習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『僕は妹に恋をする』

2007-02-09 00:25:19 | 映画
 映画としては、これはかなりきついと言わざる得ない。きっと、つまらないというブーイングの嵐が聞こえてくる。僕にしてもこれを手放しで褒める気にはならない。ただ『blue』の安藤尋が次なるステップとして自分に課した宿題はかなり過酷なものだと想像がつく。これは単なる一人よがりの映画ではない。

 人と人の関係を突き詰めて行ったなら自分と相手だけになってしまい、それをとことんストーリー性を排除して見せていくとこういう映画になってしまうということなのだ。

 登場人物はたった4人である。もちろん背景として他にも人は出てくるが彼らがこの4人に口を挟むことはない。というか、正確には4人ではなく2人だけの話だ。

頼(松本潤)と郁(榮倉奈々)という双子の兄妹は、生まれる前からお互いに愛し合い、その気持ちをずっとお互いの心の中に封印したまま18年間生きてきた。しかし、ある日2人の間の堰が切れてしまい、結ばれてしまう。その後2人は一度は冷静になり、距離を取ろうとするが、やはり、そんなことは不可能で自分たちの気持ちに正直になろうとする。

 ただそれだけの話だ。それを2時間強の上映時間で淡々と見せる。ドラマチックな盛り上げ方は一切しない。母親(浅野裕子)は2人のことに気付いても何も言わないし、クラスメートや先生すら彼ら2人に関わりを持たない。というか、周囲と彼らとの関係性は描かれないのだ。そして、描写はだんだん2人のシーンに終始していく。

 彼のことが好きな女の子(小松彩夏)と、彼女のことが好きな男の子(平岡祐太)は確かに出てくる。(この子は実は頼のことが好きだったりする)登場人物はこの2人を入れて4人と最初にも書いた。しかし、彼らもこの兄妹の中には割り込むことは出来ないのだ。

 好きだという2人の感情だけが、この映画の中には描かれる。高校3年なのに受験とか、クラブだとか、将来のこととか、そんな当たり前のことは何一つ描かれない。それでは、映画として不備だ、という指摘がなされるなんて承知の上で、ただ純粋な感情だけで1本の映画を構築してみせる。

 誰もいない教室、校舎の屋上、河原、等々。2人の周りには彼らを邪魔する存在は一切出てこない。2人だけの世界を作り上げる。この映画のリアリティーは彼らの感情の動きだけにあり、彼らに見える世界も、現実ではなく、彼らの感情が映像として表現されたものなのだと思ったほうがよさそうだ。

 ラストで、子どもの頃見た風景をもう一度見に行くと、そこはもう以前の美しい場所ではなくなっていた、というエピソードが描かれる。2人は子どもの頃やったように、ジャンケンをして負けると相手をおんぶするという遊戯を始める。目に見える世界でなく、おんぶするという子どもじみた行為で、身体を重ねあわせていくことのリアリティーのみを実感するところで映画は終わっていく。不思議な映画である。しかし、この究極のドラマにはある種のリアルがある。

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