出発直前まで雨が心配された「歩き遍路」でしたが、またもや「晴れ男」の効果が現われたのか、薄日のさす歩き遍路日和となりました。今回、77番まで巡ったことになります。ということはあと11カ寺です。2、3か月に一度の区切り遍路ですから、ずいぶん時間がかかりましたが、ここまでくると金剛杖の先に「花」が咲きます。固い杖の先も長旅でささくれができるのです。今夏70歳を迎えるまでには結願したいと思っています。
JR観音寺駅に到着すると、さっそく歩き始めます。市街地を歩くのは久しぶりです。半時間もすると、68番札所・神恵院の仁王門前に到着、同じ境内にあるお隣の観音寺を打ちました。ここで目を引くのは「千年楠木」です。岩盤の影響でしょうか。大きな根が幹回りに広がります。千年の間、人々の祈りをじっと見つめてきたと思うと自然の懐の大きさを思います。
その後、財田川べりを歩いて1時間半。誰とも出くわすことのない川沿いの道をもくもくと歩きます。時々、小さい頃の風景とダブって見えてくるから不思議なものです。すると、友達の顔が浮かんできたり、母の顔が浮かんできたり.....。
70番札所・本山寺に到着です。美しい五重塔が目に飛び込んできます。梅の花も咲き始めています。
計画では、雨が降っていたら近くの本山駅から列車で移動しようと思っていましたが、大丈夫。71番札所・弥谷寺に歩いて向かいました。その距離なんと11.3キロ。国道11号線をひたすら歩きましたが、途中、国道と並行して伸びる旧遍路道をみつけて、少し気分転換もしました。
3時間半ほどで、遠くの山の中腹にお寺らしきものが見えてきます。その近くに宿泊する「道の駅ふれあいパークみの(いやだに温泉)」もみえます。よし、もう一息と奮い立ちます。表参道登り口に来て「ここから先、本堂まで530段の石段」との掲示にびっくり。石段を登っては平地、また石段と騙され騙されしながら、やっと境内に到着した頃には足の裏にマメができていました。
本堂に向かう途中、岩壁には摩崖仏阿弥陀三尊像がお出迎えです。大師堂は靴を脱いで上がっていくことになります。その奥にも獅子之岩屋という岩窟があり、なんと弘法大師空海が、幼少の頃お勉強をしたところだとか。.....その夜は、温泉に浸かって疲れを癒しました。
翌朝、6時45分、宿を出発。まだ薄暗いなか弥谷寺の登り口横から遍路道に入ります。今回の「歩き遍路」で昔ながらの雰囲気をもった遍路道はここだけだったかもしれません。72番札所・曼荼羅寺、そして73番札所・出釈迦寺を打ちました。出釈迦寺では、弘法大師空海が7歳の頃断崖絶壁から身を投げたと伝えられる我拝師山を望むことができます。「紫色の雲が湧き、釈迦如来と羽衣をまとった天女が舞い降り、雲の中で弘法大師を抱きとめました」と紹介されていますが、さあてどうなんでしょうねえ。
その後、74番札所・甲山寺を経て75番札所・善通寺に到着です。善通寺と言えば、弘法大師誕生の地と言われ、高野山、東寺と共に弘法大師三大霊跡のひとつです。境内は本堂のある東院、大師堂のある西院に分かれ、ご本尊は人間のあらゆる病気や苦しみを癒してくれる薬師如来です。リタイア直後の何年か前にお目にかかった際、なんともしれない「生きる力」をいただいた記憶があります。仏様の表情って良いですね。仏教のなんたるかも知らない私ですが、「歩き遍路」でお目にかかる仏様の表情は、私の心を癒してくれます。
広い境内を散策したあと、76番札所・金蔵寺をめざしました。遍路道の矢印を見つけることがむずかしく自動車が行き交う広い道に沿って歩きました。計画では、ここでフィニッシュの予定でしたが、意外と足が進むので、次の77番札所・道隆寺もお参りして今回の「歩き遍路」は終了しました。
そのあと丸亀駅前から大阪行きの高速バスに乗ります。出発時刻まで1時間余り。丸亀に来たら「丸亀うどん」だろうと駅周辺を探しますが、見当たりません。商店街はシャッター通りです。地方都市の現実を目の当たりにすることになります。
でも、駅前で見つけました。「警察犬きな子」の銅像を。警察犬試験に何度も失敗し挑戦し続けるラブラドール・レトリバーの「きな子」と、訓練士をめざす少女の実話に基づいた映画がありました。そうです。きな子は香川県の丸亀警察犬訓練所に所属していたんです。と、スマホを見ると家内からLINEが届きました。孫娘の写真と動画です。生後2か月にもなると表情がほんとうに豊かになるものです。来月に再会することが楽しみになってきました。
そんなことを考えながら、ぼんやりベンチに座っていたら、ニコニコ顔のおじさんがやってきました。「お疲れ様!どちらから?」と。「大阪からです」と答えると「私も大阪出身。仕事の関係で来ている」と。仕事の関係で全国を転々とされている様子でした。大阪と丸亀の歴史と人と文化の違いなどを面白おかしく分かりやすくお話しいただきました。待ち時間もあっという間でした。時間があったら一献傾けながら続きを聴きたいところでした(笑)。