奥田英朗「最悪」


 会社近くの有隣堂の中をぷらぷらとしていると、文庫コーナーで「最悪 最高」という店員による手書きPOPが目に入りました。最悪、最高の語呂が可笑しくて手に取りました。奥田英朗の作品です。奥田英朗は「空中ブランコ」で直木賞を取った、一風変わった小説を書く作家くらいの知識しかありませんでしたが、有隣堂の推薦傾向は信頼できるので(手書きPOPは結構厳選されている)、購入しました。

 滅茶苦茶に面白かったです。町工場の経営者、銀行OL、チンピラの3人に周りから見れば大したことではないんだけど本人には重大なトラブルが少しずつ舞い込みます。暫くはなんとか凌くのですがいろいろと重なってきて…。600ページ以上の厚さなのですが、人物の描写が絶妙に面白く、生きる環境の随分異なる3者の対比が際立っていて厭きさせません。最悪という題名からイメージするような暗さはなく、むしろ、困難にめげずに必死に生きている人間の強さ、滑稽さが爽やかな印象を残します。

 日本の犯罪小説では何と言っても桐野夏生モノが好きです。それ以外の作家は始めは面白いのですが、結末では話しが大きくなりすぎて収まらない、落ちに納得できないというものが多くて敬遠がちです。
 「最悪」でそういう破綻がないのは、他の犯罪小説のように殺人という日本において極端な状況をストーリーの中で普通に発生させるのではなく、誰もが遭遇する人と人の間のトラブルを展開の中心にしているからだと思います。この状況がいつ自分に起こってもおかしくない、自分ならどう対処しようかと考えさせる迫真の小説です。

 奥田英朗の別の小説も読んでみようと思います。


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バーンスタイン/バイエルン放送響「モーツァルト レクイエム」


 大好きなモーツァルトの楽曲の中でこれまでその魅力がよく理解できなかったのがレクイエムです。曲の性格からして弾むようなモーツァルト特有の愉悦感がないのは仕方ないにしても、かといって短調の陰のある美しさも感じられない、どうしてこの曲は世間では名曲ということになっているのだろうかという感じでした。

 それが、このバーンスタイン晩年の指揮のDVDを観て、聴いて納得です。こんなに美しいメロディ、歌とオーケストラとの掛け合いの妙に溢れた曲だと初めて知りました。好みではないとはいえ、これまで10回以上は聴いてきました。ブリュッヘン、アバドの演奏が印象に残っているほうでしたが、このバーンスタインの演奏は初めてこの曲に触れた印象があります。えぇ!こういう曲だったの?という驚きです。特に、金管(トロンボーン?)のソロとバリトンが掛け合う箇所は鳥肌モノの感動がありました(当たり前だよ、これまで何を聞いていたんだよと呆れられそうですが)。
 私のような譜面の読めない素人リスナーには、こういう濃い口の味付けをした演奏でないとそもそも理解できない曲なのかもしれません。

 バーンスタインが亡き夫人の10周年に際し演奏したものなんだそうです。バーンスタインとモツレクだけではおそらく手に取らなかったと思うのですが、タワーレコードの横浜店でメモリアルイヤーにモーツァルトを聴くならこれと大推薦していたのでこの瞠目の機会に恵まれました。


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