心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

フェニーチェ歌劇場日本公演2013 (フェスティバルホール)

2013-04-14 09:45:02 | Weblog
 昨日の午前5時33分。ガタガタという揺れに目が覚めると、枕元のスマートフォンがけたたましく緊急地震速報を伝えました。即座にテレビのスイッチを入れると、もうニュース速報が流れています。時を置かず街のスピーカーから防災放送が流れ、その後には職場から安否確認の問い合わせメールが届きました。それから30分後、職場の安全確認第一報メールが届き、その後危機管理室から現状報告の電話が入りました。
 阪神淡路大震災、東北大震災を経験した私たちは、大きな学習をしました。今回の震源地は兵庫県淡路島で震度6強とのこと。情報の伝達と初期対応という意味ではずいぶん進化したように思います。備えあれば憂いなし、ということでしょう。

 そんな目覚めの悪い土曜休日でしたが、昨日は午後、フェスティバルホールのこけら落とし公演(フェニーチェ歌劇場日本公演2013)の最終日のプログラム「特別コンサート」にでかけました。演奏会形式で、ヴェルディの歌劇「リゴレット」から前奏曲、第1幕(二重唱「愛は心の太陽だ」・アリア「慕わしき御名」・合唱曲「静かに、静かに」)、第2幕(アリア「彼女の涙が見えるようだ」・合唱)、第3幕(四重唱「いつかお前に会ったような気がする」・アリア「女心の歌」)。第二部はヴェルディの歌劇「椿姫」から第2幕(アリア「燃える想いを」・二重唱「天使のように清らかな娘」・アリア「プロヴァンスの海と陸」、フィナーレ)。

 やはり本場の歌を直に聴くことの素晴らしさを思いました。オケとの息もぴったりあって、目の前に歌劇の音の世界が様々な色彩をもって現れたような、そんな素晴らしい演奏であり歌声でありました。第二部「椿姫」では、前日の歌劇「オテロ」に出演した歌手の方々も加わり歌い上げます。満場の拍手に応えたアンコールは、予想したとおり「乾杯の歌」でした。 
 新装なったフェスティバルホール(2700名収容)の音響にも驚かされました。弦楽器の響きが、金管楽器の響きが、そして歌手の声、息遣いまでもが、美しく耳に届きます。聴衆の心を魅了します。素晴らしいコンサートでした。歌劇初めての家内もオペラグラスを片手に最後まで熱心に耳を傾けていました。

 余韻を引きずりながら帰りの電車の中でパンフレットに目を通しました。今年はヴェルディ生誕200年、それを記念して水の都ヴェネツィアからフェニーチェ歌劇場が8年ぶりに来日したこと。この歌劇場は、220年の歴史の中で度重なる火災に遭うも、その度に「フェニーチェ(不死鳥)」のように蘇り、イタリア・オペラの伝統を現代に伝えてきたこと。なんと1996年にも火災で全焼し2004年に完全復活を遂げたのでした。......ヴェネツィア。ふと、須賀敦子さんの「ヴェネツィアの宿」を思い出しました。帰ると早速、須賀敦子全集第2巻を開きました。ありました。ありました。


「その夜、フェニーチェ劇場創立200年記念のガラ・コンサートがあることは、夕方、ホテルについたときに見たポスターで知っていた。でもそれ以上は読まないで通り過ぎたのだった。そういえば、晩餐のレストランに向かう途中、ずいぶんきらきらしたドレスを着こんだ女たちが、タキシードの男たちにエスコートされて石橋を渡ってくるのに出くわした」

「あの空色の星のネオンの路地を出る瞬間まで、オペラも劇場の200年祭も私のあたまにはなかったし、たとえ覚えていたにしても、音楽会の中身が劇場前の広場にスピーカーで通行人にまで分配されるなど、考えてもみなかった」

「ひとつのアリアがおわると、スピーカーは、あらしのような拍手もそのまま劇場の外につたえてきた。それにまじって、あの幻みたいだった広場の、なにかの理由で切符が買えなかった小さな群衆の拍手もぱらぱらとたしかに聞こえた。やがて、次のアリアが始まるまえに劇場のあちこちでおこる、あの神経質な観客の咳払いまでが正方形の小窓からとびこんできたころには、せめてその日のプログラムを手に入れてなかったことを悔やむほど、私はこの思いがけなく参加することになった音楽会に心を奪われていた」


 フェニーチェ劇場の広場に面したホテルに泊まった須賀さんが、そう20年前にホテルの一室で聴いたアリアを、私は大阪・中之島で新装なったフェスティバルホールで体感したのでした。運河が縦横に走る街の小道を歩いたヴェネツィアの夜が思い出されました。リタイアしたら本場の歌劇を楽しみたいものです。
 早朝の地震から東北大震災を思い、阪神大震災を思い出しながら、不死鳥(フェニーチェ)のように蘇る日本を思ったものでした。残念ながら前日の歌劇「オテロ」を観ることはできませんでしたが、特別コンサートでその一端を堪能できたのは幸せでした。指揮はチョン・ミョンフンでした。
 さて、次回は家内のたっての希望で6月下旬にある平原綾香の10周年記念コンサート「Dear Jupiter」に出かける予定です。
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