薬害の元から治療の主役へ 管理体制形骸化に懸念も サリドマイド再承認10年
2019年1月4日 (金)配信共同通信社
かつて胎児への深刻な薬害で販売が中止されたサリドマイド。血液がんの一種、多発性骨髄腫の治療薬として国内で再び承認されて10年が過ぎたが、妊婦の服用などの事故はなく、治療の主役として、より安全な薬剤開発の研究も進む。一方、承認時に設けられた安全管理体制の見直しが進み、被害者団体は形骸化を懸念している。
▽希望
「過去に薬害を起こしていても、きちんと管理すれば患者にとって希望になる」と話すのは、「日本骨髄腫患者の会」の上甲恭子(じょうこう・きょうこ)代表(50)。
厚生労働省による国内販売の再承認は2008年10月。その際、条件となったのは、服用する患者が妊娠を避けているかや、紛失がないかなどをチェックする仕組みの確立だ。販売元の藤本製薬(大阪府)は、処方する医師、薬剤師、患者を登録し、同社が一元管理する安全管理策「TERMS」を策定、再使用の道を開いた。
長年治療に取り組んできた名古屋市立大の飯田真介(いいだ・しんすけ)教授(血液・腫瘍内科)によると、この10年で、かつて発症から2~3年とされた患者の生存期間は平均5~6年に延び、通院しながら治療できるようになるなど生活の質も向上。飯田教授は「サリドマイドを元に開発された2種類の薬も含め多くの患者がどれかを使っている。なくてはならない薬」と指摘する。
藤本製薬によると現在、約1万2千人がサリドマイドを使用している。
▽安全性
患者の多くは高齢で妊娠の可能性は低いが、家族が誤飲するなどの恐れから、より安全性の高い薬の研究開発も進む。
サリドマイドには右手と左手のように鏡合わせの関係にある二つの構造があり、動物実験から右手型には奇形を起こす働きがないと考えられている。一方で、右手型が体内で危険な左手型に変わることも知られており、なぜ右手型を与えたときに奇形が起きないのかは謎だった。
名古屋工業大の柴田哲男(しばた・のりお)教授(フッ素化学)は、右手型と左手型を3対2で混合したサリドマイドを試験管内で溶かし、溶液の温度などを血液に近い状態にして放置すると、右手型だけが溶液中に残ることを見つけ、今年11月発表した。左手型は一部の右手型と結合し、吸収されにくい結晶となっていたという。
柴田教授は「安全な多発性骨髄腫治療薬を開発する上で大きな手掛かりになる」とし、詳しい仕組みの解明を続ける。
▽負担軽減
「手続きが煩雑だ」。09年2月の販売開始からまもなく、処方の度に胎児への影響や避妊に失敗した際の対処法などについて患者の理解度を確認するTERMSの手順見直しを求める声が医師や患者から上がり、1回の処方量を増やすなど負担軽減が図られた。来年2月には、妊娠の可能性のない女性患者に薬の管理状況を半年に1回尋ねる定期報告が廃止予定だ。
患者団体は全ての患者での廃止を目指すが、サリドマイドの被害者団体「いしずえ」の佐藤嗣道(さとう・つぐみち)理事長(56)は「定期報告で患者の行動を把握し、問題があれば介入する仕組みだったはず。廃止はシステムの根幹を否定する」と懸念している。
※サリドマイド
旧西ドイツで1957年に睡眠薬として発売され、日本を含む各国で販売された。61年に西ドイツの小児科医が、妊婦の服用で赤ちゃんに手足が短いなどの障害が出ると発表。欧州では同年から回収が始まったが、日本では62年9月からと遅れた。国内の認定被害者は309人。海外で90年代からハンセン病に伴う皮膚病や多発性骨髄腫などへの有効性が注目され、日本では2008年に、他に治療法がないか再発した多発性骨髄腫への治療薬として承認された。
2019年1月4日 (金)配信共同通信社
かつて胎児への深刻な薬害で販売が中止されたサリドマイド。血液がんの一種、多発性骨髄腫の治療薬として国内で再び承認されて10年が過ぎたが、妊婦の服用などの事故はなく、治療の主役として、より安全な薬剤開発の研究も進む。一方、承認時に設けられた安全管理体制の見直しが進み、被害者団体は形骸化を懸念している。
▽希望
「過去に薬害を起こしていても、きちんと管理すれば患者にとって希望になる」と話すのは、「日本骨髄腫患者の会」の上甲恭子(じょうこう・きょうこ)代表(50)。
厚生労働省による国内販売の再承認は2008年10月。その際、条件となったのは、服用する患者が妊娠を避けているかや、紛失がないかなどをチェックする仕組みの確立だ。販売元の藤本製薬(大阪府)は、処方する医師、薬剤師、患者を登録し、同社が一元管理する安全管理策「TERMS」を策定、再使用の道を開いた。
長年治療に取り組んできた名古屋市立大の飯田真介(いいだ・しんすけ)教授(血液・腫瘍内科)によると、この10年で、かつて発症から2~3年とされた患者の生存期間は平均5~6年に延び、通院しながら治療できるようになるなど生活の質も向上。飯田教授は「サリドマイドを元に開発された2種類の薬も含め多くの患者がどれかを使っている。なくてはならない薬」と指摘する。
藤本製薬によると現在、約1万2千人がサリドマイドを使用している。
▽安全性
患者の多くは高齢で妊娠の可能性は低いが、家族が誤飲するなどの恐れから、より安全性の高い薬の研究開発も進む。
サリドマイドには右手と左手のように鏡合わせの関係にある二つの構造があり、動物実験から右手型には奇形を起こす働きがないと考えられている。一方で、右手型が体内で危険な左手型に変わることも知られており、なぜ右手型を与えたときに奇形が起きないのかは謎だった。
名古屋工業大の柴田哲男(しばた・のりお)教授(フッ素化学)は、右手型と左手型を3対2で混合したサリドマイドを試験管内で溶かし、溶液の温度などを血液に近い状態にして放置すると、右手型だけが溶液中に残ることを見つけ、今年11月発表した。左手型は一部の右手型と結合し、吸収されにくい結晶となっていたという。
柴田教授は「安全な多発性骨髄腫治療薬を開発する上で大きな手掛かりになる」とし、詳しい仕組みの解明を続ける。
▽負担軽減
「手続きが煩雑だ」。09年2月の販売開始からまもなく、処方の度に胎児への影響や避妊に失敗した際の対処法などについて患者の理解度を確認するTERMSの手順見直しを求める声が医師や患者から上がり、1回の処方量を増やすなど負担軽減が図られた。来年2月には、妊娠の可能性のない女性患者に薬の管理状況を半年に1回尋ねる定期報告が廃止予定だ。
患者団体は全ての患者での廃止を目指すが、サリドマイドの被害者団体「いしずえ」の佐藤嗣道(さとう・つぐみち)理事長(56)は「定期報告で患者の行動を把握し、問題があれば介入する仕組みだったはず。廃止はシステムの根幹を否定する」と懸念している。
※サリドマイド
旧西ドイツで1957年に睡眠薬として発売され、日本を含む各国で販売された。61年に西ドイツの小児科医が、妊婦の服用で赤ちゃんに手足が短いなどの障害が出ると発表。欧州では同年から回収が始まったが、日本では62年9月からと遅れた。国内の認定被害者は309人。海外で90年代からハンセン病に伴う皮膚病や多発性骨髄腫などへの有効性が注目され、日本では2008年に、他に治療法がないか再発した多発性骨髄腫への治療薬として承認された。
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