もはや「理論武装」漫画家というカテゴリーにおいて他にない存在感を放ち続けるのが三田紀房である
最初の出会いは「ドラゴン桜」だった。会社の女子が「絵が苦手かもしれないけど」と勧めるが一気に惹きつけられた。当時の部署では書籍代で全巻購入した。なにより「勉強になる」のだからと僕は上司を説得した。流行を中傷しているだけでは本質はつかめない,ヒット商品など作れないと説き伏せた。
そして「砂の栄冠」などを読んできたが,「アルキメデスの大戦」において,三田紀房はようやく悲願成就しているのではないだろうか
僕より実年齢で10歳ほど上,ということは,三田紀房の父母世代はかなりリアル戦争体験の人々。僕の父母など所詮は田舎暮らしで都市での悲惨さも空襲も知らないのだ。
三田紀房マンガの最大の特長は次の点であろう。
- 徹底した理論武装。
- 歴史をかならず振り返る。
- 居丈高(いたけだか)など,熟語にルビつけして使用。
- わかりやすい解説。
- 自分の感じたことを主人公に演じさせている
受験を扱った「ドラゴン桜」,お金を扱った「砂の栄冠」「インベスターZ」,戦争をテーマにした「アルキメデスの大戦」であるが,どれもこれも三田紀房の考えが全面に出されているからこその支持であろう。
長寿マンガとしては「ゴルゴ13」をおいてほかないが,こちらは「プロダクション制」でネタ切れを防いでいる。防いでいるどころか先読みさえしている。卓越したドラマの創造主を漫画家がまとめるという,劇画ならではの作法。
三田紀房作品もおそらくはこうした「参謀」がいるはずである。編集者だけの協力でここまでリアルに描けるものではない。東条英機のキチガイさ加減を「魔物にとりつかれている」と描くことは誰だってできるが,主人公と対決させるなんて発想はいままであったとしても実行されなかった。
自然感を描かせたら世界一の矢口高雄,努力と根性を書かせたら梶原一騎。天才としかいいようのない手塚治虫。
さまざまな漫画家がいるし,現在のストーリーマンガの源流は間違いなく手塚治虫であるが,それでも比肩すべき存在のない三田紀房。
独特の絵も段々こなれてきたというか慣れてきた。
折を観て,他の作品も熟読しよう。