1965年
野球選手というより映画スターといった方がピッタリする。だが野球にはたいへんな自信をもっている。二月一日、アスプロの紹介で中日のテストを受けるため来日したときも「はじめから自信がなければ日本にはやってこないよ」もっともこの日ばかりは気が弱かった。四回を投げてロッカーに引きあげてきたときの最初の言葉は「ああ、恥しい」だった。コントロールが乱れ、おまけに木俣のサインをまちがえキャッチャーを右往左往させたりもした。三十七年にデトロイト・タイガースの一員として来日、大洋を完封したが、いまでも強烈におぼえているのは、日本選抜チームとの試合で南海の野村に本塁打されたことだそうだ。「あれはストレートだった。野村はいい打者だが、こんどは得意の変化球で打ちとってやる」前日からホイタックはりきんでいた。ところが力ばかりはいって腕がいうことをきかない。散々のピッチングをホイタックは技術的に解剖した。「ケニー(アスプロ)からフォームが変だといわれた。確かに思い切って投げようとするため、腕だけにたより、からだがうしろに残っていた。突っ立ったままで投げていたんだ」という。マウンドにもケチをつけた。「アメリカのマウンドはもう少し高く、真上から投げおろせるので投げやすい。ここは平らなのでまだ感じがよくつかめてないんだ。もちろん、そんなことはいいわけにはならんが・・・」南海ナインの目にうつったホイタックは悪くなかったようだ。野村は「ボールは決しておそくない。それより捕手が悪い。パスボールのこともあるが、なにかピッチャーに不安を感じさせるキャッチングが悪いんだ。まだからだができていないからわからんが、10勝くらいはできるんじゃないか」と採点する。中日の首脳陣も「ピッチングをはじめてから十日ほどしかたっていないのでムリだろう。変化球もいいし、これから投げ込めば絶対やるよ」と、むしろ明るい表情だ。帰りじたくをしたホイタックはまたもとの強気にもどっていた。「これで感じがつかめたのでもうだいじょうぶ。こんどのピッチングを見てくれ」とウィンクした。ホイタックは相手がチャンピオン南海と聞かされて緊張したのか動きがぎこちなかった。腕だけで投げている感じで体重が軸足に残り、スイフトはほとんどすっぽ抜けて高めに浮いた。技巧派にしてはコントロールがなく、速球もカーブもストライク・ゾーンを大きくそれていた。カーブの曲がりぐあいは相当シャープなんだが、打者が手を出したくなるような球は、二つくらいしかなかった。四回投げて失点は2でとまったけれど、二、三、四回は四球や安打で走者を出し苦しみどおしであった。得意だというナックルも二死後、投手の高橋栄に投げたのがひとつ決まっただけ。ムダになる球が多くて打者を苦しめるどころか、逆にカウントを悪くして自分が苦しむありさまだった。しかし速球はかなりいい。カーブも大きいから問題は制球力だ。手先で投げるのが彼のピッチングのフォームとすれば、制球力に期待はもてないのではないか。がむしゃらに向かってくる打者はひっかけられるかもしれないが、待ってでる打者、目のいい打者には弱い気がする。
野球選手というより映画スターといった方がピッタリする。だが野球にはたいへんな自信をもっている。二月一日、アスプロの紹介で中日のテストを受けるため来日したときも「はじめから自信がなければ日本にはやってこないよ」もっともこの日ばかりは気が弱かった。四回を投げてロッカーに引きあげてきたときの最初の言葉は「ああ、恥しい」だった。コントロールが乱れ、おまけに木俣のサインをまちがえキャッチャーを右往左往させたりもした。三十七年にデトロイト・タイガースの一員として来日、大洋を完封したが、いまでも強烈におぼえているのは、日本選抜チームとの試合で南海の野村に本塁打されたことだそうだ。「あれはストレートだった。野村はいい打者だが、こんどは得意の変化球で打ちとってやる」前日からホイタックはりきんでいた。ところが力ばかりはいって腕がいうことをきかない。散々のピッチングをホイタックは技術的に解剖した。「ケニー(アスプロ)からフォームが変だといわれた。確かに思い切って投げようとするため、腕だけにたより、からだがうしろに残っていた。突っ立ったままで投げていたんだ」という。マウンドにもケチをつけた。「アメリカのマウンドはもう少し高く、真上から投げおろせるので投げやすい。ここは平らなのでまだ感じがよくつかめてないんだ。もちろん、そんなことはいいわけにはならんが・・・」南海ナインの目にうつったホイタックは悪くなかったようだ。野村は「ボールは決しておそくない。それより捕手が悪い。パスボールのこともあるが、なにかピッチャーに不安を感じさせるキャッチングが悪いんだ。まだからだができていないからわからんが、10勝くらいはできるんじゃないか」と採点する。中日の首脳陣も「ピッチングをはじめてから十日ほどしかたっていないのでムリだろう。変化球もいいし、これから投げ込めば絶対やるよ」と、むしろ明るい表情だ。帰りじたくをしたホイタックはまたもとの強気にもどっていた。「これで感じがつかめたのでもうだいじょうぶ。こんどのピッチングを見てくれ」とウィンクした。ホイタックは相手がチャンピオン南海と聞かされて緊張したのか動きがぎこちなかった。腕だけで投げている感じで体重が軸足に残り、スイフトはほとんどすっぽ抜けて高めに浮いた。技巧派にしてはコントロールがなく、速球もカーブもストライク・ゾーンを大きくそれていた。カーブの曲がりぐあいは相当シャープなんだが、打者が手を出したくなるような球は、二つくらいしかなかった。四回投げて失点は2でとまったけれど、二、三、四回は四球や安打で走者を出し苦しみどおしであった。得意だというナックルも二死後、投手の高橋栄に投げたのがひとつ決まっただけ。ムダになる球が多くて打者を苦しめるどころか、逆にカウントを悪くして自分が苦しむありさまだった。しかし速球はかなりいい。カーブも大きいから問題は制球力だ。手先で投げるのが彼のピッチングのフォームとすれば、制球力に期待はもてないのではないか。がむしゃらに向かってくる打者はひっかけられるかもしれないが、待ってでる打者、目のいい打者には弱い気がする。