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ブラスカル

元マラソンランナーですが、今や加齢と故障でお散歩専門、ブラタモリっぽく街歩きをしています。

「哄う合戦屋」(北沢秋)、リーダーシップと組織の強さ、とか

2012-11-10 16:14:33 | 読書
久々に「面白い小説を読んだ」って感じです。

主人公の石堂一徹は、武勇の誉れ高く、数え切れない功名を上げるのだが、なぜか数年で主君から離れることになってしまう。
そんな男が、中信濃の小領主、遠藤吉弘に仕えるや、周囲を次々と攻略し、3800石だった領地を半年で2万4千石に広げてしまった。
彼の合戦は極めて効率的、味方を死なせず、また敵に対しても無益な殺傷は行わないよう、策略をめぐらして首魁の首を上げてしまう。
一徹は軍監として采配を振るい、自らも最前線で戦うのだが、自分の手柄や恩賞には一切興味を示さない。
敵の首級を挙げ、手柄を立てるのを戦の目的とする他の家臣とは当然そりが合わず、その奇跡のような功績とは裏腹に人望がない。
領主の吉弘も、思いもよらず2万4千石の大名になり、元来が戦よりも領国の経営が好きなタイプ、次の戦に駆り立てる一徹がだんだん疎ましくなってくる。
そんな折、甲州の武田晴信(信玄)が中信濃に侵攻してくる。
実力差は歴然、戦わずして軍門に下るか、仇敵の小笠原らと結んで武田と当たるか、評議は紛糾する。
しかしながら一徹の策は「まず小笠原を滅ぼし、その軍勢も傘下に加えて、単独で武田と対する」というとんでもないものだった。
危険人物な上に嫉妬も手伝い、家老が一徹の暗殺を試み返り討ちにされるという事件まで起きてしまう。
一徹の唯一の理解者、吉弘の娘の若菜は、「合戦においては比類なきお方、すべて一徹に任せるのがよい」と考えたが、女の身で父に献策できるはずもなく、結局は小笠原らと連合して武田と当たることになった。
「それでは武田に勝てるはずもない」と一旦は遠藤家を去ることを決意した一徹だが、若菜のためにあえて出陣、そこで一徹が取った行動は、、、

結末はともかく、希有の才能を持った一徹を生かすことが出来なかった遠藤吉弘の最大にして致命的な欠陥は、理念、ビジョンがなかったこと。
武田と上杉という大勢力の狭間で、信濃はどうあるべきか、それに対し自分は何をなすべきかという、自らの存在目的が描けていなかったこと。
一徹はそれを持っていた。でもそれを説明する言葉がなかった。
天才的な技術者、専門家は、一人違う景色を見ていて、とうとうそれは理解されることがなかった。
リーダーを「夢を実現可能な目標として語り、部下の心に火をつける人」と規定すれば、一徹はリーダーという人種には程遠いということになる。
せめて理念だけでも共有できていれば、あとは一徹の能力と信念を信じるか、否かという話に持っていけたのに。
若菜が娘じゃなくって嫡男だったら違う展開も、って、あ、でもそれじゃ小説として面白くなくなっちゃうか。


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