1969年
一本足打法で王二世といわれている平安・渋谷一塁手=1㍍80、73㌔、左投左打=が将来のことで非常に悩んでいる。もしプロからリストアップされた場合、踏み切るべきか、それとも振切って大学へ進学すべきかという問題なのだ。渋谷が現在下宿しているのは京都市右京区梅津の伊藤末次郎さんの家。この家は中日の江島が平安高時代にやはり下宿し、世話になっていた。ここのむすこさんも三年前に平安の五番打者として甲子園でも活躍。現在、法大野球部の三年生。プロにはいった江島は「大学へいけるなら絶対いくべきだ」というし、逆に大学へ進んだ伊藤からは「力があるならすぐプロへ」と違った意見が出ている。渋谷自身の考えは、伊藤の意見に影響され、即プロ入りという腹を決めていたようだ。しかし予選中に風間部長、そして今春まで監督だった中村氏をたずねて、この考えを伝えたところ、二人とも進学をすすめ、考えがまたぐらついてしまった。二年生から春夏四回連続甲子園出場、今大会でもバッター・ナンバー・ワンという評判をもらっているが、スカウト連中はどう見ているだろうか。巨人の前川スカウト総務は「ほしいことはほしい。しかしいますぐうちにはいっても王がいるので出る幕がない。ドラフト制度の撤廃も動きもあるし、大学を卒業するころになれば好きな球団に入れる可能性もある」とお家の事情もからみ進学賛成派。渋谷の実家は山形県酒田市内で父正吉氏(48)は酒田駅の公安官、母の世智子さんは市内で化粧品店を経営、経済的には苦しくない。現在、弟の守君も同じ伊藤宅に下宿し、平安高一年生で野球部にいる。下宿代は「よく知らないが、一人一万五千円ぐらいではないですか」(平安高・風間部長)というし「こづかいも少なくて一人月一万円は必ず送ってもらっている」(渋谷)といい、経済的には進学出来る家庭のようだ。前川氏のほか「経済的に無理ではなかったら絶対大学へいくべきだ。プロは技術を中心にきたえてゆく。人間形成の面ではなおざりにされがちだ」(巨人・沢田スカウト)「プロですぐバリバリやるには、もっとおじさんみたいにひねてなくてはね。技術的にはまだもの足りないし、動きもモタモタしている」(広島・木庭スカウト)と進学を勧めるのが大半。しかしロッテにはいい指導者が少ない。手首の返しがよくなってバットを思い切って振るようになった。春からこれだけ成長した選手も珍しい。せっかく伸びてきた逸材を大学にやって成長をとめてしまってはなんにもならない」と進学に反対するスカウトもいる。渋谷は昨年超高校級といわれた池田(平安出)をとった法大の浦先輩理事がわざわざ甲子園にきているのを知ってかどうか知らないが「プロならどこの球団でもいい。大学の場合は先輩からいろいろ聞いている法大はいや。早・慶・明・立の東京六大学のどこかに受かればいいのですがね」と複雑な心の内をうちあけていた。
一本足打法で王二世といわれている平安・渋谷一塁手=1㍍80、73㌔、左投左打=が将来のことで非常に悩んでいる。もしプロからリストアップされた場合、踏み切るべきか、それとも振切って大学へ進学すべきかという問題なのだ。渋谷が現在下宿しているのは京都市右京区梅津の伊藤末次郎さんの家。この家は中日の江島が平安高時代にやはり下宿し、世話になっていた。ここのむすこさんも三年前に平安の五番打者として甲子園でも活躍。現在、法大野球部の三年生。プロにはいった江島は「大学へいけるなら絶対いくべきだ」というし、逆に大学へ進んだ伊藤からは「力があるならすぐプロへ」と違った意見が出ている。渋谷自身の考えは、伊藤の意見に影響され、即プロ入りという腹を決めていたようだ。しかし予選中に風間部長、そして今春まで監督だった中村氏をたずねて、この考えを伝えたところ、二人とも進学をすすめ、考えがまたぐらついてしまった。二年生から春夏四回連続甲子園出場、今大会でもバッター・ナンバー・ワンという評判をもらっているが、スカウト連中はどう見ているだろうか。巨人の前川スカウト総務は「ほしいことはほしい。しかしいますぐうちにはいっても王がいるので出る幕がない。ドラフト制度の撤廃も動きもあるし、大学を卒業するころになれば好きな球団に入れる可能性もある」とお家の事情もからみ進学賛成派。渋谷の実家は山形県酒田市内で父正吉氏(48)は酒田駅の公安官、母の世智子さんは市内で化粧品店を経営、経済的には苦しくない。現在、弟の守君も同じ伊藤宅に下宿し、平安高一年生で野球部にいる。下宿代は「よく知らないが、一人一万五千円ぐらいではないですか」(平安高・風間部長)というし「こづかいも少なくて一人月一万円は必ず送ってもらっている」(渋谷)といい、経済的には進学出来る家庭のようだ。前川氏のほか「経済的に無理ではなかったら絶対大学へいくべきだ。プロは技術を中心にきたえてゆく。人間形成の面ではなおざりにされがちだ」(巨人・沢田スカウト)「プロですぐバリバリやるには、もっとおじさんみたいにひねてなくてはね。技術的にはまだもの足りないし、動きもモタモタしている」(広島・木庭スカウト)と進学を勧めるのが大半。しかしロッテにはいい指導者が少ない。手首の返しがよくなってバットを思い切って振るようになった。春からこれだけ成長した選手も珍しい。せっかく伸びてきた逸材を大学にやって成長をとめてしまってはなんにもならない」と進学に反対するスカウトもいる。渋谷は昨年超高校級といわれた池田(平安出)をとった法大の浦先輩理事がわざわざ甲子園にきているのを知ってかどうか知らないが「プロならどこの球団でもいい。大学の場合は先輩からいろいろ聞いている法大はいや。早・慶・明・立の東京六大学のどこかに受かればいいのですがね」と複雑な心の内をうちあけていた。