■我が国の地方自治体で起きた横領事件としては史上空前のタゴ51億円事件の発覚から15年が経過した今年4月に、タゴの配偶者から、現安中市長の岡田義弘・同土地開発公社理事長に対して、「夫所有と思われる」絵画等6点を損害賠償の債務履行の一部にしたいとして、提供され、岡田理事長が同年5月に受け入れていたことが、安中市の6月21日の市議会全員協議会で報告されました。
タゴが昨年(平成21年)9月に刑期を満了したことから、いよいよ何かが起きるのではないかと予感していた当会は、さっそく平成22年6月25日付で関連情報を安中市に開示請求したところ、7月8日で一部の情報が非開示あるいは不開示とされたため、同年7月27日付で異議申立てを行っていました。
その後、3ヶ月を経過した11月29日付けで、安中市情報公開・個人情報保護審査会から岡田市長に対して次の内容の答申が為されたとの通知が当会に届きました。
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【安中市からの送り状】
平成22年11月29日
異議申立人 小川 賢 様
安中市情報公開・個人情報保護審査会
会長 釆女 英幸
情報公開の異議申立てに関する答申について(送付)
安中市長から、あなたの情報公開の異議申立てに関する諮問があり、提出された関係資料等をもとに平成22年11月12日開催の審査会において、審査した結果、別紙のとおり答申しましたので、安中市情報公開・個人情報保護審査会規則第5条によりその写しを送付します。
なお、後目、答申結果を参考として諮問機関である安中市長から今回の処分の異議申立てに対する正式な決定があります。
事務局:秘書行政課文書法規係 TEL382-1111内線(1043)
【審査会から市長への答申書】
平成22年11月29日
実施機関 安中市長 岡田 義弘 様
安中市情報公開・個人情報保護審査会 会長 釆女 英幸
平成22年6月22日付け上毛新聞に掲載された安中市元職員の巨額詐欺事件に係る記事に関係する行政文書部分開示決定処分に対する異議申立てについて(答申)
記
平成22年8月18日付けで諮問のあった標記の件について、平成22年11月12日開催の審査会において審査した結果に基づき、別紙のとおり答申します。
(別 紙)
諮問第2号
平成22年6月22日付け上毛新聞に掲載された安中市元職員の巨額詐欺事件に係る記事に関係する行政文書部分開示決定処分に対する異議申立てについて(答申)
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象である実施機関(安中市長)が行った行政文書の部分開示決定処分において、元職員の絵画等を預かっていた者(以下「保管者」という。)が所在する市町村名(以下「所在地名」という。)に係る部分は、開示すべきである。
その他の個人に関する情報に該当する部分について、安中市情報公開条例(以下「条例」という。)第7条第2号に基づき不開示とした決定は、妥当である。
また、債務履行の一部として提出された絵画等6点の写真等の情報(以下「写真等情報」という。)について、実施機関が保有していない情報として、不開示決定処分としたことは妥当である。
2 異議申立ての主張の要旨
異議申立人が主張する不服申立ての趣旨及び理由については、異議申立書及び意見書の記載によれば、おおむね次のとおりである。
実施機関は、行政文書部分開示決定通知書で、元職員等の個人情報について不開示とする理由について、安中市情報公開条例第7条第2号に該当するとしているが、
本件情報は、同号ただし書イ又ウに基づき開示することができる。
写真等情報は、現物を特定するために必要な情報であり、実際に引き取る前後に写真が添えられているか、報告書に添付されているはずである。
この写高等情報を開示又は不開示にするかは、比較考量により検討しなければならず、真贋かどうかを含めて適正な価値の情報は住民と共有化すべきである,
このため、本件文書の部分開示決定処分は、条例を不当に解釈して運用されたものであるから、処分の取消しを求める。
3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
元職員等の住所、氏名及び個人の印影の部分は、個人に関する情報であって特定の個人を識別できるため、不開示処分としたものである。
また、条例第7条第2号ただし書イに該当するとしているが、絵画等6点は土地開発公社の財産であるから、市が当該情報を開示しないことで特定の者の財産を侵害することはあり得ない。
さらに、同号ただし書ウにも該当するとしているが、「絵画等6点を知人に預けた事」自体は、元職長の公務員としての職務遂行には当たらない行為である。
安中市と土地開発公社(以下「公社」という。)は別法人であるが、市が2分の1以上出資している法人に該当するため、条例第24条第2項に基づき、その保有する情報の提供を求めたが、写真等情報は提出されなかった。
よって、公社から情報の提供がなかったため、実施機関としては不存在により情報が開示できなかったものであるから、条例に違背したものではなく適法である。
4 審査会の判断
(1)条例第7条第2号の個人識別性について
実施機関が、不開示とした情報は、具体的には元職員及び妻の住所、氏名及び印影並びに保管者の所在地名及び氏名である。
はじめに、元職員に関する個人情報から検討すると、元職員の氏名については、特定の個人を識別できる情報ではあることは明らかであるが、事件当時、新聞報道等で既に公にされていた情報でもある。
このような場合、条例第7条第2号ただし書アに規定する「慣行により公にされている情報」に該当するかについては、事件に対する市民感情は別として、事件発生から既に15年が経過したなか、元職員の氏名が現に公衆の知り得る状態に置かれており、かつ、それが社会通念上慣行と言えるものとまでは認めることができない。
過去に公表された情報であっても、時の経過により、開示請求の時点では公にされているとは見られない場合も当然あり得ることであって、本件の元職員の氏名については、刑に服し終えているという人権的な配慮も含めて不開示決定処分としたことは妥当であると考える。
同様に、元職員の住所及び印影については、公にされておらず、開示請求で公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であるため、不開示決定処分としたことは妥当である。
次に、元職員の妻の個人情報については、「元職員の妻」という情報だけで、既に個人が特定されてしまった感があるが、これは、平成22年6月22日の上毛新聞で「元職員の妻 絵6点、公社に提出」と報道されているため、本件開示請求で元職員の妻と特定されても、公知の情報として特に問題はない。
しかし、元職員の妻の住所、氏名及び印影については、特定の個人を識別できる情報であるとともに、公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であって、過去の報道等によっても明らかにされていないため、不開示決定処分は妥当である。
また、保管者に関する個人情報であるが、保管者の氏名は、特定の個人を識別できる情報ではあるが、保管者の所在地名については、一般的には特定の個人を識別できる情報とは言えず、元職員及び元職員の妻とは違い、単なるその知人という関係だけでは、個人の権利を侵害するおそれがあるとは考えられない。
そこで、保管者の所在地名の情報と他の情報を照合することにより、特定の個人を識別できるか検討すると、照合の対象となる「他の情報」とは、最高裁平成6年1月27日判決において、一般人が通常入手し得る関連情報とされており、特別な調査をすれば入手し得るかも知れないといった情報についてまで「他の情報」に含めて考える必要はない。
実施機関は、保管者の所在地名を公にすることにより、元職員の知人その他関係者であって、当該事件についての一定の情報を有する者(以下「関係者等」という。)であれば、特定の個人が識別できる可能性があるとして、不開示決定処分としたと思われるが、開示の判断基準における画一性、一義性確保のためには、原則として通常の一般市民を個人識別性の判断基準とすべきである。
さらに、本件については所在地名によって関係者等に特定の個人が識別できたとしても、関係者等にとっては、それ以前に保管者が誰であるか、知っている可能性が高いことに加え、絵画等6点を保管していたという事実だけでは保管者の権利利益を侵害するおそれは少ない。
加えて異議申立人は関係者等ではなく、特別な調査を行って保管者が特定できたとしても、それは異議申立人の推測の域を出ないものである。
このため、実施機関が保管者の氏名を不開示処分としたことは妥当であるが、保管者の所在地名については開示すべきであると考える。
(2)条例第7条第2号ただし害イの該当性について
異議申立人は、個人情報であったとしても安中市民の財産を保護するため、公にすることが必要であるから、条例第7条第2号ただし書イに基づき開示することができるとしているが、本件において当該個人情報が公にされないことによって、安中市民の財産に被害は発生しておらず、将来、侵害される蓋然性も認めらない。
また、当該個人情報を公にすることと、公社経営の健全化との関連性はないばかりか、市民として事件関係者に質問することができ、事情を説明してもらう必要があるという意見書の主張では、安中市民の財産を保護するために開示すべき個人情報であるとまでは考えられない。
(3)条例第7条第2号ただし書ウの該当性
異議申立人は、絵画等6点を知人に預けたことは、元職員が懲戒免職となった以前に為した行為であるため、条例第7条第2号ただし書ウに基づき開示することができるとしているが、その行為が、公務員として行った職務行為ではないことは明白であって、異議申立人の主張は理解できない。
なお、条例第7条第2号ただし書ウに基づき開示することができるのは、当該公務員の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分であって、公務員ではない元職員の妻及び保管者の個人情報がそれに含まれないことは言うまでもない。
(4)写真等情報の不存在について
公社は、群馬県知事の認可手続を経て市とは別個の独立した法人として設立された組織であって、条例第2条第1項の実施機関には含まれていない。
しかし、公社は資金等の面において市と密接な関係を有するため、情報公開制度が及ぶ範囲として、安中市においては条例第24条に規定する「出資法人等」としての位置づけとなっている。
実施機関の経過説明によれば、写真等情報については、実施機関が保有していなかったため、条例第24条第2項によって提出を求めたが、公社の情報公開規程第2条により、公社の経営に支障を及ぼすおそれがあると判断され、提出されなかったとのことである。
以上の事情に基づいて、本審査会としては実施機関に対し、理由説明の聴取を行ったものの、写真等情報を実施機関が取得若しく保有しているか、又は公社と共同管理している状態にあるとの確証を得るには至らなかった。
この結果、異議申立人が開示を求めている写真等情報は、公社では保有するが実施機関においては不存在と認めざるを得ず、本件不開示決定は妥当であると判斯する。
しかし、本審査会の権限として、安中市と別法人である公社の情報公開についてまで審査権限が及ぶものではないことを前提とした上で意見を述べると、当該写真等情報が公社から実施機関に提出されなかったことには、疑問が残る。
実施機関又は公社の説明によると、当該絵画等6点の真贋も不明であるため、換価処分を行う前に必要以上の情報が公にされることにより、適正な価格での取引を阻害しかねない無用な風説が流布される可能性もあり、適正な価格での換価処分が行われない場合には、公社に大きな損害を与えてしまうとされている。
確かに、インターネット等で絵画等の画像が公開されたり、犯罪に関係のある作品であることが流布されれば、競売等を実施するにあたって、少なからず影響が出る可能性は否定できないが、絵画等6点の作品名及び作者が既に明らかにされている以上、今さら写真等情報が公になったところで、その換価処分に影響が生じるとは考えづらい。
また、異議申立人に写しの交付までは認めなくとも、仮りに閲覧させるだけに留めれば、換価処分においても何ら問題は生じないと思われるため、実施機関が公社との協議で写真等情報を提出しないことを認めたのは、市の保有する情報の一層の公開を図り、市政に対する理解と信頼を深めるとした条例の趣旨から、適切な対応であったとは言い難い。
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■審査会の答申内容では、いろいろコメントを述べ立てていますが、要するに、51億円事件を市民の目から遠ざけようとする権力側の意向に沿った内容というふうに受け取ることが出来ます。
主なコメントについて検証してみましょう。
(1)51億円事件の単独犯とされた元職員の氏名については、既に「刑に服し終えているという人権的な配慮も含めて不開示決定処分としたことは妥当」としています。確かに刑事罰の刑は満了しましたが、民事責任は未だに問われ続けています。被害者である安中市・公社に対して、中立であるべき審査会がこのようなタゴ事件関係者の擁護のスタンスでは困ります。
(2)元職員の配偶者については、刑事事件の法廷で「一生かけて償います」という発言があったのですから、「個人の権利利益」よりも「公益」が優先するはずです。氏名を明らかにしても、安中市民は誰でも耳にしたことのある情報ですから、なんら人権侵害にあたらないと思いますが、審査会の判断は市民感覚とのズレを浮き彫りにしています。
(3)タゴの知人とされる絵画6点の保管者について、審査会は「その氏名を不開示にしたことは妥当」などとしているが、とんでもない判断です。審査会では、氏名ではなく、所在地名については、開示すべきだと言っていますが、所在地名だけでは、保管者が誰かを知ることは出来ません。タゴ事件で、横領した公金の行方がまだ14億円以上も不明だというのに、タゴから預かった飛び切り高価値の絵画を持っていた保管者が、タゴの信頼を受けていたことは明らかですから、ぜひ、この保管者に、使途不明金の行方について聞いてみたいと思っているのが市民の気持ちです。やはり、保管者の氏名を明かさないというのは、タゴ事件の関係者が未だに安中市役所を牛耳っていることを如実に示しています。
(4)公社経営の健全化について、審査会は、個人情報を非開示にしたいとする岡田理事長らタゴ事件の関係者を慮ったのか、「当該個人情報が公にされないことによって、安中市民の財産に被害は発生しておらず、将来、侵害される蓋然性も認められない」などと、自分勝手な理屈で、事件関係者らをかばおうとしています。当該個人情報を公にすることで、51億円事件の真相をきちんと追及し、民事で損害賠償請求をきちんと行う決意を市民に示すことになり、そのことが公社経営の健全化に資するわけです。ここでいう健全化とは、伏魔殿だった公社が横領事件の舞台になったため、透明化により公社経営が健全になるということで、決して公社の経営がよくなり、公社を存続させることができる、という意味ではありません。
(5)公務員としての職務行為について、審査会では、「絵画6点を知人に預けたことが、公務員として行った職務行為ではないことは明白であって、異議申立人の主張は理解できない」などと述べていますが、これは大きな間違いです。当会は、51億事件発覚後、元職員が警察に出頭するまでのおよそ2週間、少なくとも5月31日までは、公務員として振舞っていたわけで、元職員の勤怠簿にも、そのように記録されています。元職員は、美術館を作りたいとして、骨董商から大量の絵画や書画、陶磁器を購入していたわけで、これがなぜ「公務員による職務行為でないのは明白」と言えるのか、審査会はその根拠を詳しく示していません。
■以上のように、現在、群馬弁護士会長でもある審査会長の采女氏は、著しくタゴ事件関係者に配慮した答申をして、岡田義弘・安中市長兼安中市土地開発公社理事長を喜ばしていますが、さすがに、絵画等6点に関する写真等情報の不存在については、どうしても素直に岡田理事長のやり方を追認できないようです。
審査会では、「実施機関に対し、理由説明の聴取を行ったものの、写真等情報を実施機関が取得若しく保有しているか、又は公社と共同管理している状態にあるとの確証を得るには至らなかった」とし、「この結果、異議申立人が開示を求めている写真等情報は、公社では保有するが実施機関においては不存在と認めざるを得ず、本件不開示決定は妥当」などとして、岡田市長の判断を肯定していますが、よほど弁護士としての良識の呵責に悩んだのでしょう。答申の末節で、「安中市と別法人である公社の情報公開についてまで審査会の権限が及ぶものではないことを前提とした上で意見を述べると、当該写真等情報が公社から実施機関に提出されなかったことには、疑問が残る」と意見を付け加えています。
■最後に采女会長が「異議申立人に写しの交付までは認めなくとも、仮りに閲覧させるだけに留めれば、換価処分においても何ら問題は生じないと思われる」「実施機関が公社との協議で写真等情報を提出しないことを認めたのは、市の保有する情報の一層の公開を図り、市政に対する理解と信頼を深めるとした条例の趣旨から、適切な対応であったとは言い難い」とコメントしたのは、群馬弁護士会会長としての良識の発露だったのでしょう。
しかし、岡田市長が、審査会のこの答申を受けて、どのような対応をとるのかは予断を許しません。近日中に決定書が送られてくるはずですので、その内容が今から注目されます。
【ひらく会情報部】
タゴが昨年(平成21年)9月に刑期を満了したことから、いよいよ何かが起きるのではないかと予感していた当会は、さっそく平成22年6月25日付で関連情報を安中市に開示請求したところ、7月8日で一部の情報が非開示あるいは不開示とされたため、同年7月27日付で異議申立てを行っていました。
その後、3ヶ月を経過した11月29日付けで、安中市情報公開・個人情報保護審査会から岡田市長に対して次の内容の答申が為されたとの通知が当会に届きました。
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【安中市からの送り状】
平成22年11月29日
異議申立人 小川 賢 様
安中市情報公開・個人情報保護審査会
会長 釆女 英幸
情報公開の異議申立てに関する答申について(送付)
安中市長から、あなたの情報公開の異議申立てに関する諮問があり、提出された関係資料等をもとに平成22年11月12日開催の審査会において、審査した結果、別紙のとおり答申しましたので、安中市情報公開・個人情報保護審査会規則第5条によりその写しを送付します。
なお、後目、答申結果を参考として諮問機関である安中市長から今回の処分の異議申立てに対する正式な決定があります。
事務局:秘書行政課文書法規係 TEL382-1111内線(1043)
【審査会から市長への答申書】
平成22年11月29日
実施機関 安中市長 岡田 義弘 様
安中市情報公開・個人情報保護審査会 会長 釆女 英幸
平成22年6月22日付け上毛新聞に掲載された安中市元職員の巨額詐欺事件に係る記事に関係する行政文書部分開示決定処分に対する異議申立てについて(答申)
記
平成22年8月18日付けで諮問のあった標記の件について、平成22年11月12日開催の審査会において審査した結果に基づき、別紙のとおり答申します。
(別 紙)
諮問第2号
平成22年6月22日付け上毛新聞に掲載された安中市元職員の巨額詐欺事件に係る記事に関係する行政文書部分開示決定処分に対する異議申立てについて(答申)
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象である実施機関(安中市長)が行った行政文書の部分開示決定処分において、元職員の絵画等を預かっていた者(以下「保管者」という。)が所在する市町村名(以下「所在地名」という。)に係る部分は、開示すべきである。
その他の個人に関する情報に該当する部分について、安中市情報公開条例(以下「条例」という。)第7条第2号に基づき不開示とした決定は、妥当である。
また、債務履行の一部として提出された絵画等6点の写真等の情報(以下「写真等情報」という。)について、実施機関が保有していない情報として、不開示決定処分としたことは妥当である。
2 異議申立ての主張の要旨
異議申立人が主張する不服申立ての趣旨及び理由については、異議申立書及び意見書の記載によれば、おおむね次のとおりである。
実施機関は、行政文書部分開示決定通知書で、元職員等の個人情報について不開示とする理由について、安中市情報公開条例第7条第2号に該当するとしているが、
本件情報は、同号ただし書イ又ウに基づき開示することができる。
写真等情報は、現物を特定するために必要な情報であり、実際に引き取る前後に写真が添えられているか、報告書に添付されているはずである。
この写高等情報を開示又は不開示にするかは、比較考量により検討しなければならず、真贋かどうかを含めて適正な価値の情報は住民と共有化すべきである,
このため、本件文書の部分開示決定処分は、条例を不当に解釈して運用されたものであるから、処分の取消しを求める。
3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
元職員等の住所、氏名及び個人の印影の部分は、個人に関する情報であって特定の個人を識別できるため、不開示処分としたものである。
また、条例第7条第2号ただし書イに該当するとしているが、絵画等6点は土地開発公社の財産であるから、市が当該情報を開示しないことで特定の者の財産を侵害することはあり得ない。
さらに、同号ただし書ウにも該当するとしているが、「絵画等6点を知人に預けた事」自体は、元職長の公務員としての職務遂行には当たらない行為である。
安中市と土地開発公社(以下「公社」という。)は別法人であるが、市が2分の1以上出資している法人に該当するため、条例第24条第2項に基づき、その保有する情報の提供を求めたが、写真等情報は提出されなかった。
よって、公社から情報の提供がなかったため、実施機関としては不存在により情報が開示できなかったものであるから、条例に違背したものではなく適法である。
4 審査会の判断
(1)条例第7条第2号の個人識別性について
実施機関が、不開示とした情報は、具体的には元職員及び妻の住所、氏名及び印影並びに保管者の所在地名及び氏名である。
はじめに、元職員に関する個人情報から検討すると、元職員の氏名については、特定の個人を識別できる情報ではあることは明らかであるが、事件当時、新聞報道等で既に公にされていた情報でもある。
このような場合、条例第7条第2号ただし書アに規定する「慣行により公にされている情報」に該当するかについては、事件に対する市民感情は別として、事件発生から既に15年が経過したなか、元職員の氏名が現に公衆の知り得る状態に置かれており、かつ、それが社会通念上慣行と言えるものとまでは認めることができない。
過去に公表された情報であっても、時の経過により、開示請求の時点では公にされているとは見られない場合も当然あり得ることであって、本件の元職員の氏名については、刑に服し終えているという人権的な配慮も含めて不開示決定処分としたことは妥当であると考える。
同様に、元職員の住所及び印影については、公にされておらず、開示請求で公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であるため、不開示決定処分としたことは妥当である。
次に、元職員の妻の個人情報については、「元職員の妻」という情報だけで、既に個人が特定されてしまった感があるが、これは、平成22年6月22日の上毛新聞で「元職員の妻 絵6点、公社に提出」と報道されているため、本件開示請求で元職員の妻と特定されても、公知の情報として特に問題はない。
しかし、元職員の妻の住所、氏名及び印影については、特定の個人を識別できる情報であるとともに、公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であって、過去の報道等によっても明らかにされていないため、不開示決定処分は妥当である。
また、保管者に関する個人情報であるが、保管者の氏名は、特定の個人を識別できる情報ではあるが、保管者の所在地名については、一般的には特定の個人を識別できる情報とは言えず、元職員及び元職員の妻とは違い、単なるその知人という関係だけでは、個人の権利を侵害するおそれがあるとは考えられない。
そこで、保管者の所在地名の情報と他の情報を照合することにより、特定の個人を識別できるか検討すると、照合の対象となる「他の情報」とは、最高裁平成6年1月27日判決において、一般人が通常入手し得る関連情報とされており、特別な調査をすれば入手し得るかも知れないといった情報についてまで「他の情報」に含めて考える必要はない。
実施機関は、保管者の所在地名を公にすることにより、元職員の知人その他関係者であって、当該事件についての一定の情報を有する者(以下「関係者等」という。)であれば、特定の個人が識別できる可能性があるとして、不開示決定処分としたと思われるが、開示の判断基準における画一性、一義性確保のためには、原則として通常の一般市民を個人識別性の判断基準とすべきである。
さらに、本件については所在地名によって関係者等に特定の個人が識別できたとしても、関係者等にとっては、それ以前に保管者が誰であるか、知っている可能性が高いことに加え、絵画等6点を保管していたという事実だけでは保管者の権利利益を侵害するおそれは少ない。
加えて異議申立人は関係者等ではなく、特別な調査を行って保管者が特定できたとしても、それは異議申立人の推測の域を出ないものである。
このため、実施機関が保管者の氏名を不開示処分としたことは妥当であるが、保管者の所在地名については開示すべきであると考える。
(2)条例第7条第2号ただし害イの該当性について
異議申立人は、個人情報であったとしても安中市民の財産を保護するため、公にすることが必要であるから、条例第7条第2号ただし書イに基づき開示することができるとしているが、本件において当該個人情報が公にされないことによって、安中市民の財産に被害は発生しておらず、将来、侵害される蓋然性も認めらない。
また、当該個人情報を公にすることと、公社経営の健全化との関連性はないばかりか、市民として事件関係者に質問することができ、事情を説明してもらう必要があるという意見書の主張では、安中市民の財産を保護するために開示すべき個人情報であるとまでは考えられない。
(3)条例第7条第2号ただし書ウの該当性
異議申立人は、絵画等6点を知人に預けたことは、元職員が懲戒免職となった以前に為した行為であるため、条例第7条第2号ただし書ウに基づき開示することができるとしているが、その行為が、公務員として行った職務行為ではないことは明白であって、異議申立人の主張は理解できない。
なお、条例第7条第2号ただし書ウに基づき開示することができるのは、当該公務員の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分であって、公務員ではない元職員の妻及び保管者の個人情報がそれに含まれないことは言うまでもない。
(4)写真等情報の不存在について
公社は、群馬県知事の認可手続を経て市とは別個の独立した法人として設立された組織であって、条例第2条第1項の実施機関には含まれていない。
しかし、公社は資金等の面において市と密接な関係を有するため、情報公開制度が及ぶ範囲として、安中市においては条例第24条に規定する「出資法人等」としての位置づけとなっている。
実施機関の経過説明によれば、写真等情報については、実施機関が保有していなかったため、条例第24条第2項によって提出を求めたが、公社の情報公開規程第2条により、公社の経営に支障を及ぼすおそれがあると判断され、提出されなかったとのことである。
以上の事情に基づいて、本審査会としては実施機関に対し、理由説明の聴取を行ったものの、写真等情報を実施機関が取得若しく保有しているか、又は公社と共同管理している状態にあるとの確証を得るには至らなかった。
この結果、異議申立人が開示を求めている写真等情報は、公社では保有するが実施機関においては不存在と認めざるを得ず、本件不開示決定は妥当であると判斯する。
しかし、本審査会の権限として、安中市と別法人である公社の情報公開についてまで審査権限が及ぶものではないことを前提とした上で意見を述べると、当該写真等情報が公社から実施機関に提出されなかったことには、疑問が残る。
実施機関又は公社の説明によると、当該絵画等6点の真贋も不明であるため、換価処分を行う前に必要以上の情報が公にされることにより、適正な価格での取引を阻害しかねない無用な風説が流布される可能性もあり、適正な価格での換価処分が行われない場合には、公社に大きな損害を与えてしまうとされている。
確かに、インターネット等で絵画等の画像が公開されたり、犯罪に関係のある作品であることが流布されれば、競売等を実施するにあたって、少なからず影響が出る可能性は否定できないが、絵画等6点の作品名及び作者が既に明らかにされている以上、今さら写真等情報が公になったところで、その換価処分に影響が生じるとは考えづらい。
また、異議申立人に写しの交付までは認めなくとも、仮りに閲覧させるだけに留めれば、換価処分においても何ら問題は生じないと思われるため、実施機関が公社との協議で写真等情報を提出しないことを認めたのは、市の保有する情報の一層の公開を図り、市政に対する理解と信頼を深めるとした条例の趣旨から、適切な対応であったとは言い難い。
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■審査会の答申内容では、いろいろコメントを述べ立てていますが、要するに、51億円事件を市民の目から遠ざけようとする権力側の意向に沿った内容というふうに受け取ることが出来ます。
主なコメントについて検証してみましょう。
(1)51億円事件の単独犯とされた元職員の氏名については、既に「刑に服し終えているという人権的な配慮も含めて不開示決定処分としたことは妥当」としています。確かに刑事罰の刑は満了しましたが、民事責任は未だに問われ続けています。被害者である安中市・公社に対して、中立であるべき審査会がこのようなタゴ事件関係者の擁護のスタンスでは困ります。
(2)元職員の配偶者については、刑事事件の法廷で「一生かけて償います」という発言があったのですから、「個人の権利利益」よりも「公益」が優先するはずです。氏名を明らかにしても、安中市民は誰でも耳にしたことのある情報ですから、なんら人権侵害にあたらないと思いますが、審査会の判断は市民感覚とのズレを浮き彫りにしています。
(3)タゴの知人とされる絵画6点の保管者について、審査会は「その氏名を不開示にしたことは妥当」などとしているが、とんでもない判断です。審査会では、氏名ではなく、所在地名については、開示すべきだと言っていますが、所在地名だけでは、保管者が誰かを知ることは出来ません。タゴ事件で、横領した公金の行方がまだ14億円以上も不明だというのに、タゴから預かった飛び切り高価値の絵画を持っていた保管者が、タゴの信頼を受けていたことは明らかですから、ぜひ、この保管者に、使途不明金の行方について聞いてみたいと思っているのが市民の気持ちです。やはり、保管者の氏名を明かさないというのは、タゴ事件の関係者が未だに安中市役所を牛耳っていることを如実に示しています。
(4)公社経営の健全化について、審査会は、個人情報を非開示にしたいとする岡田理事長らタゴ事件の関係者を慮ったのか、「当該個人情報が公にされないことによって、安中市民の財産に被害は発生しておらず、将来、侵害される蓋然性も認められない」などと、自分勝手な理屈で、事件関係者らをかばおうとしています。当該個人情報を公にすることで、51億円事件の真相をきちんと追及し、民事で損害賠償請求をきちんと行う決意を市民に示すことになり、そのことが公社経営の健全化に資するわけです。ここでいう健全化とは、伏魔殿だった公社が横領事件の舞台になったため、透明化により公社経営が健全になるということで、決して公社の経営がよくなり、公社を存続させることができる、という意味ではありません。
(5)公務員としての職務行為について、審査会では、「絵画6点を知人に預けたことが、公務員として行った職務行為ではないことは明白であって、異議申立人の主張は理解できない」などと述べていますが、これは大きな間違いです。当会は、51億事件発覚後、元職員が警察に出頭するまでのおよそ2週間、少なくとも5月31日までは、公務員として振舞っていたわけで、元職員の勤怠簿にも、そのように記録されています。元職員は、美術館を作りたいとして、骨董商から大量の絵画や書画、陶磁器を購入していたわけで、これがなぜ「公務員による職務行為でないのは明白」と言えるのか、審査会はその根拠を詳しく示していません。
■以上のように、現在、群馬弁護士会長でもある審査会長の采女氏は、著しくタゴ事件関係者に配慮した答申をして、岡田義弘・安中市長兼安中市土地開発公社理事長を喜ばしていますが、さすがに、絵画等6点に関する写真等情報の不存在については、どうしても素直に岡田理事長のやり方を追認できないようです。
審査会では、「実施機関に対し、理由説明の聴取を行ったものの、写真等情報を実施機関が取得若しく保有しているか、又は公社と共同管理している状態にあるとの確証を得るには至らなかった」とし、「この結果、異議申立人が開示を求めている写真等情報は、公社では保有するが実施機関においては不存在と認めざるを得ず、本件不開示決定は妥当」などとして、岡田市長の判断を肯定していますが、よほど弁護士としての良識の呵責に悩んだのでしょう。答申の末節で、「安中市と別法人である公社の情報公開についてまで審査会の権限が及ぶものではないことを前提とした上で意見を述べると、当該写真等情報が公社から実施機関に提出されなかったことには、疑問が残る」と意見を付け加えています。
■最後に采女会長が「異議申立人に写しの交付までは認めなくとも、仮りに閲覧させるだけに留めれば、換価処分においても何ら問題は生じないと思われる」「実施機関が公社との協議で写真等情報を提出しないことを認めたのは、市の保有する情報の一層の公開を図り、市政に対する理解と信頼を深めるとした条例の趣旨から、適切な対応であったとは言い難い」とコメントしたのは、群馬弁護士会会長としての良識の発露だったのでしょう。
しかし、岡田市長が、審査会のこの答申を受けて、どのような対応をとるのかは予断を許しません。近日中に決定書が送られてくるはずですので、その内容が今から注目されます。
【ひらく会情報部】