1965年
金田の見返り選手を巨人に注文するとき、国鉄首脳陣が集まってリストをつくった。すぐ戦力になる若手投手がいい。そこまではすぐ意見が一致しても、名前はたくさんあがった。七森、渡辺、大熊・・・。渡辺と大熊は国鉄から勝ち星をあげているのに七森は逆に1敗。「大橋か渡辺にしよう」という意見の中で、林監督は強く七森にひかれた。手首のかえしがスムーズなうえに、下半身のバネがある。絶対に七森をとるべきだ」電話で国鉄移籍を知らされた七森は、たった一人の肉親、父親の一郎さんのことが頭に浮かんだという。「脳軟化症で大阪病院に入院しているオヤジにクビになったわけではない。期待されていくんだから心配しないでくださいとすぐ電話したんです」その一郎さんも湯之元キャンプに出かける二月に退院。七森はなじみのない選手の中で練習に取り組んだ。「巨人よりきつい。宿へ帰るとグッタリしてしまいますよ。金田さんのかわりはとうていつとめられないけど、ぼくを選んでくれた人たちのためにも働きます」七森ってどんなヤツだといっていたナインも、すぐ覚えた。ピッチングもストレート中心に勇ましいが、イビキもナイン一。眠れないという文句が出たくらいだ。この日のピッチングは七イニングを投げて五安打。いうことも威勢がよかった。「ぼくのピッチングはこんなもんじゃないですよ。スピードがなかったし、コントロールも最低。あんな球で3点におさえられたなんで不思議なくらいです。六十点くらいのできじゃないですか」巨人での三年間の勝ち星がたったの2勝。それが353勝の金田のアナを埋めるのだから気合がはいっている。「巨人に比べたら登板のチャンスはあるし、若手選手も多いから住みごこちは快適です。これからはスピードをつけることが先決。カーブだけではいつかボロが出てしまいますからね」七森の力にほれこんでいる林監督の採点はからかった。「この程度のピッチングしかできない投手じゃない。もっとスピードはあるし、変化球の切れもいい。貴重な左投手だし、巨人戦用投手としてたくさん使わせてもらう」近鉄ナインも「かなりやるだろう」という。山本八も高木もどこへくるかわからない荒れ球に手をやいたそうだ。
金田の見返り選手を巨人に注文するとき、国鉄首脳陣が集まってリストをつくった。すぐ戦力になる若手投手がいい。そこまではすぐ意見が一致しても、名前はたくさんあがった。七森、渡辺、大熊・・・。渡辺と大熊は国鉄から勝ち星をあげているのに七森は逆に1敗。「大橋か渡辺にしよう」という意見の中で、林監督は強く七森にひかれた。手首のかえしがスムーズなうえに、下半身のバネがある。絶対に七森をとるべきだ」電話で国鉄移籍を知らされた七森は、たった一人の肉親、父親の一郎さんのことが頭に浮かんだという。「脳軟化症で大阪病院に入院しているオヤジにクビになったわけではない。期待されていくんだから心配しないでくださいとすぐ電話したんです」その一郎さんも湯之元キャンプに出かける二月に退院。七森はなじみのない選手の中で練習に取り組んだ。「巨人よりきつい。宿へ帰るとグッタリしてしまいますよ。金田さんのかわりはとうていつとめられないけど、ぼくを選んでくれた人たちのためにも働きます」七森ってどんなヤツだといっていたナインも、すぐ覚えた。ピッチングもストレート中心に勇ましいが、イビキもナイン一。眠れないという文句が出たくらいだ。この日のピッチングは七イニングを投げて五安打。いうことも威勢がよかった。「ぼくのピッチングはこんなもんじゃないですよ。スピードがなかったし、コントロールも最低。あんな球で3点におさえられたなんで不思議なくらいです。六十点くらいのできじゃないですか」巨人での三年間の勝ち星がたったの2勝。それが353勝の金田のアナを埋めるのだから気合がはいっている。「巨人に比べたら登板のチャンスはあるし、若手選手も多いから住みごこちは快適です。これからはスピードをつけることが先決。カーブだけではいつかボロが出てしまいますからね」七森の力にほれこんでいる林監督の採点はからかった。「この程度のピッチングしかできない投手じゃない。もっとスピードはあるし、変化球の切れもいい。貴重な左投手だし、巨人戦用投手としてたくさん使わせてもらう」近鉄ナインも「かなりやるだろう」という。山本八も高木もどこへくるかわからない荒れ球に手をやいたそうだ。