Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

トーンハレの代替ホール

2018-09-22 | 文化一般
承前)チューリッヒから戻ってくると二時を過ぎていた。途中で眠くなって30分以上二回も休んでいたからだ。スタンディンオヴェーションになってから舞台の下でハイティンク氏が佇んでいたが、あれは望外に上手く行ったので楽団員を迎えるようでもあり、そのあとまた呼び出されるつもりだったのか、実際そちらの方に駆け寄るおっさんもいたが、こちらも帰りを急ぐ身でありどうなったかは知らない。私自身ミュンヘンのオペラでも最後まで居残るようになったのは「タンホイザー」ぐらいからでありそれ以前はそれほどの必然性を感じていなかった。やはりあれはアウトグラムを貰うとか話しかけるとかとは違って、よほどの賞賛の意思が無いと暇潰しでは出来ない。

今回の旅の目的は当初から、トーンハレの代替であるマーグのホール見学にあった。勿論そこで音を聞かないといけないのでパーヴォ・ヤルヴィの演奏会を探していたら、先ずここ二年ほど聞いてみたいと思っていたハイティンク指揮の会があるので一番安い席を購入した。そのハイティンクは周知のようにMeToo騒動で代わりとして急遽ルツェルンで振ることになって一足先にマーラーの交響曲で聞いたのだった。それでも会場と共に、今回出掛けた甲斐があった。

なんといってもこの会場は今一番評判のいい会場でエルブのように初期修正する必要も無く、ズルヒャー湖畔トーンハレが改修されれば解体が決まっている。そして既にシナからは解体したそのままの買い付けオファーが出ている。それを知った指揮者ヴェルサー・メストは「これは百年に一回の幸運で、解体などあり得ない」とその会場の価値を表現している。実際1200席しかないのでどの管弦楽団が弾いても贅沢で、更に音が飽和しない。一人頭の容量が充分にあると見える。
TONHALLE MAAG l KLANGKUNST

Shostakovich Viola Sonata Op. 147 arr. Viola & Orchestra


最初に入った時に何人かの楽員が思い思いに音出しをしていたので、色々な場所から聞かせて貰った。小さな割には癖が無く、なにか上等の音楽室を大きくした感じだ。左右の壁を傾斜させているだけで、それほどの特徴は無いシューボックス型で、天井の反射板を含めて全てがモミの木だからIKEA素材ホールと言われている。それどころか外壁も同じだから、鉄筋に板を張り付けたような構造だ。それが視覚だけでなくとても素直な音になっている。簡単に説明すると空いた工場の中にプレハブで中に巨大な音楽室のホールを造ったようなものだ。つまり雨漏りなどの外壁処理はIKEA素材に必要ない。それでも一番交通の多いストップアンドゴーを繰り返すハルトブリュッケの脇にあるが、意外に騒音を感じなかった。なぜだろう。
Tonhalle Maag in 7 Monaten in 4 Minuten


最も安い席30フランケンだったので、前から三列目の一番端でバルコンの下だった。私のような最初に購入した人にこの配券は失礼だと思うが、後半は五列目が空いたので、その真ん中側の庇の無いところに出た。調べると80フランケンの席だった。それでも全奏でも決しておかしな反響や残響や共振が無かったからやはり奇跡的だと思った。同じ素材の台のような舞台も低くはないがそれ程高くは無いので、特に横から指揮者とヴァイオリン群を代わる代わる見るには都合が良かった。なによりも近いので細かな表情とかが分る。お互い様である。なるほど大きな管弦楽で全体像が見えないとか楽器への見通しが効かないとかいうのはあるが、楽譜をある程度調べているなら大丈夫である。平土間で遠くで視界が効かないよりも良いかもしれない。久方ぶりの被り付きだった。

バックステージは最低限しかないようで、直前になってから客席を通って着替えて楽器を持ってくる楽員が多かった。ロビーは工場の一部といった感じで、スイスなどにもよくある剥き出し感を使っている ― それどころか私の知っている日本でも公演しているスイス人音楽家などはそのような印刷工場跡地のようながらんどうの下に布団をひいて暮らしていた。あれで落ち着く人が居るのも不思議だ。その手のバー宜しく飲食物も出は悪くは無さそうだった。但し初日はガイダンスが無かったので知らないが、別の部屋を使わないと落ち着いて聞いていられない。ヘルメットを被っての工場見学ではないのだから。(続く



参照:
ホールの長短を聞き取る 2018-09-10 | マスメディア批評
管弦楽への圧倒的熱狂 2018-06-08 | 文化一般
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