ギレリス「ベートーヴェン ピアノソナタ第30番&第31番」


 ピアノのディスクの中でグールドのゴルドベルク変奏曲と並んで特に愛聴してきたギレリスによるベートーヴェンの後期ピアノソナタです。

 たまにですが、私がクラシック音楽ファンだと分かると何かお薦め曲はないかと訊いてくる人がいます。まあほとんどの場合は社交辞令なので適当に答えておくのですが、本気で何か聞きたいんだなと分かるとどういう系統の音楽をイメージしているのか訊ねます。よく分からないけどピアノとかオーケストラとかでお薦めをという話しになるのでベートーヴェンのピアノソナタとモーツァルトの交響曲のディスクを数枚貸して差し上げることになります。

 ベートーヴェンは中期の傑作を集めているディスク2枚に、このギレリスによるディスク。その結果、感激した方からこのディスクは本当に凄いねと言われることもあります。前置きが長くなりましたが、私にとってこのディスクは愛聴盤であるとともに自信を持って初心者の方にもお薦めできるディスクです。好みを超越して人の心を揺り動かす力があると思います。

 ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲は名曲揃いですが、昔の巨匠のオーソドックスな演奏を好みます。バックハウス、グルダ、アラウ、ゼルキンであればどれも感動的で間違いはありません。
 ただ、30番と31番はギレリス盤がいいです。死の前のラストレコーディングとなったもので、抜け切った諦観による純粋な音楽といったらいいのでしょうか、厳かな響きが聞かれます。
 ラストレコーディング、最後の演奏会というとバックハウスのシューマン、カラヤンのブルックナー、リパッティのショパンなどを思い出します。晩年精度が落ちてきた演奏が最後の最後に芸術家の意地でしょうか、純粋な芸術として結実しています。

 その中でもギレリスのベートーヴェンは特別で、私にとってこの世に存在する最も素晴らしいディスクの一枚です。


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