心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

60歳の夏

2010-08-16 11:10:33 | Weblog
 昨夜、愛犬ゴンタと夜のお散歩にでかけたら、遠くから盆踊りの歌声が夜風に揺れながら聞こえてきました。その合間を縫うように打ち上げ花火の音も微かに聞こえました。そんな夏の季節に、私は60回目の誕生日を迎えました。





 さて、先日、京都・宇治に鵜飼を見に行きました。ここにアップした写真は、中村藤吉平等院店でいただいた「うじきん氷”抹茶黒蜜”」です。元来、甘党ではないのですが、なかなか美味しいものでした。この暑い夏に宇治に行ったもうひとつの理由は、平等院の鳳翔館に展示されてある雲中供養菩薩をもう一度眺めてみたいと思ったからでした。平等院が建立されたのは天喜元年(1053年)のことです。世の中が騒々しくなってきた頃で、末法思想が貴族や僧侶らの心をとらえ、極楽往生を願う浄土信仰が社会の各層に広く流行していました。ちょうどその頃西欧では、第一次十字軍がイエルサレムを奪還し、そこにキリスト教国を建てた時期(1099年)と重なります。「神がそれを望んでおられる」という宗教心をもって馳せ参じた10万のキリスト教徒が、聖地奪還をめざしてイスラム教徒と熾烈な戦いを繰り広げました。極楽浄土を夢見る民がいる一方で、聖地奪還をめざして殺戮を繰り返す民がいる。その両者に共通しているのは、敬虔な宗教心が人間を心底から突き動かしているということでした。
 奇しくも昨日は65回目の終戦記念日でした。あの戦争はなんであったのか。そこに宗教が介在したか否かは別にして、とめどもなく大きな力に振り回された時代、国家主義のもとに人間は非力でした。紙切れ1枚に抵抗する術もなく有為の若者たちが戦場に赴きました。尖鋭化する一握りの人間の意思が、いつの間にか大きなうねりとなって人々の上にのしかかってきた時代、気がついたときには誰も止めることはできなかった、そんな悲しい歴史がありました。
 いったい人間を心底から突き動かすものは何なのか。崇高な宗教心?それとも国家への帰依?保身?それとも私利私欲?戦後の民主教育とやらを受けてきた私たちの世代は、宗教に警戒心を抱き国家に忠誠を果たすことを躊躇させました。しかし、自己主張が大手を振って歩いている一方で、確実に人の絆(きずな)が失われていく。それを見て見ぬふりをする。新聞紙上を賑わす子殺し、親殺しの風潮、行方不明のお年寄り....。道徳というものが軍国主義復活に繋がると危惧する声はあるけれども、古くはアニミズム、多神教を底流とする社会の中で、道徳観や倫理観に蓋をしてしまって、ほんとうに良いのかどうか。他人事のように澄ました顔をしていられるのかどうか....。



 宇治に行った翌日は、私の還暦祝いを兼ねて家族みんなで京都・貴船の川床料理を楽しみました。その夜は市内のホテルで寛ぎましたが、なぜか寝苦しい夜を過ごしました。還暦という節目にあたって自らの気持ちの整理がつかないのです。私を心底から突き動かすような強い宗教心は持ち合わせていません。リタイアする年齢が近づいてくると職場は人生のひとつの通過点にすぎないと思えてくる、いや意識的にそう思うようになる。仕事がすべてなどとは考えたくなくなってきます。あまりにも仕事中心に生きてきたから。
 そんな折、本棚から1冊の本を取り出しました。マックス・ヴェーバーの「職業としての政治」でした。彼はそのなかで「政治家には、情熱、責任感、判断力の三つの資質が重要」と説きます。事柄に即するという意味での「情熱」、つまり事柄(仕事、問題、対象、現実)への情熱的献身。燃える情熱と冷静な判断力を一つの魂のなかでしっかりと結び付けていくこと。....社会人になって数年後、私は社内の研修報告にこの本を取り上げて一文を書いたことがあります。もちろん、政治家という言葉は一般的な職業人に言い替えての論でした。それを目にされた同業他社のトップから直々にお電話をいただいたこともありました。その本を久しぶりに読み返してみて、ひょっとしたらこのあたりに私の生きる指標があるのではないか、と気づきました。私の「生」そのものに対する情熱と責任感と判断力。残された人生に悔いのないよう、もういちど襟を正したい。そんなことを考えました。と同時に、この本を翻訳された私の恩師に改めて感謝しなければなりません。
 6日ほどのお盆休みも、きょうが最終日です。仕事を離れ、家族に囲まれて一人の人間の生きざまを考える、そんな日々を過ごしました。そのためか今日のブログ更新は、掲載した写真とは異なり何とも堅苦しいものになってしまいました。でも、これも通過点なんでしょうよ。きっと。

写真説明
上段:中村藤吉平等院店さんの「うじきん氷”抹茶黒蜜”」
中段:宇治の鵜飼風景。若い女性漁師さんの手さばきは鮮やかでした。
下段:恒例となった京都貴船の川床料理店
おまけ:京都国際マンガミュージアム(烏丸御池)の「こども図書館」で孫と遊ぶ。小学校の跡地を利用したこのミュージアム、日本を代表する漫画が勢ぞろい。たくさんの外国人観光客で賑わっていました。
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