
これは「のん」のための映画。彼女がいたから成り立つ世界。彼女のオンステージを滝藤賢一と田中圭が絶妙にアシストする。その見事なアンサンブルプレーに拍手。山の上ホテルを舞台にしたワンシチュエーションコメディ、かと思ったらなんのなんの。あちらこちらと舞台を移し、手を替え品を替えての騙し合い。監督は堤幸彦。当たり外れが大きい彼だから不安だったけど、今回は大ヒット。(観客動員は残念だが)
もちろんそれは単にのんのおかげ。滝藤演じる文壇の大御所とのバトルが楽しい。彼らのふたり芝居タイマン勝負。もちろんのんの1人勝ちだけど、だんだん2人がバディになってくる展開も素敵だ。こんなにも幸せに笑える映画だなんて思わなかったから、嬉しい誤算に驚く。
大袈裟な芝居もふたりなら大丈夫。鼻にはつかない。のんが演じる新人作家のわざとらしいくらいの「絶対売れる作家になってやる!」という気合いが凄い。それがまるで卑屈じゃないのもいい。これは作者である柚木麻子本人じゃないの、と思わせるほどのリアルさ。(もちろん褒めてます!)それがシリアスじゃないからリアル。こんなバカ騒ぎを平気にこなすのんは素晴らしい。「もちのろん」なんて言うセリフを頻発しても恥ずかしくない。それを納得させるには他の人では不可能。
絶対作家になってやる、という猪突猛進ぶりや原作の現代から昭和時代、1984年に変更したのもよかった。それによって可能になったのんの着用するクラシックな衣装がまた、いい。取っ替え引っ替えのファッションショーも素敵だ。
20代後半から30代に突入する時間、ひたすら売れて作家目指して戦う彼女とそのライバルになる大家、さらには裏切りまくるけどちゃんと支えてもくれる先輩編集者。3人によるバトル。最後に笑うのは誰か? このお正月映画最大の面白さ。見逃すな!