レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人 』



 村上春樹翻訳では2作目。
 新鮮な語り口、人物描写に魅了されつつも話しがごちゃごちゃしてストーリーが難解。本当にハードボイルド、フィリップマーロウものの代表作、傑作なのかとハテナ疑問で読み進めましたが、最後は鮮やかな展開、収束。誰への表題の言葉なのかしっとりと余韻も残して最高。





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レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』




 村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』、面白かった。こんなに細かなシーンの積み上げだけで読ませる長編は余り記憶にありません。kindleで読んだので厚みは実感できないのですが文庫本だと645ページらしいのでかなりの大作といえます。長編だと少しずつプロットが見えてきて、大きな車輪がゆっくりと回り出すとあとはその前進に乗っかって楽しむのが普通ですが、このチャンドラーの長編は車輪は小さいままどんどん進んでいくのですが全然飽きさせない。主役のフィリップ・マーロウと魅力的な脇役達が先導役を務めて読者を引っ張ります。そして最後のページまできてようやくストーリーの全貌が分かる。スッキリしているけど味わい深い語り口のハードボイルド小説。これは楽しめました。
 チャンドラーのフィリップ・マーロウものは7作あり、全て村上春樹が翻訳しているようです。次はあの作品にしました。



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沢木耕太郎『流星ひとつ』







 最近、ずっと藤圭子を聴いています。こぶしを効かせた低音、痺れます。以前はヒット曲中心でしたが、改めてアルバム全体をじっくり聴くと最高の仕上がりです。1970年3月から1971年1月まで42週連続でオリコンのアルバムチャートで1位を獲得、この記録は今も破られていないそうです。

 どうして藤圭子のアルバムを持っているのか記憶が曖昧だったのですが、2013年に藤圭子が死んでその直後に沢木耕太郎が1979年に実施したインタビューをまとめた本書が発売されて、その際に購入したようです(たぶん)。本は非常に面白くて印象に残っていましたが藤圭子の歌の方は当時はそこまでのめり込むことはなかったです。

 『流星ひとつ』を再読。どうして28歳という若さで引退するのかを中心にこれまでの人生、歌、芸能界などについて酒を飲みながら語り合った一部始終。このノンフィクションがどうしてこんなに面白いのか、読了後何日か考えていましたがはっきりとしません。藤圭子のさっぱりとした性格の魅力、歌詞の良さ、彼女を見出した作詞家の石坂まさをの俗っぽさ、子供の頃からのドサ回り生活の昭和の味わい、初めの夫の前川清の味、沢木耕太郎のスタンスの巧妙さ、引退への経緯の興味深さ、宿命の不思議などなど。ここまでシンプルに会話だけで一人の歌手、女性の生き様を表した。素晴らしいです。

 それと普段は割り切って考えもしないのですが、藤圭子の歌はレコードで聴くときっともっといいだろうなぁと妄想を膨らませています。



 
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坂口恭平『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』



 全てを無くしたとしてもゼロから始めればいいと気持ちをリセットさせてくれる名著です。たまに読み返します。
 言葉だけだと軽くなる内容を具体的、実践的なノウハウ伝授で怠けきった心を激しく叱咤激励、鼓舞します。




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桐野夏生『燕は戻ってこない』




 桐野夏生の毒のある同時代小説をたまに無性に読みたくなります。
 テーマに乗れないものもありますが、嵌れば最高に面白いです。これも久しぶりの一気ものでした。テーマ、この物語の味について色々と書こうとしたのですが言葉に置き換えても虚しいだけなので省略です。ダークで現実は重いけど痛快。


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マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』




 プイグの「蜘蛛女のキス」、再読です。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの刑務所の監獄で反体制派の政治犯バレンティンにゲイで未成年者への猥褻罪で収監されているモリーナが、毎夜昔観た映画の話しをする。

 モリーナの語り口はテレビで見るマツコと同じオネエ言葉で何故か耳に心地よくて(実際は読んでいるのですが聞こえてくる)、話しがイメージの中で容易に映像へと膨らんでいきます。
 モリーナによる濃密な映画の話しに魅了されるうちに徐々に状況や二人の関係も明らかになっていき、ストーリーは意外な展開をみせていきます。

 ラテン文学はガルシア・マルケスを数冊読んだだけですが、マルケス同様に他では読めない独特の幻想的で政治的な世界観があります。すごく面白い。

 何ヵ月前か、ニューズウィークを読んでいると、世界貿易センタービルに突っ込んだ2機目は本来はホワイトハウスに向かう予定だったのが、長い潜伏、同居生活の中で愛人関係となった犯人が1機目の恋人と一緒に死にたくて予定を変更してニューヨークに向かったのが最近の分析・定説になっているとありました。
 
 最後の方はそんなことを思い出しながら読んでいました。



 

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エリフ・シャファク『レイラの最後の10分38秒』





 トルコの女性作家エリフ・シャファクのことは週刊誌ニューズウィークの2022年新年号の特集冒頭にエッセイを書いていて知りました。分断の時代に他者を理解するためには感情、物語が大切であるといった内容に感動しました。
 日本で翻訳されていた小説はこれだけだったので早速購入したものですが、ようやく読むタイミングが来ました。

 イスタンブールの街角のゴミ箱に打ち捨てられた娼婦のレイラが人生を回顧する物語。生を受けた環境、厳しい時代・文化背景の荒波の中を生きる女の子の試練の積み重ねと友人との出会いが感情抑え気味に淡々と語られます。

 後半は進行が遅く読むのが辛いところもありますが、レイラの感情を押し殺した忍耐、人生がくれた小さな幸せ、心の拠り所となった友情の温かさなどがしみじみと伝わってきます。

 日本人、アジア人、欧米人などとは違う異文化の香りが楽しい。同じような印象のあるアフガニスタンの『千の輝く太陽』やアルゼンチンの『蜘蛛女のキス』などを読み返したくなりました。



 
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西加奈子『くもをさがす』





 他人様の闘病記を読み物として楽しむのは趣味が悪いというか、どうかと思いましたが、作者の渾身の読者へのメッセージであるらしいこと、また、自分も似たような時期に病気したしと言い訳しながら手に取りました。

 「無人島のふたり」は、突然余命宣告された翌月の2021年5月24日から亡くなる9日前の10月4日までの日記です。作者が愛した軽井沢、夫、仕事の仲間たち、大好きな小説・漫画、人生との別れの想いが切ないです。

 「くもをさがす」は同じく2021年5月下旬に異変を医師に相談してからのカナダ・バンクーバーでの日本では考えられないような治療の様子を関西弁でドタバタ風にまとめたライブ日誌、哲学入りです。作者の心強さには本当に心打たれます。

 読んでおいてよかった。最近は外国の小説を読むのが辛くなっていて途中で止めることばかり、一方で日本の小説・ノンフィクション系もなかなか好みが広がらずに閉塞感があって、村上春樹と沢木耕太郎の再読ばかりになっていたのですが、この2冊を読んで世界が広がった感があります。2人が紹介している読み物、世界を少し探ってみようと思います。



 

 



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山本文緒『自転しながら公転する』




 山本文緒の『自転しながら公転する』、再読です。初読の時は単行本で再読はデジタルに変えることが多くなって重複(無駄)が増えていますが、kindleの便利さに慣れてしまったので仕方ありません。

 再読はストーリーを追うよりも各シーンをじっくり味わえるのでこういう面白く切ない物語はちょっと堪りません。32歳の都、30歳の貫一とは随分違う環境にいますが心が揺さぶられ続けます。

 2020年の発刊の翌年に急逝した作者のまさに白鳥の歌です。


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川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』




 2011年発表の川上未映子初期の作品です。周囲との人間関係が苦手で孤独な生活を送る校閲者が世間との接点を持とうとする。
 ちょっとした日常と小さな冒険の積み重ねですが最後まで読ませます。

 ユニークなのは、主人公が精神安定剤のように朝からビールを飲み、水筒に日本酒を入れて外出するところ。私もアル中っぽいですが、人と会う前に飲むことはありません。
 主人公のアル中設定では大好きなローレンス・ブロックのマット・スカダーシリーズ、日本では坂上琴の『踊り子と将棋指し』がそうでした。彼等の酩酊、やらかし事と本作の冬子の依存レベルは異なりますが、女性のアルコール依存は初めてで主人公のキャラを際立たせて面白かったです(桐野夏生などにあるかもしれませんが)。

 こういう正統派、本格派とは少し異なる味付け、視点が川上未映子の魅力なのかもしれません。

 また、この数日、アルゲリッチとショパンをまとめて聴いていたのですが、読み物との偶然の重なりは楽しいものです。探したのですが子守唄のCDはなかったので、Appleミュージックでポリーニの演奏を聴いています。


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川上未映子『黄色い家』




 『夏物語』に続いて手に取ったのはおそらく最新作の『黄色い家』です。まるで宮部みゆきの犯罪小説でも読んでいるようなスリラータッチのエンターテイメントです。読売新聞の連載小説だったようで、多くの人が読み易く興味を惹くような内容、展開になっています。

 親切にしてくれた大人へのノスタルジーを縦糸に、カード犯罪・お金のリアルを横糸に織り交ぜて全く飽きさせない。経済学からでなく文学からお金とは何かにアプローチした野心作でもあり、成功しているかどうかはよく分かりませんが興味深くて面白かったです。

 個人的には在日韓国人の泥臭い苦労、苦悩を使うと小説としては比較的簡単に面白くなるんだよなぁとか感傷的なシーンも結構多いなぁという思いや主要人物の一人である黄美子さんの人物像が今ひとつはっきりしなかった印象は持ちました。

 それでも最後の最後まで隅々まで読み通せました。純文学系作家によるエンターテイメント小説で不思議な読書感はありましたが読み物としては一級品です。
 

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川上未映子『夏物語』




 川上未映子による快心作です。日本人作家の純文学系長編をこんなに楽しく読み終えたのはいつ以来なのかよく思い出せません。エンターテイメントであれば長いのもありますが、シリアスな内容なのに関西弁調の文体でテンポよく読ませ、庶民の貧しさ泣き笑いも挟んで飽きさせません。

 第一部は芥川賞をとった『乳と卵』のほぼ再掲らしく200ページ、第二部がその8〜9年後の後日談450ページでこの物語のメインになっています。生きること、生まれてくること、精子提供などをテーマに迷いながら精一杯生きる主人公とユニークな脇役らが織りなす真面目だけど時に笑ってしまう切ない人生。読み手によっていろんな感情が溢れ出す作品だと思います。世界の多くの国で翻訳されているのも納得です。

 個人的には、ニルヴァーナのカム・アズ・ユー・アーやビーチボーイズの素敵じゃないかが挿入されていたのは泣けました。先日読んだ桐野夏生の抱く女もそうでした。村上春樹の専売特許ではないので同時代で聴いている音楽をBGMでもっと文中に使って欲しいです。

 読んでおいてよかった。川上未映子いいです。

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桐野夏生『だから荒野』




 46歳の専業主婦が自分勝手で思いやりのない夫と二人の息子に愛想を尽かして家出する。何となくストーリーが読めるようでパスしてきましたが結構面白かったです。初期の頃の毒は薄れて、別の女性作家の作品と言われても分からないかもしれませんが、人間描写、世間の冷たさがリアルで、色々読む中で主題にノレない作品もありますが、三分の一まで楽しめると後は一気です。

 確か作者もファンと公言していたアメリカのアン・タイラーを想起させる日常からのちょっとした逸脱と冒険。モヤモヤした違和感や理不尽が積もり積もって限界を超える。目の前のうんざりが混沌とする中で家族が抱える本題へと迫真する展開も桐野夏生らしいです。

 自分勝手で無神経な自分に自戒を込めて。茹るような暑さの中での通勤には時間を忘れさせてくれる夢中になれる小説が必要です。その点でも快心作です。


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桐野夏生『抱く女』




 気軽に手にした一冊。1972年、吉祥寺、ジャズ喫茶、学生運動、女と男、ウーマンリブ、閉塞感、内ゲバ、家族、母親。
 桐野夏生が得意にしている時代小説です。それほど思い入れもなく淡々と読み進めます。面白いアクセントになっているのが当時(今も同じだけど)、頻繁にかけられていたジャズレコードの名盤たち。村上春樹でないのにここまで音楽が脇役で登場する小説も珍しい。実際は色々とあるんでしょうが私は初めて。アート・ペッパー、マイルス、チャーリー・パーカー、ソニー・ロリンズ、コルトレーン、アニタ・オデイなど。選曲は本格的です。物語の中の音楽を自分の部屋でもかけながら読んでいました。
 時代を写した気合の入った作品を作ろうとはしていないと思います。あの時代を生きた普通の人達のほろ苦くも爽やかな青春小説になっていると思います。個人的には父親の諦めと母親の決意が心に沁みました。
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桐野夏生『真珠とダイヤモンド』





 桐野夏生、バブル、証券会社、ノルマ、ハードワーク、福岡、東京(六本木、銀座、新宿)なら面白くない訳ない鉄板の小説です。
 懐かしくて滅茶苦茶に楽しかったけど、読み終わってみると「ダーク」のような突き抜けたヤバさはなかったかも。取材、事実の範疇を超えた飛躍、突っ込みが少し足りない、予定調和風な印象は残りました。だからか大好きなはずの桐野夏生、これまで何冊も新作を手にしたのに結局、読み終えたのは2008年の「東京島」以来です。
 東京株式が上がって、NY株式も戻している中で少しリアルな興奮も味わいながらの読書になりました。なかなか踏み切れなかった投資信託の買い増しを実行したのは、バブル風のノリ、理屈ではないちょっとした熱狂もあります。



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