の立場では、それらの証拠は入手できない。裁判官の皆さんの持っている権限によりそれらの証拠を入手していただけば、証拠は自ずから提示できる。ぜひ、皆さんのもっている権限を行使してこれらの資料を法廷に提出してもらいたい」と再度、お願いしました。
■これに対して、裁判長は、「我々にそのような権限はない。当事者である市民の皆さんが資料を入手して証拠として提示することになっている。情報公開が進んできたとはいえ、そうした行政情報を皆さんのような一般市民が入手するに際して、大変な困難が付きまとうことは、あちこちで聞いて知っている。しかし、そこのところを、打破するよう努力をしてもらいたい」と、一般論を述べました。
さらに、裁判長は、「このような公金流出で市民が怒り、みなさんのように立ち上がる気持ちはよく分かる。昨今の世相でも、金銭を巡る役所や金融機関での不祥事は日常茶飯事になった。さっきの裁判でも、信用金庫の金を理事長が持ち逃げした件だし…。市民の皆さんの止むに止まれぬ気持ちは当然のことだ」と、控訴人に吐露しました。このあたりの話の進め方は、前橋地裁には見られないもので、高裁の裁判官の高等テクニックを感じました。
■控訴人は、「これまでやれるだけのことはやった。今回、一審では弁護士を起用した。裁判所が起用するよう勧めたからだ。そして、裁判所の勧めで取下げに応じた。ところが、突然敗訴になった。これほどまで努力をして、なぜ、このような状況になるのか分からない。日本は法治国家だと思っていたが、それなら、そのようにきちんと裁判が機能するように、ならなければならない」と訴えました。
裁判長は「一審で争った以外のことを二審で拡張して争うことは出来ない。一審で、証拠として提出されたものを審議した結果について、二審ではそれを再度審議するが、控訴人は、それ以外の者も拡張して争うつもりなのか?そうするのか?」と、控訴人の私たちに判断を求めてきました。
■控訴人から裁判長に、「二審ではあなた方は、矯小化されたままの争点でしか、判断しないと言うことですね?」と確認を求めました。裁判長は「その通りだ」と答えました。
また、控訴人から裁判長に「裁判で追加コストとなった安中市の人件費も、あなた方は、損害として認めないのですね?」と念押しをしました。裁判長は「その通りだ」と答えました。
裁判長は「このような理由と状況なので、我々が争点を一新から拡大して審理することが出来ない理由がお分かりいただけたと思う。たぶん、控訴人の皆さんにはお分かりいただけないかもしれないが、理由は今まで話したとおり。ということで、審理はこの場で終了し、10月10日に判決を出すが、それでよいか」と畳みかけてきました。
■即答を求められた控訴人は、迷いました。いままでのこうしたやり取りを通じて、裁判所は一審で争った以外のことは、二審では争えない、という裁判の基本ルールを盾に、門前払いをしようとする意志が極めて強いことを感じました。そのため、いたずらに審議を重ねても、時間と費用の無駄と考えざるを得ませんでした。
それでも、控訴人は、この事件の特殊性をさらに強調し、証拠入手については今後も努力したいこと、行政に対して、事件関連の資料の提出を市民の立場で今後もプッシュして行くが、それにはものすごいエネルギーを費やさなければならないこと、などを若干恨み言めいて、説明しました。
そうこうしているうちに、時間がどんどん経過して、2時10分を回りました。裁判長はしきりに時計を気にしだし、「次の公判も入っているので、この辺で、控訴人として、どうするのか、はっきり答えて欲しい。このまま争点を広げて争うつもりなら、それは裁判のルールで出来ない。次回公判で判決を出すが、それでよいか?」と詰め寄りました。
■いろいろな思いが頭を一瞬よぎりましたが、司直がこれ以上審理を認めないと言う以上、判決を先送りにしても意味が無いと判断。控訴人は「やむなし!」と回答せざるを得ませんでした。
裁判長の、ややほっとした声で「それでは判決は10月10日午前10時55分から、場所はここで。それから次回は判決を読上げるだけだから、皆さんはここに来る必要は強いて無い」という発言の後、一同一礼して、法廷を後にしました。時刻は2時15分を回っていました。
私たちの裁判スケジュールは当初から、午後1時半から2時まで時間が取られていました。裁判所のほうも、市民に説明するには30分くらい時間がかかると予め予想していたようです。こうして、期待を込めて、出廷した高裁での控訴審第一回口頭弁論でしたが、あっけなく門前払いに終りました。
■ところで、40分近い口頭弁論の過程で、被控訴人の岡田義弘氏も何度か発言しました。同氏の発言内容の趣旨を列挙すると、
①裁判長様に申し上げたい。原告は憶測に基いて訴訟を起こしている。順次具体的に発言させていただきたい。
②最初、原告は、(公社関係者)25名を提訴したわけだが、その後の原告の姿勢を見ていると、めた後ずさりをしている。
③そして地裁をして、和解を提起させた。23名と和解をしているがなぜ和解をするのか。
④裁判長様、本件では原告からは、憶測以外の証拠は何も提出されていないのは真に残念だ。
⑤前橋地裁で和解を賜ったが和解をするなら、私にもその証拠は弁護士を通じて原告から提示されなければならないが、証拠の提示は無かった。というわけで、和解には同意しかねる。
⑥(一審の)提訴の中で、1億3230万円が元の金額。これを一審の中で原告は後ずさりしている。原告は、もっと証拠を出して、市民や役員の者であっても証拠を出していただき、これについてもっと事実を明らかにしていただきたい。
⑦公社の利子補給については、事務費という形で、安中市は公社に支払える。
⑧原告は、控訴理由書の中で、元職員の長期配置について、私が役員の時に長期配置を改善しなかったと言っているが、どんな証拠があるのか。憶測でしか、ものをいえない原告の勝手な判断だ。
■岡田義弘氏はこのような趣旨のことを三度に分けて発言しました。裁判長は、個別の事項をしつこく質すように言う岡田氏の真意を諮りかね、「ああ、あなたは、当時市にいた方ね。まず前段として、争点について、一審を超えた範囲では審議できない、と控訴人に対して言っているのであり、あなたが言っているそうしたことは、その後の話になる。あなたは、一審の判決に満足しているのではないのか?控訴人の請求を裁判所が却下するのを望んでいるのではないのか?」とたずねると、岡田氏は事情がよく分からない風情ながらも「うん…」と頷いていました。
岡田氏はしきりに「裁判長サマ」を連発して、事前に弁護士あるいは法律に詳しい相談者からのアドバイスどおりに、前記のような内容について発言しました。しかし、裁判長ら裁判官は、くわしく二審のルールについて説明している内容とは無関係に発言しようとする岡田氏を失笑をこらえながら見ていました。
■それを見て感じたのは、岡田義弘氏が安中市土地開発公社の理事でありながら、なぜ、私たち市民から証拠が出ないという背景に思いをめぐらせることなく、証拠も無いのに憶測だと、公社弁護士が一審の裁判中繰り返してきた言葉しか、法廷で言えないのか、不思議に思ったことです。私たちの証拠不足を指摘するより、公社役員として、タゴとの関係についてきちんと説明し、巨額詐欺横領事件の内部でどのようなことがあったのか、公職者として市民に対して、なぜ関係証拠を積極的に開示させるよう公社側に働きかけようとしなかったのか、ということです。タゴとの関係が深すぎて、「めた」後ずさりしたのでしょうか。
今回の公判で、岡田氏が、弁護士を起用するかどうかは、一つの関心事でした。結果的には、岡田氏も本人訴訟で挑んできましたが、東京高裁は、二審の審議のルールを盾に、控訴人の訴えそのものを事実上門前払いしたため、私たちが申し立てていた関係証拠の取寄せには、手が付けられませんでした。このことは、やはり、この刑事記録の法廷での開示が、関係者にとって都合が悪いと言うことを端的に示す結果と言えます。
■私たち原告そして控訴人である住民は、控訴状や控訴理由書を作成するに当たり、控訴審の審理を考えて、少なくとも控訴審の第一回口頭弁論期日までに、①原判決のどんな点に不服が存在するのか、②新たに控訴審において主張する事実はどのようなものがあるのか、を明確に主張するよう配慮しました。この点については、新たな主張であることが明確になるように記載する必要があり、控訴審の構成によっては、準備書面については、新たな主張がない限りは口頭弁論で陳述させないという取り扱いをされる懸念があったからです。
控訴審でいかなる審理をすべきか、はっきりさせないと、第一回口頭弁論期日で終結するという事になりかねませんので、それを避けるためにも、住民側としては、できる限り、第一回口頭弁論期日までに証拠の申請についても準備したいと考えました。そのため、裁判所に逸早く必要な証拠の入手を申し立てていました。
ところが、前期のように、東京高裁は、それらをことごとく考慮せず、ただ単に、二審の審議は一審での範囲を踏み出すことはできない、という理由で、完全に門前払いとしたのです。一審で途絶えた立証活動に注力し、各方面に証拠申請を出して、できるかぎり詳細な証拠を揃えたいと期待した市民は、ガッカリして、東京高裁をあとにしたのでした。
こうして、裁判の立証活動を通じて、事件の真相と責任を、解明し明確化しようとする安中市民の執念と努力は、舞台を東京高裁に移して、引き続き展開されるかと期待されましたが、実際には二審では初めから門前払いとなり、一審で迂閥にも裁判所と弁護士から取下げの勧めに安易に応じてしまったツケが、重くのしかかったのでした。
【ひらく会事務局】
<参考資料:原告住民・控訴理由書>
平成13年(行コ)第161号
巨額公金流出追及住民訴訟請求控訴事件
控訴人
群馬県安中市野殿980 小川 賢(他4名)
被控訴人
群馬県安中市野殿969 岡田義弘
原判決取消の理由書
平成13年8月14日
東京高等裁判所第1民事部御中
控訴人は、民事訴訟規則第182条に基づき原判決の取消を求める理由書を提出する。
理由
原判決のうち争点(2)において、被告に監督義務違反があるか否か、監督義務違反がある場合の安中市に生じた損害額について、「安中市が訴訟準備の為、1500万円の出損を余儀なくされた事を認めるに足りる証拠はないから、その余について判断するまでもなく原告らの主張は失当である」との判断について次の理由で取消を求める。
1.被控訴人に監督義務違反があるか否かについて
(1)被控訴人は、安中市土地開発公社(以後「公社」という)において、平成3年12月11日から平成5年12月16日まで、公社の理事として、公社の人事、事業計画及び実施決定に深く関与していた。
(2)被控訴人が公社理事に就任中の同期間において、平成8年4月8日に前橋地方裁判所平成7年(わ)第333号事件(以降「公社事件」という)の判決を受け現在も服役中と見られる公社元職員の多胡邦夫(以降[多胡邦夫」という)は平成4年3月11日に4億円、同月31日に2億円、同年9月30日に2億円、平成5年2月5日に3億円、同年3月31日に1億8000万円、同年9月30日に3億円を詐欺横領した。
(3)被控訴人が公社理事に就任中の同期間において、多胡邦夫は、平成4年2月15日に公社の受取利息99万9331円を着服、同年5月21日に、安中市が公社に振り込んだ1億140万5000円を横領、同日同じく64万541円を横領、平成4年8月15日に公社の受取利息121万8434円を着服、平成5年2月13日に公社の受取利息64万346円を着服、同年8月14日に公社の受取利息39万7998円を着服した。
(4)被控訴人が理事に就任中の同期間を含め、多胡邦夫は、安中市の公務員を含む相当数の人物らに対して、彼らの依頼に基づき、公社の特別口座から相当額を引き出し、現金もしくは骨とう品など品物を以って、彼らに便宜供与を行なった事実がある。
(5)同期間において、多胡邦夫の長期配置を解消しようと多胡邦夫の異動について提案が出されたにもかかわらず、被控訴人は多胡邦夫の継続配置に加担した。その結果、公社事件の発覚が遅れ、犯罪額を31億3000万円増大させ、安中市と公社の損害を大幅に悪化させた。
(6)被控訴人は、公社において、昭和56年12月26日から昭和58年12月20日まで、同公社の監事として、公社の決算監査に関与していた。その間、昭和58年3月31日時点の昭和57年度公社決算監査で前年度までの利益積立金が115万7360円あったにもかかわらず、剰余積立金として計上しなかったことについて、昭和58年5月27日付の監査報告書に何もコメントを付加せず、安中市と同公社に損害を与えた。
(7)以上のように、多胡邦夫と長年にわたり関係のあった被控訴人には監督義務違反がある。
2.被控訴人の監督義務違反により、安中市に生じた損害額について
(1)公社は、公有地の拡大の推進に関する法律(以後「公拡法」という)により設立され、その資本金にあたる基本金として500万円を安中市が出資して設立されたものであり、その役員、職員は全員安中市の公務員もしくは公務員OBであった。公社の事業に対して安中市は、公拡法により連帯責任者として債務保証契約をしている。そのため、安中市と公社は、行政政策・施策的、人事的、税務的、財務的及び経理的に連結関係にあり、公社の損害は、安中市の損害に等しい。
(2)公社には、設立者である安中市が資金その他の財産を出資している。平成10年12月9日の安中市・公社と群馬銀行との前橋地方裁判所所平成7年(ワ)第599号民事事件の和解条項締結で、安中市と公社は24億5000万円の債務を抱えるに至った。よって公社は債務超過状態に陥り、公拡法で設立された公社が、長期無利子とはいえ103年間も返済し続けるには、安中市の債務保証が不可欠であり、事実、群馬銀行との和解条項の締結では、公社に対して、安中市は公拡法第25条による支払保証をしている。安中市の連帯保証なくしては、公社の運営は事実上不可能であり、公社が債務不履行に陥れば、安中市がその債務を負うことになる。
(3)公社事件により公社の被った損害額は、歴然としており、公社が単独で債務を返済できない状況は明らかである。「安中市に損害があったというのは控訴人の憶測に基づくものである」とする被控訴人の主張は失当である。
(4)最近、全国各地の自治体が運営している土地開発公社のかかえる塩漬け土地問題など、時勢に合わなくなったため、公社の在任意義に疑問符が付けられている状況下では、近い将来解散も想定される。その場合には、既に大幅な債務超過に陥っている安中市土地開発公社の債務を安中市が負担することになる。
(4)安中市土地開発公社は、公拡法に明記された設立目的により、その事業内容から、著しい利益を上げることは困難である。また、同公社は公拡法第18条で毎事業年度の損益計算上利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋めるとされているが、同公社の繰越欠損金は、現段階で20億1000万円であると思量される。安中市土地開発公社が、その事業規模である年間数億円のうち、安中市が同公社に対して事務費等の名目で補填をしなければ、恒常的に利益、即ち返済金の原資を生み出すことは不可能である。現在、安中市は同公社に対して、事業費の5%程度を事務費として補填しており、これは公社事件にかかる債権を繰越欠損金として継続させる限り、損失補填することに等しい。債務超過状態にある同公社の運営を継続すること自体、民間の常識では考えられないことである。
(5)安中市は、公社事件発覚当時、公社事件は多胡邦夫が群馬銀行を騙した単独犯行であり、安中市及び同公社には損害が無いなどと広報により住民に説明していたが、群馬銀行から民事事件を提訴されると、弁護士を起用し、裁判に必要な諸準備のために、安中市と同公社は訴訟準備の為の提出証拠等謄写代、準備打合せの為の会議費など準備関係費用(総需要費として物品購入や食料費など、法務担当専属職員に関して出費した人件費など経費をも含む)として様々な形で費用を支出したことは、原告が第一審で主張したとおりである。控訴人は、証拠入手不足の為、一審ではやむをえず群馬銀行と、安中市・公社との間の民事事件において、その訴訟準備に必要な費用合計1500万円を損害額として提起した。公社事件に関する十分な証拠調べを経ることができれば、控訴人は安中市が被る損害額を更に詳しく特定することができる。
(7)公社事件では、公社の平職員である多胡邦夫の犯行金額は、警察の捜査の結果、最終的に51億3395万7901円に上った。一方で、捜査の結果、14億円余りが未だに使途不明金とされている極めて異常な犯罪である。この事件は、多胡邦夫の単独犯行ではなく、同公社の上司や同僚など関係者、および債務保証をした安中市の関係者、さらに多胡邦夫の血縁者、知人、公社の関係業者、金融機関等が直接あるいは間接的に犯行を幇助した結果であり、安中市が受けた被害を特定するには、これらに関する公社事件の刑事記録、および公社の理事会の議事録等を閲覧する必要がある。
3.上記にかかる証拠方法として、控訴人は、別途、必要文書の送付嘱託申立により、証拠資料の入手を行なう。
4.よって、被控訴人の主張は、まったく理由がないものであるから、これを認容した原判決は取り消されるべきものである
以上
でも、これは今回は初めてではありません。当会では、岡田市長が、安中市議会議員時代に、安中市土地開発公社の役員を2期に亘って就任した期間に、既に元職員の多胡邦夫が横領をしていたにもかかわらず、それを見抜けなかったばかりか、むしろ多胡邦夫と非常に深い関係を築いていたことは、刑事事件の資料から知ることが出来ました。しかし、岡田市長は、51億円事件のことについて全く語ろうとしないばかりか、「二度とこのような不祥事は起こしません」と反省をした公社の他の役員や職員らを尻目に、あろうことか、住民訴訟を提起した当会に対して、敗訴判決を出すように裁判所に圧力を掛けました。
前橋地方裁判所の裁判官も、岡田市長(当時群馬県議)の政治的圧力に屈し、当会はもとより、当会が起用していた弁護士も知らないうちに、突然、住民敗訴判決を出しました。
当会はさっそく岡田義弘氏(当時群馬県議)を相手取り、東京高裁に控訴しました。そして、平成11年9月10日に第1回口頭弁論の日を迎えたのです。その時の裁判の様子を報告します。
■巨額公金流失追及住民訴訟事件(前橋地裁平成11年(行ウ)第2号)は、群馬銀行と安中市が歴史的な「百年ローン」で和解を締結してから58日目の平成11年2月5日に、住民監査請求を安中市監査委員に提出して、同年2月16日に「不受理」とされたため、同年3月12日に提訴した事件です。初公判は同年5月19日に開かれました。
第2回公判は同年7月14日に行なわれ、以降、第3回公判が9月1日、第4回公判が10月20日、第5回公判は同年12月8日に、第6回公判は2000年2月9日に聞かれました。
第7回公判は同年3月17日に開催予定でしたが、5月31日に延期になり、その後、7月19日に再度延期となりましたが、裁判所から取下げの話が原告被告双方に持ち掛けられ、公社側も、再発防止に全力を尽すから、ということで、取下げの方向で手続が進められてきました。その結果、2001年5月7日に取下げ手続が原告と公社との間で行なわれましたが、公社元役員の岡田義弘氏が、ただひとり取下げに応じない事が判りました。
そのため、再度、立証活動からスタートするのかと思っていたところ、2001年6月20日に突然、前橋地裁が判決を下しました。判決は、原告住民の訴え棄却、即ち原告敗訴。原告住民に判決日なども聞かされておらず、全く寝耳に水の判決でした。
そこで、急速、岡田義弘氏を相手取り、東京高裁に控訴することになり、2001年7月4日に控訴状を前橋地裁経由で提出。その後、控訴理由書を8月14日に送達し、9月10日の第1回口頭弁論を迎えたのです。控訴理由書は本項の最後に掲載してあります。
■巨額公金流出追及住民訴訟控訴審(平成13年(行コ)第161号)の開催された2001年9月10日。台風15号が東海沖に接近というニュースを聞きながら、ひらく会のメンバーで構成される住民原告団4名(1名は都合で不参加)は、風雨の中、安中市民センターの駐車場に朝8時半に集合し、乗り合わせて、高崎駅に向かいました。9時出発のアーバン号で上野に向かい、それから山手線に乗り換え、11時半頃有楽町で下車しました。
昼食後、地下鉄有楽町線に乗り換え、一駅目の桜田門で下車。東京高等裁判所は、そこから歩いて5分ほどで到着しました。8階の822号法廷の向かい側にある一般待合室には、12時半に到着。1時半の開廷を待ちました。
12時50分頃、被控訴人岡田義弘氏が緊張した面持ちで待合室に現れました。ベンチに座るとしきりに、メモを見ていました。おそらく、事前に弁護士が書いたコメントに目を通して復唱しているに違いありません。一通りメモに目を通すと、せわしなくあたりに視線を走らせていました。
■午後1時になったので、822号法廷に移動しました。午後1時から1件、午後1時15分から3件、そして私たちの裁判は午後1時半からです。
法廷の中に入り、原告団4名の氏名を出席確認票に記入。少し遅れて岡田義弘氏も法廷に入ってきました。他の裁判の関係者も含めて、10人ほどが傍聴席に座りました。午後1時10分、書記官や筆記管が現れ、まもなく裁判官3名が入廷してきました。中央に江見弘武裁判長、右に小島浩裁判官、左に岩田真裁判官が着席。篠山裕一裁判所書記官が前に座りました。
私たちの裁判に先立つ4件の裁判は、1件が当事者の出頭がないためキヤンセルとなり、他の3件はいずれも訴訟代理人同士のやり取りの為、裁判官を含め非常に和気藹々で、スムースに進められました。
私たちの直前の案件は、アケボノゴルフと宇都宮金庫との間の訴訟で、そのやり取りの最中に、岡田義弘氏が傍聴席の右側最前列におずおずと歩み出て、裁判所の女性秘書に、なにやら書類を渡していました。「上申書云々」といっていたので、今回の裁判の答弁書や上申書をこの日に持参して、高裁に渡そうとしているようです。秘書に、「控訴人の分もありますか」と聞かれた岡田氏は「はい、二部用意してきました」と見せましたが、秘書に「被控訴人は5人居ますので人数分が必要です」と言われ、「えっ、そんなに作っていません」と岡田義弘氏。秘書は困った顔をしながらも、しょうがないという感じで岡田氏から書類を預かり、法廷の中に居る書記官の机のところに持っていきました。書記官は裁判中の案件に掛かりきりで、岡田氏の書類は机の端に置かれたまま
でした。
栃木県の事件の裁判は結審したらしく、10月17日に判決が出ることになりました。裁判官らが1、2分ほど自分の書類の整理をした後、いよいよ当会の番になりました。時間は1時40分近くになりました。
■控訴人と被控訴人が席につくと、裁判長は傍聴席に座っていたその他の原告団メンバーにも声をかけ、控訴人の席につくよう促しました。イスは三つしかなかったため、裁判所で急濾一つ追加のイスを持ってきました。
裁判長は書類を見ながら、当事者両者に対して、自分自身につぶやく感じで、「一審では双方とも代理人を使っていたんだ’ね」と言いました。
そして、原告である控訴人に向かって「この件は、損害について、弁護士報酬は市から出ていない、という公社の弁護士から書類が出ており、このことは知っているね」と確認を求めてきました。
当会は、裁判長が何のことを言っているのか分からず、「いいえ、知りません」といったところ、裁判長は「ここに来て見て欲しい」と促すので、裁判長の席の前に行くと、前橋地裁から送られてきた厚いファイルの中のページを見せられました。そこには、公社の田邊・菰田弁護士の二名が「安中市からは弁護士報酬を一切もらったことはない」という書類がファイルしてあり、昨年9月頃、見た覚えのある書類がありました。
「見た覚えはあります」と控訴人が答えると、裁判長は、そのはずだ、と言った感じで満足げに頷き、「これは弁護士が自分で言っていることだが、一応弁護士だから、ウソを言っているとも思えないので、証拠として、このように提出されているわけだ。もっとも、弁護士は公社からタンマリもらっているのだろうが…」と語ると、傍聴席から笑いが漏れました。
■これを受けて、控訴人から、次のような説明を行ないました。
「(彼ら弁護士は)ガッポリ1億円ほどもらっています。それまでオフィスを一階分しか持っていなかったのを、二階分に広げたくらいですから。しかし、この金は公社から出たもので、安中市は一切支払っていない、というのは、確かに金には番号はついているが、その金の出所を特定することはできない。しかし、公社は自力でそのような金を工面することはできない。公拡法で定められているように営利団体ではなく、安中市の債務保証、つまり連帯保証無くしては事業が出来ない仕組みになっている。銀行との民事和解で背負った百年ローンという異常な返済が既に始まっているが、これも安中市が公社に債務保証を出しているから、銀行は公社から103年もの長期間の返済に同意したわけで、その原資も、安中市が公社に事務費という形で、毎年5%を負担しているためだ。従って、弁護士に支払ったとされる1億円にしても、公社が払ったから市には損害がない、ということにはならない」。
■控訴人はさらに、「第一審では、1500万円という損害に絞ったが、それは私たちが証拠を集めようとしても一般市民なので限界があるから、その他の損害について証拠を示すことが出来ないと判断した結果、やむを得ないと判断して1500万円とした。裁判長は弁護士費用を取上げているが、その他にも、民事裁判を維持する為に必要な人件費や通信費、事務費などはあきらかに追加コストとして、その分正常な業務が妨げられたわけだから、安中市としては損失と考えられる。その点も主張したが、裁判長はどう考えるのか」と述べました。
裁判長は「その点については、争点として取上げるのは困難だと思う。日常業務と特別業務をどう仕分けるのか、困難だからだ」と言いました。
■控訴人は、「この件は、総額51億円にものぼり、警察が捜査した結果でも14億円以上が使途不明金として行方がわからないとされる異常な事件だ。本来は、銀行と市・公社との間の民事裁判の裁判費用がどうこういった問題ではない。実際に銀行との民事裁判の結果、100年以上にわたり総額24億5000万円を支払うことになり、すでに2億5000万円と毎年2000万円ずつ昨年末時点で3回、合計3億1000万円支払っている。私たちは、このような巨額な公金が外に流れたことから、住民監査請求では、これらの流失した金の損害を対象に、監査委員に調査を依頼した。それが、提訴後、一審で争ううちに、前述のような証拠入手の壁に突き当たり、損害を絞った。しかし、事件の本質はこのように矯小化されたものではない」と裁判長に説明しました。
裁判長は、「裁判官は当事者から出された証拠を基に判断する。本件は、警察が調べても14億円あまりも使途が分からなかったくらいだから、証拠がなおさら必要だ。皆さんが調べたものを我々の前に示し、事実はこうなのだか、このように、それによって、私たちは法律に基いて判断する。今回は、一審で、弁護士費用について、当の弁護士から、報酬は市からもらっていない、また、市からは損害がない、と言ってきており、それ以上、争点を拡大することは控訴審ではできない仕組みになっている」と述べました。
■裁判長は、「もし控訴人が、裁判の争点を拡張するのであれば、もう一度住民監査請求からやり直すことを勧める。これだけの大きな事件だから、住民として怒りの気持ちは理解できる。だが、裁判は一定のルールの基で行なっているのだから、その範囲でしか、我々も審議することが出来ない。そこのところを分かって欲しい」と、市民の気持ちを汲みながら、噛んで含めるように、話しました。
控訴人から、「証拠を入手して提示せよと言われたが、私たちはこれまでも、事件の真相を解明する為にあらゆる努力を払ってきた。それにもかかわらず、情報公開で行政からこの事件に関する資料を入手しようと手続をすると、ことごとく壁につき当たった。控訴に当たって、既に証拠書類として、文書取寄せの申出書を提出してある。そこに証拠は全部ある。だが、私たち市民の立場では、それらの証拠は入手できない。裁判官の皆さんの持っている権限によりそれらの証拠を入手していただけば、証拠は自ずから提示できる。ぜひ、皆さんのもっている権限を行使してこれらの資料を法廷に提出してもらいたい」と再度、お願いしました。
■これに対して、裁判長は、「我々にそのような権限はない。当事者である市民の皆さんが資料を入手して証拠として提示することになっている。情報公開が進んできたとはいえ、そうした行政情報を皆さんのような一般市民が入手するに際して、大変な困難が付きまとうことは、あちこちで聞いて知っている。しかし、そこのところを、打破するよう努力をしてもらいたい」と、一般論を述べました。
さらに、裁判長は、「このような公金流出で市民が怒り、みなさんのように立ち上がる気持ちはよく分かる。昨今の世相でも、金銭を巡る役所や金融機関での不祥事は日常茶飯事になった。さっきの裁判でも、信用金庫の金を理事長が持ち逃げした件だし…。市民の皆さんの止むに止まれぬ気持ちは当然のことだ」と、控訴人に吐露しました。このあたりの話の進め方は、前橋地裁には見られないもので、高裁の裁判官の高等テクニックを感じました。
■控訴人は、「これまでやれるだけのことはやった。今回、一審では弁護士を起用した。裁判所が起用するよう勧めたからだ。そして、裁判所の勧めで取下げに応じた。ところが、突然敗訴になった。これほどまで努力をして、なぜ、このような状況になるのか分からない。日本は法治国家だと思っていたが、それなら、そのようにきちんと裁判が機能するように、ならなければならない」と訴えました。
裁判長は「一審で争った以外のことを二審で拡張して争うことは出来ない。一審で、証拠として提出されたものを審議した結果について、二審ではそれを再度審議するが、控訴人は、それ以外の者も拡張して争うつもりなのか?そうするのか?」と、控訴人の私たちに判断を求めてきました。
■控訴人から裁判長に、「二審ではあなた方は、矯小化されたままの争点でしか、判断しないと言うことですね?」と確認を求めました。裁判長は「その通りだ」と答えました。
また、控訴人から裁判長に「裁判で追加コストとなった安中市の人件費も、あなた方は、損害として認めないのですね?」と念押しをしました。裁判長は「その通りだ」と答えました。
裁判長は「このような理由と状況なので、我々が争点を一新から拡大して審理することが出来ない理由がお分かりいただけたと思う。たぶん、控訴人の皆さんにはお分かりいただけないかもしれないが、理由は今まで話したとおり。ということで、審理はこの場で終了し、10月10日に判決を出すが、それでよいか」と畳みかけてきました。
■即答を求められた控訴人は、迷いました。いままでのこうしたやり取りを通じて、裁判所は一審で争った以外のことは、二審では争えない、という裁判の基本ルールを盾に、門前払いをしようとする意志が極めて強いことを感じました。そのため、いたずらに審議を重ねても、時間と費用の無駄と考えざるを得ませんでした。
それでも、控訴人は、この事件の特殊性をさらに強調し、証拠入手については今後も努力したいこと、行政に対して、事件関連の資料の提出を市民の立場で今後もプッシュして行くが、それにはものすごいエネルギーを費やさなければならないこと、などを若干恨み言めいて、説明しました。
そうこうしているうちに、時間がどんどん経過して、2時10分を回りました。裁判長はしきりに時計を気にしだし、「次の公判も入っているので、この辺で、控訴人として、どうするのか、はっきり答えて欲しい。このまま争点を広げて争うつもりなら、それは裁判のルールで出来ない。次回公判で判決を出すが、それでよいか?」と詰め寄りました。
■いろいろな思いが頭を一瞬よぎりましたが、司直がこれ以上審理を認めないと言う以上、判決を先送りにしても意味が無いと判断。控訴人は「やむなし!」と回答せざるを得ませんでした。
裁判長の、ややほっとした声で「それでは判決は10月10日午前10時55分から、場所はここで。それから次回は判決を読上げるだけだから、皆さんはここに来る必要は強いて無い」という発言の後、一同一礼して、法廷を後にしました。時刻は2時15分を回っていました。
私たちの裁判スケジュールは当初から、午後1時半から2時まで時間が取られていました。裁判所のほうも、市民に説明するには30分くらい時間がかかると予め予想していたようです。こうして、期待を込めて、出廷した高裁での控訴審第一回口頭弁論でしたが、あっけなく門前払いに終りました。
■ところで、40分近い口頭弁論の過程で、被控訴人の岡田義弘氏も何度か発言しました。同氏の発言内容の趣旨を列挙すると、
①裁判長様に申し上げたい。原告は憶測に基いて訴訟を起こしている。順次具体的に発言させていただきたい。
②最初、原告は、(公社関係者)25名を提訴したわけだが、その後の原告の姿勢を見ていると、めた後ずさりをしている。
③そして地裁をして、和解を提起させた。23名と和解をしているがなぜ和解をするのか。
④裁判長様、本件では原告からは、憶測以外の証拠は何も提出されていないのは真に残念だ。
⑤前橋地裁で和解を賜ったが和解をするなら、私にもその証拠は弁護士を通じて原告から提示されなければならないが、証拠の提示は無かった。というわけで、和解には同意しかねる。
⑥(一審の)提訴の中で、1億3230万円が元の金額。これを一審の中で原告は後ずさりしている。原告は、もっと証拠を出して、市民や役員の者であっても証拠を出していただき、これについてもっと事実を明らかにしていただきたい。
⑦公社の利子補給については、事務費という形で、安中市は公社に支払える。
⑧原告は、控訴理由書の中で、元職員の長期配置について、私が役員の時に長期配置を改善しなかったと言っているが、どんな証拠があるのか。憶測でしか、ものをいえない原告の勝手な判断だ。
■岡田義弘氏はこのような趣旨のことを三度に分けて発言しました。裁判長は、個別の事項をしつこく質すように言う岡田氏の真意を諮りかね、「ああ、あなたは、当時市にいた方ね。まず前段として、争点について、一審を超えた範囲では審議できない、と控訴人に対して言っているのであり、あなたが言っているそうしたことは、その後の話になる。あなたは、一審の判決に満足しているのではないのか?控訴人の請求を裁判所が却下するのを望んでいるのではないのか?」とたずねると、岡田氏は事情がよく分からない風情ながらも「うん…」と頷いていました。
岡田氏はしきりに「裁判長サマ」を連発して、事前に弁護士あるいは法律に詳しい相談者からのアドバイスどおりに、前記のような内容について発言しました。しかし、裁判長ら裁判官は、くわしく二審のルールについて説明している内容とは無関係に発言しようとする岡田氏を失笑をこらえながら見ていました。
■それを見て感じたのは、岡田義弘氏が安中市土地開発公社の理事でありながら、なぜ、私たち市民から証拠が出ないという背景に思いをめぐらせることなく、証拠も無いのに憶測だと、公社弁護士が一審の裁判中繰り返してきた言葉しか、法廷で言えないのか、不思議に思ったことです。私たちの証拠不足を指摘するより、公社役員として、タゴとの関係についてきちんと説明し、巨額詐欺横領事件の内部でどのようなことがあったのか、公職者として市民に対して、なぜ関係証拠を積極的に開示させるよう公社側に働きかけようとしなかったのか、ということです。タゴとの関係が深すぎて、「めた」後ずさりしたのでしょうか。
今回の公判で、岡田氏が、弁護士を起用するかどうかは、一つの関心事でした。結果的には、岡田氏も本人訴訟で挑んできましたが、東京高裁は、二審の審議のルールを盾に、控訴人の訴えそのものを事実上門前払いしたため、私たちが申し立てていた関係証拠の取寄せには、手が付けられませんでした。このことは、やはり、この刑事記録の法廷での開示が、関係者にとって都合が悪いと言うことを端的に示す結果と言えます。
■私たち原告そして控訴人である住民は、控訴状や控訴理由書を作成するに当たり、控訴審の審理を考えて、少なくとも控訴審の第一回口頭弁論期日までに、①原判決のどんな点に不服が存在するのか、②新たに控訴審において主張する事実はどのようなものがあるのか、を明確に主張するよう配慮しました。この点については、新たな主張であることが明確になるように記載する必要があり、控訴審の構成によっては、準備書面については、新たな主張がない限りは口頭弁論で陳述させないという取り扱いをされる懸念があったからです。
控訴審でいかなる審理をすべきか、はっきりさせないと、第一回口頭弁論期日で終結するという事になりかねませんので、それを避けるためにも、住民側としては、できる限り、第一回口頭弁論期日までに証拠の申請についても準備したいと考えました。そのため、裁判所に逸早く必要な証拠の入手を申し立てていました。
ところが、前期のように、東京高裁は、それらをことごとく考慮せず、ただ単に、二審の審議は一審での範囲を踏み出すことはできない、という理由で、完全に門前払いとしたのです。一審で途絶えた立証活動に注力し、各方面に証拠申請を出して、できるかぎり詳細な証拠を揃えたいと期待した市民は、ガッカリして、東京高裁をあとにしたのでした。
こうして、裁判の立証活動を通じて、事件の真相と責任を、解明し明確化しようとする安中市民の執念と努力は、舞台を東京高裁に移して、引き続き展開されるかと期待されましたが、実際には二審では初めから門前払いとなり、一審で迂閥にも裁判所と弁護士から取下げの勧めに安易に応じてしまったツケが、重くのしかかったのでした。
【ひらく会事務局】
<参考資料:原告住民・控訴理由書>
平成13年(行コ)第161号
巨額公金流出追及住民訴訟請求控訴事件
控訴人
群馬県安中市野殿980 小川 賢(他4名)
被控訴人
群馬県安中市野殿969 岡田義弘
原判決取消の理由書
平成13年8月14日
東京高等裁判所第1民事部御中
控訴人は、民事訴訟規則第182条に基づき原判決の取消を求める理由書を提出する。
理由
原判決のうち争点(2)において、被告に監督義務違反があるか否か、監督義務違反がある場合の安中市に生じた損害額について、「安中市が訴訟準備の為、1500万円の出損を余儀なくされた事を認めるに足りる証拠はないから、その余について判断するまでもなく原告らの主張は失当である」との判断について次の理由で取消を求める。
1.被控訴人に監督義務違反があるか否かについて
(1)被控訴人は、安中市土地開発公社(以後「公社」という)において、平成3年12月11日から平成5年12月16日まで、公社の理事として、公社の人事、事業計画及び実施決定に深く関与していた。
(2)被控訴人が公社理事に就任中の同期間において、平成8年4月8日に前橋地方裁判所平成7年(わ)第333号事件(以降「公社事件」という)の判決を受け現在も服役中と見られる公社元職員の多胡邦夫(以降[多胡邦夫」という)は平成4年3月11日に4億円、同月31日に2億円、同年9月30日に2億円、平成5年2月5日に3億円、同年3月31日に1億8000万円、同年9月30日に3億円を詐欺横領した。
(3)被控訴人が公社理事に就任中の同期間において、多胡邦夫は、平成4年2月15日に公社の受取利息99万9331円を着服、同年5月21日に、安中市が公社に振り込んだ1億140万5000円を横領、同日同じく64万541円を横領、平成4年8月15日に公社の受取利息121万8434円を着服、平成5年2月13日に公社の受取利息64万346円を着服、同年8月14日に公社の受取利息39万7998円を着服した。
(4)被控訴人が理事に就任中の同期間を含め、多胡邦夫は、安中市の公務員を含む相当数の人物らに対して、彼らの依頼に基づき、公社の特別口座から相当額を引き出し、現金もしくは骨とう品など品物を以って、彼らに便宜供与を行なった事実がある。
(5)同期間において、多胡邦夫の長期配置を解消しようと多胡邦夫の異動について提案が出されたにもかかわらず、被控訴人は多胡邦夫の継続配置に加担した。その結果、公社事件の発覚が遅れ、犯罪額を31億3000万円増大させ、安中市と公社の損害を大幅に悪化させた。
(6)被控訴人は、公社において、昭和56年12月26日から昭和58年12月20日まで、同公社の監事として、公社の決算監査に関与していた。その間、昭和58年3月31日時点の昭和57年度公社決算監査で前年度までの利益積立金が115万7360円あったにもかかわらず、剰余積立金として計上しなかったことについて、昭和58年5月27日付の監査報告書に何もコメントを付加せず、安中市と同公社に損害を与えた。
(7)以上のように、多胡邦夫と長年にわたり関係のあった被控訴人には監督義務違反がある。
2.被控訴人の監督義務違反により、安中市に生じた損害額について
(1)公社は、公有地の拡大の推進に関する法律(以後「公拡法」という)により設立され、その資本金にあたる基本金として500万円を安中市が出資して設立されたものであり、その役員、職員は全員安中市の公務員もしくは公務員OBであった。公社の事業に対して安中市は、公拡法により連帯責任者として債務保証契約をしている。そのため、安中市と公社は、行政政策・施策的、人事的、税務的、財務的及び経理的に連結関係にあり、公社の損害は、安中市の損害に等しい。
(2)公社には、設立者である安中市が資金その他の財産を出資している。平成10年12月9日の安中市・公社と群馬銀行との前橋地方裁判所所平成7年(ワ)第599号民事事件の和解条項締結で、安中市と公社は24億5000万円の債務を抱えるに至った。よって公社は債務超過状態に陥り、公拡法で設立された公社が、長期無利子とはいえ103年間も返済し続けるには、安中市の債務保証が不可欠であり、事実、群馬銀行との和解条項の締結では、公社に対して、安中市は公拡法第25条による支払保証をしている。安中市の連帯保証なくしては、公社の運営は事実上不可能であり、公社が債務不履行に陥れば、安中市がその債務を負うことになる。
(3)公社事件により公社の被った損害額は、歴然としており、公社が単独で債務を返済できない状況は明らかである。「安中市に損害があったというのは控訴人の憶測に基づくものである」とする被控訴人の主張は失当である。
(4)最近、全国各地の自治体が運営している土地開発公社のかかえる塩漬け土地問題など、時勢に合わなくなったため、公社の在任意義に疑問符が付けられている状況下では、近い将来解散も想定される。その場合には、既に大幅な債務超過に陥っている安中市土地開発公社の債務を安中市が負担することになる。
(4)安中市土地開発公社は、公拡法に明記された設立目的により、その事業内容から、著しい利益を上げることは困難である。また、同公社は公拡法第18条で毎事業年度の損益計算上利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋めるとされているが、同公社の繰越欠損金は、現段階で20億1000万円であると思量される。安中市土地開発公社が、その事業規模である年間数億円のうち、安中市が同公社に対して事務費等の名目で補填をしなければ、恒常的に利益、即ち返済金の原資を生み出すことは不可能である。現在、安中市は同公社に対して、事業費の5%程度を事務費として補填しており、これは公社事件にかかる債権を繰越欠損金として継続させる限り、損失補填することに等しい。債務超過状態にある同公社の運営を継続すること自体、民間の常識では考えられないことである。
(5)安中市は、公社事件発覚当時、公社事件は多胡邦夫が群馬銀行を騙した単独犯行であり、安中市及び同公社には損害が無いなどと広報により住民に説明していたが、群馬銀行から民事事件を提訴されると、弁護士を起用し、裁判に必要な諸準備のために、安中市と同公社は訴訟準備の為の提出証拠等謄写代、準備打合せの為の会議費など準備関係費用(総需要費として物品購入や食料費など、法務担当専属職員に関して出費した人件費など経費をも含む)として様々な形で費用を支出したことは、原告が第一審で主張したとおりである。控訴人は、証拠入手不足の為、一審ではやむをえず群馬銀行と、安中市・公社との間の民事事件において、その訴訟準備に必要な費用合計1500万円を損害額として提起した。公社事件に関する十分な証拠調べを経ることができれば、控訴人は安中市が被る損害額を更に詳しく特定することができる。
(7)公社事件では、公社の平職員である多胡邦夫の犯行金額は、警察の捜査の結果、最終的に51億3395万7901円に上った。一方で、捜査の結果、14億円余りが未だに使途不明金とされている極めて異常な犯罪である。この事件は、多胡邦夫の単独犯行ではなく、同公社の上司や同僚など関係者、および債務保証をした安中市の関係者、さらに多胡邦夫の血縁者、知人、公社の関係業者、金融機関等が直接あるいは間接的に犯行を幇助した結果であり、安中市が受けた被害を特定するには、これらに関する公社事件の刑事記録、および公社の理事会の議事録等を閲覧する必要がある。
3.上記にかかる証拠方法として、控訴人は、別途、必要文書の送付嘱託申立により、証拠資料の入手を行なう。
4.よって、被控訴人の主張は、まったく理由がないものであるから、これを認容した原判決は取り消されるべきものである
以上