1954年
芽を出す機会をつかんだ武内にとってチーム打率・230台という大映今シーズンの攻撃力の低調はよそ目にも痛々しい。それでも九勝(十二敗)をかせぎ大器らしい手堅い進歩をみせ、大映のホープへという藤本監督の腹案が成り立つ気配になって来た。武内は松山商高(旧工業)から二十五年にスターズ入りしたのだからプロ野球のめしを食い始めてすでに五年目である。だが少しもプロずれしたところがなく、大機晩成型でグラウンド・マナーもよく、たんたんとしているがねばり強い一面を持ち、着々と投手道を歩いている好青年である。二十二歳、五尺七寸五分、十八貫五百で左腕という武器を持っているが、その特長は手足、体幹それぞれ出来が大きく、まだまだ大男になる素質を備えている。藤本監督の話によると両親は普通の身体であるが武内は巨人型であった祖父の血をひいているから大きくなるに違いないというのである。しかし容姿も優しいし行動も節度があるので見たところスマートだが、相当な力を持っているのは祖父相伝らしい。投法は上手投げとスリー・クォーターが大体半々の割合。やはり左投手らしく右打者に対し外角をつくシュートがウィニング・ショットとなっている。この球は球速もあり相当な威力を持っているが特長としてはのびる球とシンカーになる二種類を操作していることである。そしてカーブ(インドロップといわれているもの)は落ちるものとスライダーになる球がまざっている。とにかく、のびたり沈んだり、落ちたりスライドする球が多いのだから相手には打ちにくいがコントロールが少しでもよくないと相手は選んでくるから自滅するおそれもある。それというのも左投手特有の武器の一つ、内角低目(右打者)への速直球を完全につかんでいないための苦闘にほかならない。ただし今春からこの点を重視夏ごろからかなりこの種の速球を投げこんでいるから、これが身につけばもっと勝数がふえると思う。藤本監督は投手を酷使しないしやたらに交代させないからピンチをのりきる修練も積めるし、打力の弱い背景で投げとおすから試合処理のコツも人より早くのみこめるわけである。これは若い投手にとってはなにものにもまさる研磨のめぐみといわねばならない。もっとスピードをつけること投手守備の上達、チェンジ・オブ・ベースの理解などが明日への課題。そしてブルペンで鍛えられた投手だけにウォーミング・アップが長い。もっと少ない投球数で登板できるようにすることだ。
武内投手の話
大器晩成型ですって?とんでもない、しかし納得のいくまで研究する気持ちは自分ながらよい習慣だと思っています。現在は直球にスピードをつけることに専念しています。足と腰が弱いのでスピードは出ないしコントロールも自信がない。だから自然に消極的なゴマカシになってしまう。そんなピッチングでもプラスになる場合がある。例えば西鉄の中西選手、毎日の山内選手など速い球に強い人がいるでしょう。私のピッチングはこういう「リキ」のあるバッティングをする人々は案外威力があるんです。「荒いので球道がわからないからだ」とよくいわれますが、自分ではスピードを殺して外角低めに沈むシュート(シンカー)がいいのだと思っています。中沢さんがいわれるように内角低目にきまる速球を近頃は意識して投げていますがまだスピードが乗っていないように感じます。一にも二にも足。腰を鍛えたければと思ってランニング、縄とびなど暇があればやっていますが、そのためか最近、球にのびがついて来たようです。著しいカーブシュートを身につけたいと思っていますが、まずスピード・ボールをビシビシきめねばウイニング・ショットも生きてきませんから・・・。Aがついている球速、試合度胸はどこからそんないい点が出たのか不思議です。ことに試合度胸は終始ヒヤヒヤしているのにAの中は甘すぎると思います。チェンジ・オブ・ペースではウチの林さん、星野さんなんかの投球ぶりを見習いたいです。いまのところ球速を鍛えてはみますがコースを覚えるまでには戻りません。結局はコントロールの不安定が原因なんですがそれも早急に解決させてみせます。
芽を出す機会をつかんだ武内にとってチーム打率・230台という大映今シーズンの攻撃力の低調はよそ目にも痛々しい。それでも九勝(十二敗)をかせぎ大器らしい手堅い進歩をみせ、大映のホープへという藤本監督の腹案が成り立つ気配になって来た。武内は松山商高(旧工業)から二十五年にスターズ入りしたのだからプロ野球のめしを食い始めてすでに五年目である。だが少しもプロずれしたところがなく、大機晩成型でグラウンド・マナーもよく、たんたんとしているがねばり強い一面を持ち、着々と投手道を歩いている好青年である。二十二歳、五尺七寸五分、十八貫五百で左腕という武器を持っているが、その特長は手足、体幹それぞれ出来が大きく、まだまだ大男になる素質を備えている。藤本監督の話によると両親は普通の身体であるが武内は巨人型であった祖父の血をひいているから大きくなるに違いないというのである。しかし容姿も優しいし行動も節度があるので見たところスマートだが、相当な力を持っているのは祖父相伝らしい。投法は上手投げとスリー・クォーターが大体半々の割合。やはり左投手らしく右打者に対し外角をつくシュートがウィニング・ショットとなっている。この球は球速もあり相当な威力を持っているが特長としてはのびる球とシンカーになる二種類を操作していることである。そしてカーブ(インドロップといわれているもの)は落ちるものとスライダーになる球がまざっている。とにかく、のびたり沈んだり、落ちたりスライドする球が多いのだから相手には打ちにくいがコントロールが少しでもよくないと相手は選んでくるから自滅するおそれもある。それというのも左投手特有の武器の一つ、内角低目(右打者)への速直球を完全につかんでいないための苦闘にほかならない。ただし今春からこの点を重視夏ごろからかなりこの種の速球を投げこんでいるから、これが身につけばもっと勝数がふえると思う。藤本監督は投手を酷使しないしやたらに交代させないからピンチをのりきる修練も積めるし、打力の弱い背景で投げとおすから試合処理のコツも人より早くのみこめるわけである。これは若い投手にとってはなにものにもまさる研磨のめぐみといわねばならない。もっとスピードをつけること投手守備の上達、チェンジ・オブ・ベースの理解などが明日への課題。そしてブルペンで鍛えられた投手だけにウォーミング・アップが長い。もっと少ない投球数で登板できるようにすることだ。
武内投手の話
大器晩成型ですって?とんでもない、しかし納得のいくまで研究する気持ちは自分ながらよい習慣だと思っています。現在は直球にスピードをつけることに専念しています。足と腰が弱いのでスピードは出ないしコントロールも自信がない。だから自然に消極的なゴマカシになってしまう。そんなピッチングでもプラスになる場合がある。例えば西鉄の中西選手、毎日の山内選手など速い球に強い人がいるでしょう。私のピッチングはこういう「リキ」のあるバッティングをする人々は案外威力があるんです。「荒いので球道がわからないからだ」とよくいわれますが、自分ではスピードを殺して外角低めに沈むシュート(シンカー)がいいのだと思っています。中沢さんがいわれるように内角低目にきまる速球を近頃は意識して投げていますがまだスピードが乗っていないように感じます。一にも二にも足。腰を鍛えたければと思ってランニング、縄とびなど暇があればやっていますが、そのためか最近、球にのびがついて来たようです。著しいカーブシュートを身につけたいと思っていますが、まずスピード・ボールをビシビシきめねばウイニング・ショットも生きてきませんから・・・。Aがついている球速、試合度胸はどこからそんないい点が出たのか不思議です。ことに試合度胸は終始ヒヤヒヤしているのにAの中は甘すぎると思います。チェンジ・オブ・ペースではウチの林さん、星野さんなんかの投球ぶりを見習いたいです。いまのところ球速を鍛えてはみますがコースを覚えるまでには戻りません。結局はコントロールの不安定が原因なんですがそれも早急に解決させてみせます。