朝、雨戸を閉めた廊下が暗いので灯りをつけようとスイッチを
押した。だが電気がつかない。電球が切れているのかと、ほかを
押したが、これも点かない。
ん? とさらに他のスイッチを押す。いやはや、停電だ。
ということはつまり、水も出ないということ……。
井戸水は電動ポンプがくみ上げているからね~、井戸もまた文化生活
なわけですよ、なんか変な気がするが。
おまけにストーブ、石油ストーブの炎が見えるタイプは危ないからファン式
を使っていて、これもお尻に電気コードがついている。
エアコンは無論のことガスファンヒーターもだめ、電気がタイショウ。
こうなると暖を取るには炭を起こして囲炉裏を使うしかないのである。
まあ台所のガスだけは点火したのでお湯を沸かして茶を飲むことは
できて、うろたえつつ少しほっとした。
そして電力会社へ停電してるぜよと伝え、至急大至急大大至急、向かって
いますとすでに出発しているらしいことに驚いた。
そうか、隣の別荘の主、久方ぶりに来ていたので電話したのはあっちが
先なんだなと気づく。
雪のなかをわっさ、わっさと歩いて出かけることにした。
「おはよーございまーす」と道路から大声で話しかける。
「いやー、いい景色ですねー、珍しい、こんなすばらしいの!」と
ノー天気な方である。ふだんからのんびりした方で好感がもてたが
こういうときもああゆー態度でいるとはなあ。
停電ですねーと言っても、そうですねー夜でなくてよかったねーと
言うのみである。早く来いとか、遅いとか、決してクレームなど
つけないタイプではなかろうか。
テラスに夫婦二人並んで、正面を向いて立っているのである。
正面には他人の土地だが雑木林は一面白、木々は雪の実をぶらさげて
寒そうに立っているのだが。
なんだか次の言葉が出てこないので、来た道をまたすごすごと
自分の長靴の足跡の上に足を置きながら、なるべく体力を消耗しない
ように引き返した。
いつ電気がつくか定かでないのだから用心しているのである。
今これを書いているということはすでに通電したわけで、約4時間の
停電。パソコンも電話の高速通信回線(といってもここはISDN)も
使えないのであった。
東京のカメにケータイで神頼みの電話をする始末である。
カメはソーラーパネルだなあ、考えるとしようと言っていたが、
電話を切って1分としないうちに電気がパパっと点いた。
家じゅうのスイッチを入れて歩いたので、あちこち、パパパパっと
おまけに水道も蛇口を開けてあったので、ジャーーーと音立てて
流れてきた。騒々しく通電し、わたしは飛び上がって喜んだ。
ちょっと、情けない。
雪かきでヘロヘロに疲れ気弱になったが、確かに見渡せばすばらしい
景色であった。