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映画・演劇のレビュー

『世界でいちばん美しい村』

2025-03-10 13:56:00 | 映画
2015年4月、ネパールを大地震が襲った。その直後、3日後に報道写真家の石川梵が現地に向かう。東日本大震災からまだ3年。あの時も彼は被災地に向かったらしい。その感じた無念を胸に秘めて、震源地となった山間のあるラプラック村にやって来た。これはそこで暮らすひとりの少年アシュバドルとその家族に寄り添って石川梵監督が過ごす日々のドキュメンタリーだ。震災からの日々、村ごとの移転、翌年の村祭りまでが描かれる。

自分が見たことをカメラに収めて、ここで何が起きているのかを彼らの生活のスケッチの中から描く。彼は報道カメラマンというより友人。ここで暮らす人たちの悲しさに寄り添い、一緒に復興に向かって日々を暮らす。石川自身の感情的なナレーションと倍賞千恵子による冷静なナレーションが交錯する。主観と客観を交えて映画は綴られていく。

ドローンを使った空撮は圧倒的で美しい。だけどそれと並行して完膚なきまでに破壊されてしまった瓦礫の村で暮らす人たちの姿が描かれる。彼らの悲劇を描くのではない。石川はまずそこに行き、彼らを見つめる。だけど、いつまでも泣いてるわけにはいかない。ここでも生活がある。

近隣の村に村ごと移住することを促されるがここでずっと生きてきた老人たちはここを離れることを拒絶する。さりげなくそんないくつものドラマをそのまま見せる。そこにはドラマチックな演出はない。ただ真摯にカメラを向ける。

村全体のお話と少年の家族のスケッチが描かれていく。少年の父親は放牧を仕事にしていてほとんど家に帰れない。だけど出稼ぎはしない。出稼ぎに出たら何年も帰れないからだ。たとえ収入は少なくても家族の近くにいたい。

震災から数ヶ月、ようやく電気が付く、壊滅している学校が再開する。少しずつ日常が戻ってくる。映画は丁寧にそんな日々の出来事を描く。

映画は少年の一家と若い看護師の女性を中心にして、石川によるインタビューやドローンによる空撮を介し、震災後の村の姿が描かれる。ここを敢えて世界でいちばん美しい村と言ってしまった石川の想いがしっかり伝わってくる良質のドキュメンタリー映画である。

これは「ここであったことをたくさんの人たちに伝えて欲しい」という少年の願いを形にした石川さんから彼への、そして我々への贈り物である。自分たちが生まれ育った故郷で生きること。そこを大切にすること。そんな当たり前のことを映画は最大限の愛おしみを込めて描く。明日は東日本大震災から14年目の3.11である。

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