ブラスカル

元マラソンランナーですが、今や加齢と故障でお散歩専門、ブラタモリっぽく街歩きをしています。

2023年2月に読んだ本

2023-03-01 11:03:10 | 読書
2月は22冊、けっこう頑張って読みました。

まずはミステリー。昨年末の「このミス」など、四大ミステリーにランクインした本から8冊。

◆地図と拳(小川 哲)
これは、ミステリーというよりも、歴史小説ですよね。しかも直木賞&山田風太郎賞W受賞作。
1899年から1955年まで、半世紀以上に渡る李家鎮という満州の都市の盛衰、一貫して登場するのは細川なる人物ですが、真の主人公は日本人によって作られ、戦争に翻弄された人工都市・李家鎮そのものなのでしょう。
防衛目的だった日露戦争の勝利で、世界の大国になる野望を抱くに至った日本の、その生命線たる満州国、手段の目的化、細川の仮装内閣による研究結果が国家の意思決定に機能していればと思わずにはいられません。

◆N(道尾 秀介)
どこから読んでもいい短編集、日本の港町の話が4編、アイルランド・ダブリンの話が2編の短編連作。私は「名のない毒液の花」⇒「眠らない掲示と犬」⇒「笑わない少女の死」⇒「消えない硝子の星」⇒「落ちない魔球と鳥」⇒「飛べない雄蜂の嘘」、何となくつながりがありそうな順番に見当をつけて読みました。なるほどなーと思いつつ、この順番が良かったのかどうかは分かりません。ただ、さかさまにする必要まではなかったんじゃないかな。スピンが逆になったりして読みにくいだけかと。

◆月灯館殺人事件 (北山 猛邦)
北山版「そして誰もいなくなった」です。傲慢、怠惰、無知、濫造、倒錯、強欲、嫉妬の大罪を犯したミステリ作家が館に集められ、殺されていきます。
四つの密室殺人の説明をあっさりつけてしまうあたりはさすがと思ったが、フーダニットの叙述トリックの方は、そんなんありかとちょっと思いました。

◆録音された誘拐(阿津川 辰海)
今まで読んだ阿津川さんの作品の中で一番楽しめました。紅蓮館・蒼海館は主人公のキャラがややこしくてなじめなかったが、この糺くんと美々香さんはキャラが良いし、二人の信頼関係にも好感が持てる。
大野家の事情もドロドロしているようで意外にそうでもなく、兄弟愛とか麗しい。本格っぽさも違和感のない範囲で緻密に練り上げられていて、物語としても面白い。


◆入れ子細工の夜(阿津川 辰海)
一昨年の「透明人間は密室に潜む」に続く阿津川さんのノンシリーズ短編集。この著者のあまりの本格っぽさは苦手なのですが、この短編集はすらすら読めました。一作目の「危険な賭け」が面白かった。「二〇二一年度入試という題の推理小説」入試問題に挑むつもりで真面目に取り組んだのに問題がとんだポンコツで😞。「六人の激高するマスクマン」は前作の「六人の熱狂する日本人」の方がが面白かったかな。

◆神薙虚無最後の事件(紺野 天龍)
初読みの著者、今年の本格ミステリのランキング9位作品ということで読んでみたが、予想以上に面白く、もっと評価されて良い作品と思った。
20年前に起きた未解決事件を、残された一冊の本から複数の人が推理する、バークリーの「毒入りチョコレート事件」みたいな多重推理もの。最後にようやく真実にたどり着くわけだが、ラスボスっぽい星河かぐやの独白による答え合わせと永遠のライバル、久遠寺写楽へのリスペクト、最後は上手くまとまりました。

◆名探偵に甘美なる死を(方丈 貴恵)
シリーズ3作目、前2作も読んだけどほとんど内容を忘れている💦
本格王道のクローズドサークルでしかけられたVRとリアルの二重殺人、デスゲームという設定はなにやらソードアートオンラインっぽくて、ハラハラドキドキというよりもゲーム感覚で楽しめるミステリーですが、とにかくややこしい。読者への挑戦状までついているのですが、早々に謎解きを諦めて読み進めました。

◆此の世の果ての殺人(荒木 あかね)
小惑星衝突、地球滅亡ものは多々あれど、この作品は、滅亡目前の無秩序な世界という設定を、ゾンビや異世界転生、特殊能力あり等同様に単にミステリ―のための特殊条件設定として使っている。警察が機能しない、携帯が通じない等の特殊状況を推測しながらの謎解きはなかなかに楽しめた。登場人物のキャラも良いし、中盤以降どんどんテンポが速くなってお話としても面白い。
たとえ地球が滅亡しようとも、イサガワ先生やハルみたく、自暴自棄にならずに、最後の瞬間まで自分らしく普通でいたい。

◆このミステリーがすごい!2023年版
毎年購入しているやつ。今年も選本の参考にさせていただきました。

昨年の「カドブン」「ナツイチ」の積読本崩しで、「カドブン」から5冊。
◆異端の祝祭 (芦花公園)
諏訪神社とか蛇神とか思わせてキリスト教、「日ユ同祖説」とかそういうやつかなと思ったら、最後は訳のわからん話になるという、まあ、普通にホラーでした。
余談ですが、BOOKOFFで購入したのに、著者のサイン本でした。

◆ギリギリ(原田 ひ香)
夫・一郎太を亡くした瞳、その再婚夫の健児、前夫・一朗太の母の静江、ちょっと複雑な関係の3人の目線で紡がれる物語、面白くて一気読みだった。小説には名前しか登場しない一郎太を介しての人間模様、その心理描写がなかなかに秀逸。三人とも真面目で繊細な良い人だから、こんなに悩んじゃうのかな。良妻賢母一筋だった静江のささやかな一歩と、その静江に対する健ちゃんの「友達でいいじゃないですか」の一言が、少子高齢化社会のありようを示しているみたいで好感。

◆人間 (又吉 直樹)
主人公の永山が又吉さん自身の投影かなと思ったら、芸人で芥川賞を取った影山という彼ずばりの人物が出てくるし、、、両人とも自分の裏表なんでしょうね。
全編に太宰の「人間失格」の匂いが漂います。前半は若き日の苦い思い出編、他人とは違う、特別な才能があると思いこんだ人との、嫉妬、批判、蔑視が渦巻くハウスでの共同生活。中盤は永山が影山と再会、互いに心情を吐露する。俗物・ナカノタイチに対する二人の激しい敵意、クリント・イーストウッドに手が届くとはどういう感覚?
と思えば最終章は一転型破りの父など家族、親戚の話。つかみどころの難しい小説でした。

◆悪い夏(染井 為人)
こういうクズ親がいると一番不幸なのは子どもで、個人的には美空ちゃんのために守と愛美は幸せになってほしいかなと思ったのですが、最初は小悪党に、やがて大悪党の金本にもきっちりはめられて落ちていく。
下種な奴らが次々と登場するひと夏の群像劇、胸糞悪くなりながらも面白く一気読みしました。

◆それでも空は青い (荻原 浩)
荻原さん、多彩ですね。それぞれに味わいのある珠玉の短編が7編、直木賞を取った短編集「海の見える理髪店」に劣らぬ短編集と思います。特に「「妖精たちの時間」「僕と彼女と牛男のレシピ」が好み。なかなか自分の思い通りにならないことは多いけど、それを受け入れた上で、将来に向けてできることを諦めずにやれば、人生そんな悪いものじゃない。

◆水曜日の手紙 (森沢 明夫)
実在したん「水曜郵便局」を題材にしたお話。
真実を吐露するのも、背伸びをすれば届きそうなところを書いて自分で自分の背中を押すのも、こうなりたい自分、成功した自分をを思いっきり想像して書くのも、全部ありだと思います。文章を書くことの効能、浄化作用、そんなものが確かにあるように思います。

「ナツイチ」から2冊。
◆かわいい見聞録 (益田 ミリ)
大書「地図と拳」を読んだのちの箸休めに。図書館で借りて軽く読んでみました。

◆放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密 (友井 羊)
「スイーツレシピで謎解きを」の続編というか姉妹編、ホームズ役は前作の吃音の菓菜からその2年後輩の極度の引っ込み思案の結に。バディを組む無駄にアクティブな夏希と学園の事件を解決していく。この手のお話は他にもあるが、本作は友情と成長の隠し味が効いていて、読後感はなかなかに良い。

その他に5冊。
◆おくのほそ道(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
数年前に「奥の細道」を踏破しようと思い立ち購入したが、肝心の旅程の方は早くも「室の八嶋」で中断中、実現は全く覚束ないので、とりあえずこちらの方だけでも完読。
それにしても芭蕉の健脚ぶりには驚嘆!千住から草加まで歩くだけでもかなり大変だった💦

◆岩波文庫的 月の満ち欠け(佐藤 正午)
直木賞受賞時に図書館本で読んで感動した記憶あり、最近観た映画が素晴らしかったので文庫本を購入して再読、ちなみに映画は原作にも登場した「早稲田松竹」で観ました。
映画の脚本と相違点はあるけど、大筋において映画はかなり原作に忠実。前世なんて信じるかどうかは個人の主観、映画のように恋愛ファンタジーとして読むか、ホラーな恋愛ものとして読むか。いずれにしても切なくもミステリアスなお話、正木の壊っぷりがなかなかに怖い。

◆腐女子彼女。パート2
積読本消化。10年ちょっと前の本ですね。私もたいがいアニヲタなんで、これくらいの彼女なら抵抗なく受け入れられると思います。このお二人、今でも幸せに、子どもなんかできちゃったりしているのでしょうか。

◆チョウセンアサガオの咲く夏(柚月 裕子)
柚月裕子さんのまさかのショート・ショート11編。内容はなかなか多彩。猫あり、瞽女さんあり、おそ松さんや佐方検事シリーズのスピンオフあり、小説家っていろんなものを書いているんですね。軽ーく読めました。

◆高家表裏譚5 京乱 (上田 秀人)
忠臣蔵のおかげですっかりヒールの印象が定着した吉良上野介の若き日の話の第5巻。若き近衛家当主・近衛基煕と組んだ吉良三郎義央が、皇位継承問題に介入しようとする弾正尹や吉良家を逆恨みする毛利の殿様に対峙する。この若者がどうなったらああいう運命になるのか楽しみだけど、いつになるのやら先が長そう。
それにしても、江戸時代の官僚制って徹底的に効率無視の前例主義・形式主義だったのだなと、それゆえの天下泰平と幕末の動乱だったのだなと、改めて思いました。
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