Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

たかが粘板岩されどスレート

2009-09-25 | ワイン
日本から訪れたお客さんのお蔭で自らは進んで行かなかったであろうワイン栽培地域を訪れた。特にルーヴァーの谷へと踏み込んだのは今回が初めてだったようで、「やはり田舎だ」と都会の郊外に住む住人には思わせる。まるでシュヴァルツヴァルトの谷を進むような趣で、酪農もあるようで驚いた。その日はこの谷に泊まって、明くる日訪れたのはナーへの谷である。ここも一部知らない谷間をはじめて走行した。両方の谷を態々訪れてワインを物色すること自体がマニアックなのである。

詳細は追々報告するとして、マクロな目で切ってしまうと次ぎのようになる。今回訪れた中部モーゼルや先日のラインガウまでを含めると殆どドイツリースリングの2009年現在における全容が見通せたといっても過言ではなかろう。

先ず甘口ワインに関しては、やはりモーゼルヴァインに利があることが分かった。これと比べると、温暖化している現在特にラインガウのそれは問題にならない。またプファルツなどでも2008年産には十年に一度の良いものがあったのだが、上等のリースリングの中で喉に甘さが引っかからずすっきり飲めるのは甘口の中でも二割にも満たないことから考えると、中部モーゼルのヨハン・ヨゼフ・プリュムなどの甘口リースリングは他の追従を許さないバランスの配合に満ちている。

一方、ルーヴァーの辛口リースリングは恐らくスレート地盤のそれの一方の雄であるのは間違いなかった。同じ上モーゼルの支流であるザールのような土壌の重さはなくその酸も引き締まった感じがする。同じスレート香のあるラインガウのものと比較すると、ラインガウのものが口に含んだ時間的経過の最初にその臭みが立ちはだかるのと異なり、その酸が前にはだかる長い後味として独特の苦さを引くのがルーヴァーのそれであって、なかなか他の地域では出会えない辛味のスレートの旨味があるのだ。

ナーヘに関しては、あとを引く味のスレート基本としても、その土壌の変化に富むのだが、なぜかその独特の酸の出方は醸造所によらず共通していて、綺麗な熟成があまり期待出来ない。要するに中部ライン地方やベルクシュトラーセのリースリング同様に、個性はあっても洗練された魅力には乏しく、「質に問題あり」としか言えないのである。土壌の潜在能力も限られているものが多そうで偉大なリースリングは存在しないだろう。ベルクシュトラーセと対にして考えるのが良いだろうか。

この三地域とラインガウ地方を加えると略スレート土壌の多様な味覚が確認できて、それと雑食砂岩ベースのリースリングを合わせて考えるとリースリング行脚は完結する。そこに酸を丸くしてしまう石灰成分を加えるなり、火山性の土壌の調味料を加えると出来上がりとなる。

ヴィンテージの特徴を、2003年、2004年、2006年、2007年、2008年と試飲して吟味する事が出来たが、それは殆ど他の栽培地域とも共通していた。2003年などが売り切れずに余っているのは豊作もあるのだろうが、その酸不足から業者は手を出さなかったのかもしれない。2004年はその涼しい夏から温暖化の影響を受けていない細身のクラシックなヴィンテージとなり、2006年は腐りが襲った葡萄から出来上がった早い熟成香が特徴となっていて早飲みのワインとなっている。2007年はモーゼルでは葡萄の生物学的熟成が進まなかったのか他の地域とは異なりよりクラシックなワインとなっているようである。しかし2004年とは異なり立派なボディーがあって熟成が愉しみなリースリングで、1959年産に匹敵すると言われる。2008年産は、どの地域も独特の葡萄の出来上がりでそのスパイシーさは、下位のワインでは明らかに嫌味な味として浮かび上がり、やはりこの地域でも上位のリースリングとしてはじめて飲めるヴィンテージとなっている。

今回はルーヴァーヴァイン愛好家でこの地域に一際造詣の深い緑家さんの醸造所訪問に便乗させて頂き、大変有意義な試飲の機会を与えられたことを感謝したい。そのワインの詳細については、嘗てからの疑問であった特定の食事 ― 日本食など ― への相性や、雑食砂岩リースリングとの差異を軸として改めて吟味する。
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