■台風19号は、、2019年10月6日3時にマリアナ諸島の東海上で発生し、12日19時前に伊豆半島に上陸後、関東地方を斜めに横断していきましたが、上陸前から長時間にわたり激しい降雨が続き、関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらしました。この結果、2018年に気象庁が定めた「台風の名称を定める基準」に基いて、浸水家屋数が1万棟以上など、基準条件に相当する見込みとなり、1977年(昭和52年)9月の沖永良部台風以来、42年1か月ぶりに命名される見通しです。政府は台風被害に対して激甚災害の指定を行ったほか、台風としては初となる特定非常災害の認定を行いました。また、災害救助法適用自治体は18日夕方までに13都県317市区町村にのぼり、1995年の阪神大震災以降の自然災害で最多となり、東日本大震災の8都県237市区町村や2018年の西日本豪雨の11府県110市町村を超えて過去最大となりました。
そうした中、なぜか巷では「八ッ場ダム」のことが取りざたされているようです。なかには「税金の無駄遣いではなかった」として、当時の政権政党だった民主党による計画一時中止を批判する声も聞こえてきます。本当に八ッ場ダムは税金の無駄遣いではなかったのでしょうか。
↑八ッ場ダム湖を見下ろす「丸岩」と呼ばれる標高1120mの峰。長野原町大字横壁の南方にあり、戦国時代には城があった。北面は赤い岩肌をむき出した100m余の絶壁となり、南は岩峯から続く稜線が起状しながら須賀尾峠へと伸びている。この岩峰の名を冠した「丸岩会」が2005年9月26日、水没する地区の代替地交渉に当たる代替地分譲連合交渉委員会の萩原昭朗委員長の誕生日に合わせて開かれた。そこには萩原委員長と国交省幹部、小寺知事及び100社に上る地元ゼネコン等の参加社が集い、昼はゴルフ大会、夜は伊香保の温泉旅館で大宴会を催し、県知事の挨拶のあと、八ッ場ダムの事業説明が国交省の現場事務所長から行われたりした。この情報が当会の八ッ場ダム問題への取り組みの端緒となった。↑
**********NHK News Web 2019年10月16日11時17分
八ッ場ダム 台風19号で満水に
来年春の完成を前に試験的に水をためる「試験湛水」が行われている長野原町の八ッ場ダムで、台風19号による大雨で急激に水位が上がり、貯水率が100%に達したと工事事務所が発表しました。
八ッ場ダムはダム本体のコンクリートの打設工事がことし6月に終了し、今月1日から試験的に水をためてダムの強度や安全性を確かめる「試験湛水」という最終工程が進められてきました。
八ッ場ダム工事事務所によりますと、今月1日の時点では、ダムの水位は標高481.5メートルの地点でしたが、15日午後6時ごろに貯水できる最高位の標高583メートルに達し、貯水率が100%になったということです。
当初、満水までは3か月から4か月かかる見通しでしたが、台風19号による大雨で今月12日から13日にかけて急激に水位が上がりました。
工事事務所によりますと、13日の午後4時ごろからは水位を調整するための放流操作が行われましたが、これまでのところ下流の自治体への影響は確認されていないということです。
八ッ場ダムでは、今後は水位をゆっくりと下げて、のり面の強度などダムの安全性を確認し、建屋などの工事を年度内に終えて、来年度から本格的な運用が始められるということです。
**********日経BP 2019年10月21日05:00
2019年台風19号 1日で満水になった八ツ場ダム、一変した景色を写真で比較
群馬県長野原町で10月1日から試験湛水(たんすい)を始めていた八ツ場(やんば)ダムの貯水率が、台風19号のもたらした大雨で一気に100%近くに到達。付け替え前のJR吾妻線の鉄橋などがダム湖の底に沈み、周辺の風景は大きく変わった。
↑台風19号が通過した後の10月13日午後2時に撮影した八ツ場ダム。利水放流管から泥混じりの水が噴き出し、土煙を上げる。堤体上空でのドローン飛行は許可が必要なため、許可が不要なダム下流の吾妻峡からドローンを離着陸させて撮影した(写真:大村 拓也)↑
↑台風19号通過時のダム湖への流入量(赤線、右軸)と貯水位(青線、左軸)の変化(資料:国土交通省八ツ場ダム工事事務所)↑
↑堤体上流の右岸展望台から、台風襲来前の10月5日に撮影。ダム湖の水位は標高約493m。洪水吐きの左側にある選択取水設備の根元に水面がわずかに見えていた(写真:大村 拓也)↑
↑右岸展望台から10月10日に撮影。水位は標高約518m(写真:大村 拓也)↑
↑右岸展望台から10月13日に撮影。水位は標高約578m(写真:大村 拓也)↑
国土交通省八ツ場ダム工事事務所によると、10月11日午前2時から13日午前5時にかけて、長野原観測所で累計347mmの降雨を観測。ダム湖への流入量は12日朝から増加し始め、同日午後8時ごろには毎秒2500m3の最大流入量を記録した。降雨を観測した11日午前2時から13日午前5時までに、約7500万m3の水をダム湖にため込んだ。
この間、ダム湖の水位は標高518.8mから573.2mまで約54m上昇し、常時満水位の583mまであと高さ10mほどに迫った。
ダムは利水放流管を使って毎秒約4m3ずつ下流に放流していたものの、常用洪水吐きと非常用洪水吐きのゲート操作は実施しなかった。流入量のほぼ100%がダム湖に貯留されたことになる。
八ツ場ダム工事事務所によると、常時満水位まで水がたまった10月15日時点でダムの堤体やダム湖の周辺に異常は確認されていないという。今後は1日当たり1m以下のスピードで水位を下げながら、最低水位である標高536.3mまで水を抜き、ダム湖周辺の法面などに問題がないかどうかを確かめる。
(大村 拓也=写真家)
**********
■その上で、今回の台風19号による豪雨災害において、八ッ場ダムの果たした役割について、二つの観点からの記事を見てみましょう。最初は、「日本を救ったから、税金の無駄ではなかった」という評価です。
**********週刊FLASH(2019年11月5日号)2019年10月24日 11時0分
税金の無駄ではなかった…「巨大ハコモノ」台風19号から日本を救う
↑首都圏外郭放水路(写真提供・国土交通省江戸川河川事務所)↑
10月13日、ラグビー日本代表がスコットランド代表を撃破し、W杯8強入りを決めた舞台・日産スタジアム(横浜市)の周囲は、その数時間前まで冠水していた。
「競技場周辺は遊水地ですから、当然です。あまり知られていませんが、国土計画上は、スタジアムのある窪地は川なんです」
こう話すのは、岸由二・慶應大名誉教授だ。
遊水地は、ふだんは競技場の駐車場などとして使われている。スタジアムは、柱に支えられる「高床式」で、遊水地の水が流入することはないという。日産スタジアムが、台風19号の大雨による鶴見川の氾濫を、未然に防いでいたのである。
「鶴見川流域には、日産スタジアムのほかにも、多くの遊水地があります。ふだんは水を抜いてありますが、災害のときだけ水を入れるのです。川の流域にある団地などにも、調整池があります。その数は、4900カ所。国と自治体が、流域全体の問題として取り組んだ結果です」
じつは、台風上陸前にもっとも危惧されていたのは、東京都東部の大水害だった。“首都水没” は、日本の破滅に直結する。その最悪のシナリオを回避できたのはなぜか。
「大きな要因は2つ。台風の進路と治水対策の結果です」
こう語るのは、リバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏。元東京都職員で、長年、治水対策に関わってきた。
「東京都東部には、低い土地に何本も大河川が流れています。しかし、上流にダム、中流には調節池や遊水地、下流にも放水路など、幾重にも対策がとられているんです」(土屋氏)
↑10月16日の八ッ場ダム。水位は高いまま↑
そのひとつが、2009年、“ハコモノ” と揶揄され、民主党政権時代に無駄な公共事業の象徴として批判を浴び、事業中止で注目を集めた「八ッ場ダム」だ。
「江戸川上流の八ッ場ダムは、完成直後で、試験湛水を始めたところでした。台風上陸後には、ほぼ満水になり、約1億トンの雨水をここで受け止められた。
しかし、もし本格運用が始まり、水がすでにためられていたら、今回の雨量を受け止めることはできなかった。幸運だったといえます」(同前)
さらに、建築マニアからは “地下神殿” と呼ばれる「首都外郭放水路」も活躍していた。埼玉県春日部市などを走る国道16号線の直下約50mの深さに設けられた放水路で、利根川水系の中小河川の水を、江戸川に放水するための施設だ。地下放水路としては世界最大級の規模を誇る。
「放水路は5つの川から水を取り込めますが、今回すべて同時に取り込んだのは稀な状況です」(江戸川河川事務所)
“地下神殿” が10月12日から15日にかけて江戸川に排出した水は、50mプール約8000杯ぶん、東京ドームなら約9杯ぶんという途方もない量だ。
東京都内でも、「神田川・環状七号線地下調整池」が威力を発揮していた。
「台風直撃後は49万トン、最大貯留量の9割まで水がたまった」(東京都第三建設事務所)というから、ぎりぎりの攻防だったのだ。
日本列島を襲った台風19号は、死者80人以上、全国60以上の河川で堤防を決壊させる甚大な被害をもたらした。「税金の無駄」と揶揄された「巨大ハコモノ」たちは、たしかに首都圏の破滅を防いだ。
しかしその力をもってしても、被害をゼロにはできなかった――。
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■次は、「利根川の氾濫を救えたのか」という視点の記事です。執筆者は八ッ場ダムの
**********朝日新聞デジタル2019年10月23日
八ツ場ダムは本当に利根川の氾濫を防いだのか?
~治水利水の両面で必要性は失われている~
利根川水系の八ツ場ダムは、来年3月完成の予定で10月1日から試験湛水が行われているが、今回の台風19号により、貯水量が一挙に増加した。八ツ場ダムの貯水量が急増したことで、「台風19号では利根川の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ツ場ダムの洪水調節効果があったからだ」という話がネットで飛び交っている。10月6日の参議院予算委員会でも、赤羽一嘉国土交通大臣が試験湛水中の八ツ場ダムが下流の利根川での大きな氾濫を防ぐのに役立ったとの認識を示した。
しかし、それは本当のことなのか。現時点で国交省が明らかにしているデータに基づいて検証することにする。
↑台風19号の大雨で水かさが増した八ツ場ダム=2019年10月16日、群馬県長野原町↑
★八ツ場ダムの洪水位低下効果は利根川中流部で17㎝程度★
10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部についてみる。
本洪水で利根川中流部の水位は確かにかなり上昇したが、決壊寸前という危機的な状況ではなかった。加須市に近い利根川中流部・栗橋地点(久喜市)の本洪水の水位変化を見ると、最高水位は9.67m(観測所の基準面からの高さ)まで上昇し、計画高水位9.90mに近づいたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、堤防高は計画高水位より2m高いので、まだ十分な余裕があった。なお、栗橋地点の氾濫危険水位は8.9mで、計画高水位より1m低いが、これは避難に要する時間などを考慮した水位であり、実際の氾濫の危険度はその時の最高水位と堤防高との差で判断すべきである。
八ツ場ダムの治水効果については2011年に国交省が八ツ場ダム事業の検証時に行った詳細な計算結果がある。それによれば、栗橋に近い地点での洪水最大流量の削減率は8洪水の平均で50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度である。本洪水はこの程度の規模であったと考えられる。
本洪水では栗橋地点の最大流量はどれ位だったのか。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり、それを使って今回の最高水位9.67mから今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となる。八ツ場ダムによる最大流量削減率を3%として、この流量を97%で割ると、12,060㎥/秒になる。八ツ場ダムの効果がなければ、この程度の最大流量になっていたことになる。
この流量に対応する水位を上記の水位流量関係式から求めると、9.84mである。実績の9.67mより17㎝高くなるが、さほど大きな数字ではない。八ツ場ダムがなくても堤防高と洪水最高水位の差は2m以上あったことになる。したがって、本洪水で八ツ場ダムがなく、水位が上がったとしても、利根川中流部が氾濫する状況ではなかったのである。
★河床の掘削で計画河道の維持に努める方がはるかに重要★
利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した理由の一つとして、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきているという問題がある。
国交省が定めている利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒であり、今回の洪水は水位は計画高水位に近いが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さい。このことは、利根川上流から流れ込んでくる土砂によって中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味する。河川整備計画に沿った河床面が維持されていれば、上述の水位流量関係式から計算すると、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測される。八ツ場ダムの小さな治水効果を期待するよりも、河床掘削を適宜行って河床面の維持に努めることの方がはるかに重要である。
★利根川の上流部と下流部の状況は★
以上、利根川中流部についてみたが、本洪水では利根川の上流部と下流部の状況はどうであったのか。利根川は八斗島(群馬県伊勢崎市)より上が上流部で、この付近で丘陵部から平野部に変わるが、八斗島地点の本洪水の水位変化を見ると、最高水位と堤防高の差が上述の栗橋地点より大きく、上流部は中流部より安全度が高く、氾濫の危険を心配する状況ではなかった。
↑利根川の増水で冠水し通行できなくなった道路=2019年10月13日、千葉県銚子市唐子町↑
一方、利根川下流部では10月13日午前10時頃から水位が徐々に上昇し、河口に位置する銚子市では、支流の水が利根川に流れ込めずに逆流し、付近の農地や住宅の周辺で浸水に見舞われるところがあった。八ツ場ダムと利根川下流部の水位との関係は中流部よりもっと希薄である。八ツ場ダムの洪水調節効果は下流に行くほど小さくなる。
前述の国交省の計算では下流部の取手地点(茨城県)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は1%程度であり、最下流の銚子ではもっと小さくなるから、今回、浸水したところは八ツ場ダムがあろうがなかろうが、浸水を避けることができなかった。浸水は支川の堤防が低いことによるのではないだろうか。
なお、東京都は利根川中流から分岐した江戸川の下流にあるので、八ツ場ダムの治水効果はほとんど受けない場所に位置している。
★ダムの治水効果は下流に行くほど減衰★
↑利根川の河川敷にあるゴルフ場は増水で冠水した=2019年10月13日、千葉県野田市瀬戸↑
ダムの洪水調節効果はダムから下流へ流れるにつれて次第に小さくなる。他の支川から洪水が流入し、河道で洪水が貯留されることにより、ダムによる洪水ピーク削減効果は次第に減衰していく。
2015年9月の豪雨で鬼怒川が下流部で大きく氾濫し、甚大な被害が発生した。茨城県常総市の浸水面積は約40㎢にも及び、その後の関連死も含めると、死者は14人になった。鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダム、五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムがある。その洪水調節容量は合計12,530万㎥もあるので、鬼怒川はダムで洪水調節さえすれば、ほとんどの洪水は氾濫を防止できるとされていた河川であったが、下流部で堤防が決壊し、大規模な溢水があって凄まじい氾濫被害をもたらした。
↑鬼怒川が氾濫した現場で、ガードレールにつかまりながら救助に向かおうとする茨城県警の救助隊=2015年9月10日、茨城県常総市↑
この鬼怒川水害では4ダムでそれぞれルール通りの洪水調節が行われ、ダム地点では洪水ピークの削減量が2,000㎥/秒以上もあった。しかし、下流ではその効果は大きく減衰した。下流の水海道地点(茨城県常総市)では、洪水ピークの削減量はわずか200㎥/秒程度しかなく、ダムの効果は約1/10に減衰していた。
このようにダムの洪水調節効果は下流に行くほど減衰していくものであるから、ダムでは中下流域の住民の安全を守ることができないのである。
★本格運用されていれば、今回の豪雨で緊急放流を行う事態に★
本洪水の八ツ場ダムについては重要な問題がある。関東地方整備局の発表によれば、本洪水で八ツ場ダムが貯留した水量は7500万㎥である。八ツ場ダムの洪水調節容量は6500万㎥であるから、1000万㎥も上回っていた。
八ツ場ダムの貯水池容量の内訳は下の方から計画堆砂容量1750万㎥、洪水期利水容量2500万㎥、洪水調節容量6500万㎥で、総貯水容量は10750万㎥である。貯水池の運用で使う有効貯水容量は、堆砂容量より上の部分で、9000万㎥である。ダム放流水の取水口は計画堆砂容量の上にある。
本洪水では八ツ場ダムの試験湛水の初期にあったので、堆砂容量の上端よりかなり低い水位からスタートしたので、本格運用では使うことができない計画堆砂容量の約1/3を使い、さらに、利水のために貯水しておかなければならない洪水期利水容量2500万㎥も使って、7500万㎥の洪水貯留が行われた。
本格運用で使える洪水貯水容量は6500万㎥であるから、今回の豪雨で八ツ場ダムが本格運用されていれば、満杯になり、緊急放流、すなわち、流入水をそのまま放流しなければならない事態に陥っていた。
↑肱川が氾濫し、浸水した野村地区=2018年7月7日朝、愛媛県西予市↑
今年の台風19号では全国で6基のダムで緊急放流が行われ、ダム下流域では避難が呼びかけられた。2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムで緊急放流が行われて、西予市と大洲市で大氾濫が起き、凄まじい被害をもたらした。今年の台風19号の6ダムの緊急放流は時間が短かったので、事なきを得たが、雨が降り続き、緊急放流が長引いていたら、どうなっていたかわからない。
ダム下流で、ダムに比較的近いところはダムの洪水調節を前提とした河道になっているので、ダムが調節機能を失って緊急放流を行えば、氾濫の危険性が高まる。
八ツ場ダムも本豪雨で本格運用されていれば、このような緊急放流が行われていたのである。
以上のとおり、本豪雨で八ツ場ダムがあったので、利根川が助かったという話は事実を踏まえないフェイクニュースに過ぎないのである。
★必要性を喪失した八ツ場ダムが来年3月末に完成予定★
八ツ場ダムは今年中に試験湛水を終えて、来年3月末に完成する予定であるが、貯水池周辺の地質が脆弱な八ツ場ダムは試験湛水後半の貯水位低下で地すべりが起きる可能性があるので、先行きはまだわからない。
八ツ場ダムはダム建設事業費が5320億円で、水源地域対策特別措置法事業、水源地域対策基金事業を含めると、総事業費が約6500億円にもなる巨大事業である。
↑自民党の二階俊博幹事長(左から2番目)は八ツ場ダムを視察し、ダム本体上で説明を受けた=2019年10月17日、群馬県長野原町↑
八ツ場ダムの建設目的は①利根川の洪水調節、②水道用水・工業用水の開発、③吾妻川の流量維持、④水力発電であるが、③と④は付随的なものである。
①の洪水調節については上述の通り、本豪雨でも八ツ場ダムは治水効果が小さく、利根川の治水対策として意味を持たなかった。利根川の治水対策として必要なことは河床掘削を随時行って河道の維持に努めること、堤防高不足箇所の堤防整備を着実に実施することである。
②については首都圏の水道用水、工業用水の需要が減少の一途をたどっている。水道用水は1990年代前半でピークとなり、その後はほぼ減少し続けるようになった。首都圏6都県の上水道の一日最大給水量は、2017年度にはピーク時1992年度の84%まで低下している。これは節水型機器の普及等によって一人当たりの水道用水が減ってきたことによるものであるが、今後は首都圏全体の人口も減少傾向に向かうので、水道用水の需要がさらに縮小していくことは必至である。これからは水需要の減少に伴って、水余りがますます顕著になっていくのであるから、八ツ場ダムによる新規の水源開発は今や不要となっている。
八ツ場ダムの計画が具体化したのは1960年代中頃のことで、半世紀以上かけて完成の運びになっているが、八ツ場ダムの必要性は治水利水の両面で失われているのである。
八ツ場ダムの総事業費は上述の通り、約6500億円にもなるが、もし八ツ場ダムを造らず、この費用を使って利根川本川支川の河道整備を進めていれば、利根川流域全体の治水安全度は飛躍的に高まっていたに違いない。
○嶋津暉之(しまず・てるゆき) 水源開発問題全国連絡会・共同代表
1943年生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得満期退学。2004年年3月まで東京都環境科学研究所勤務。八ッ場あしたの会運営委員。著書に『水問題原論』(北斗出版)、『やさしい地下水の話』(共著、北斗出版)、『首都圏の水が危ない』『八ッ場ダムは止まるか』、『八ッ場ダム 過去・現在そして未来』(以上共著、岩波書店)などがある。
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■八ッ場ダムがあまりにもタイミングよく試験湛水を行っており、劇的にその風情を変えたことから、ダムの効能がもてはやされすぎてしまった感があります。
国交省の観測記録によれば、「降雨を観測した10月11日午前2時から13日午前5時までに、約7500万m3の水をダム湖にため込んだ」とあることから、確かにその分の水量は下流に影響を及ぼさなかったのは事実です。したがって、「10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部でいえば、八ツ場ダムの洪水位低下効果は17㎝程度あった」ことになります。
これを、八ッ場ダムの効果としてどのように評価できるかどうか、がポイントとなります。ゼロよりも17センチ低い方が堤防に対する負荷としては低減されたことは事実です。
しかし、今回は試験湛水という特別なタイミングに合致したまでで、もし八ッ場ダムが本格運用を始めていたら、使える洪水貯水容量は6500万㎥でしたから、今回の豪雨で溜め込めた約7500万㎥の水量のうち、余剰の1000万㎥は、そのまま緊急放流しなければならなかった筈です。そうすれば、逆に台風が過ぎ去ったあとの利根川の流量を増やす結果を招いたことでしょう。
今回、巷間で取りざたされている八ッ場ダム礼賛設は、どうも胡散臭い気がします。なぜなら、八ッ場ダムを推進してきた政府自民党が、官僚と一緒に異様にはしゃいでいるからです。
**********産経新聞2019年10月15日11:20
【台風19号】自民が対策本部会合 「八ッ場ダムが氾濫防止に」の報告も
↑【台風19号】水位が上昇した八ッ場ダム=14日午前8時6分、群馬県長野原町(本社ヘリから、恵守乾撮影)↑
自民党は15日午前、台風19号の影響で広範囲にわたり被害が出ていることを受け、災害対策本部の会合を党本部で開いた。出席者からは、早期の激甚災害への指定や被災地のライフライン復旧を求める声が相次いだ。
二階俊博幹事長は会合で「一日も早く(被災者が)元の生活ができるよう、全国各地から情報収集すると同時に的確な対応をしてもらいたい」と語った。
群馬県長野原町の「八ッ場ダム」が川の氾濫防止に役立ったとの報告もあった。群馬県選出の国会議員は「民主党政権のときに(ダム建設が)ストップされて本当にひどい目にあった。われわれが目指してきた方向は正しかった」と述べた。
**********毎日新聞2019年10月16日 20時00分(最終更新 10月16日 23時41分)
八ッ場ダム、効果あった? 赤羽国交相、氾濫防止の大きな要因になったとの見方示す
↑八ッ場ダム=2019年10月、西銘研志郎撮影↑
「コンクリートから人へ」のスローガンの下、旧民主党政権が2009年に建設中止を表明したものの、11年に方針転換して建設再開を決定するなど紆余(うよ)曲折を経た八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)。16日の参院予算委員会で、自民党の松山政司氏が、このスローガンを引き合いに出し、台風19号での八ッ場ダムの「効果」を尋ねた。
赤羽一嘉国土交通相は「本格的な運用前の試験(湛水(たんすい))を開始したばかりで水位が低かったため、予定の容量より多い約7500万立方メートル(の雨水)をためることができた」と説明。下流の氾濫防止の大きな要因になったとの見方を示した。
安倍晋三首相は「八ッ場ダムは大変な財政的負担もあったが、果たして後世に負担を残したのか」と述べ、「財政は何世代にもわたり対応しなければならないが、同時に後世の人たちの命を救うことにもなる。そういう緊張感の中で正しい判断をしていくことが大切だ」と政策の正当性を強調した。さらに「(政府の)国土強靱(きょうじん)化基本計画に基づき、必要な予算を確保し、オールジャパンで国土強靱化を進める」と訴えた。
旧民主党出身の玉木雄一郎・国民民主党代表は同日の記者会見で「八ッ場ダムを復活したのも民主党政権だ」と反論。立憲民主党の福山哲郎幹事長も記者団に「これだけ頻繁に災害が起こる国土になっている日本で、安心・安全な国土形成のための議論をしていくべきだ。鬼の首を取ったような議論をするのは今の段階で適切ではない」と述べ、批判した。【浜中慎哉、東久保逸夫】
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■巨額の公費を投入し、長年にわたって事業を引き延ばし、官僚や政治家により利用されてきた八ッ場ダムですが、当会は税金の無駄遣いの観点から、この事業の問題点を追及してきました。それらは2015年6月27日(土)午後1時35分から30分間、国土交通省主催の公聴会で公述人として、有害スラグ問題を主体に、発言した内容に凝縮されています。
○2015年7月1日:八ッ場ダム建設工事にかかる公聴会で有害スラグ問題を主体にオンブズマンが公述↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1652.html
この他にも、八ッ場ダムを巡る官僚による利権の構図の一端である齋藤烈事件を追及してきた経緯もありました。
○2015年6月5日:八ッ場ダム測量業務の贈収賄を巡る斉藤烈事件の協立測量の幹部らがみずほ銀行から融資詐取で逮捕↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1637.html
○2010年9月1~4日:八ッ場ダム推進でアブク銭にあずかりたい国交省職員の気持ちを体現した斉藤烈事件(その1~4)↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/522.html
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/523.html
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/524.html
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/525.html
○2010年9月5日:八ッ場ダム推進でアブク銭にあずかりたい国交省職員の気持ちを体現したもう一つの協立測量事件(その5)↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/526.html
○2009年10月18日:八ッ場ダム問題解明の鍵を握る斉藤烈事件の刑事保管記録閲覧を巡る東京地検の対応↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/351.html
○2009年10月7日:八ッ場ダムの不正の典型・・・斉藤烈事件の刑事記録閲覧許可を東京地検に督促↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/343.html
さらに、巨大ダム事業で生み出された巨額の公費投入の結果、そのカネが自民党のみならず民主党にも還流し、政治色に染められていった過程も追及してきました。この7月から群馬県知事に就任した一太知事も、ちゃっかりとダム建設業者から献金を受けていました。
○2009年12月19日:税金が政治家に流れムダな事業で談合した金がまた政治家へ…八ッ場ダムの利権スパイラル↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/388.html#readmore
そしてそのカネの一部は当然、移転に揺れた地元住民らの生活にも影響を与えました。
○2009年10月18日:八ッ場ダムで権力を相手に立派にカネの生る木を育てた御仁の話・・・週刊新潮の場合↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/350.html
さらには、マスコミもそのカネの力でペン先を鈍らせてしまいました。
○2009年10月16日:民主政権下における「記者クラブ」制度のありかた・・・八ッ場ダム報道の例↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/348.html#readmore
■そもそも、当会が八ッ場ダム問題にかかわり始めたのは、今から10年以上前の2009年冬でした。地元関係者のかたがたから、あまりにも酷い地元有力者を中心とした政官業による利権の構図の実態が当会に報告されたためです。最近で言えば、関電を手玉に取った高浜町元助役を軸とした政官業の癒着の構図にそっくりです。
○2009年2月28日:政官癒着の権化・税金ムダ遣いの象徴/カネまみれ八ッ場ダム物語↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/197.html
○2009年3月1日:八ッ場ダム物語/巨額利権の間接恩恵?かみつけ信組への資本注入↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/198.html
○2009年3月2日:八ッ場ダム物語/丸岩会に所長を講師派遣した国交省の言い分↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/199.html
その後、国交省の現地事務所を舞台とした職員による汚職事件が密かに発覚していたことが分かり、その刑事記録を調べるため、東京地検と交渉しました。
○2009年7月10日:八ッ場ダム控訴審に向け公金ムダ遣い実態解明のため刑事記録閲覧を東京地検に請求↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/282.html
同じころ、政治的にも変動が起き、自民党から民主党へ政権交代が起きました。民主党政権化では当初の鳩山政権下で、前原国交省が八ッ場ダム凍結を宣言しましたが、次の野田政権下で前田国交省が方針転換をして、一転、八ッ場ダム建設推進へと舵を切り替えてしまいました。しかし、この政治変動のおかげで、八ッ場ダムの利権の実態が世間に知られることになったのでした。とりわけ、地元有力者を中心とした丸岩会の存在が、当会のブログを見た週刊誌の報道により広く拡散し、前時代的な利権構造が浮き彫りにされました。
○2009年9月1日:民主党政権誕生が迫り、断末魔のあがきの八ッ場ダム推進派関係者↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/326.html
○2009年9月22日:政官業癒着と税金ムダ遣いの象徴・・・八ッ場ダム推進派による丸岩会の所業↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/336.html
○2009年10月3日:八ッ場ダムを取り巻く政官業癒着のシンボル丸岩会の関係先リスト↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/340.html
○2009年10月5日:週刊ポスト10月16日号の衝撃記事!「背信のゴルフコンペ」が指摘する群馬の恥部↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/342.html
○2009年10月11日:今回はダム役人に焦点・・・八ッ場ダム問題を扱った週刊ポストの記事第2弾!↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/345.html
■こうして巨額公共投資による利権が生んださまざまな歪みや思惑を伴いながら、人的にはコネ、癒着、文書偽造、背任、着服、横領などが繰り返され、物的には、ダム湖内に違法に投棄されたフッ素や六価クロム入りの有害スラグはそのまま残置され、草津温泉万代鉱から大量に湧出する強酸性の湯を石灰ミルクの注入で中和させる事業により、直下に造った生成物沈殿専用の品木ダムに溜まった堆積物の除去も半世紀を経て周辺の処分施設が満杯となるなど、課題をそのままダム湖に水没させて、八ッ場ダムが来春から本格稼働することになります。
筆者の誕生年と同じ1952年に建設省が長野原町長にダム調査を通知してから67年を経て、総事業費が約6500億円の巨大事業がようやく稼働の運びになりました。評価の切り口はさまざまですが、本当に投入費用に見合った治水、利水に役立てられるのかどうか、評価は後世代に委ねることになることでしょう。当会の八ッ場ダムについての評価は、無駄遣いがつきものの大型公共工事の負の遺産の典型として位置付けております。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
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