7月は、「新潮文庫の100冊」「ナツイチ」「カドフェス」と出版社各社のフェア発表があったので、気合が入ってしまいました。
新潮文庫の100冊から7冊。
◆何者 (朝井リョウ)
序盤は「んー、これが直木賞か」と思いながら読んでいたのですが、後半一気に盛り上がりました。
拓人、光太郎、瑞月、里香、隆良と本人は登場しないが拓人の元友人GINJIの就活という人生の節目のイベントを通じたて明らかになる人間模様。
本音を言える人と自分を大きく見せようとかっこをつける人、匿名でないと本音を言えない人。
でも、どう自分を繕ったところで、友人も、会社も見ている。所詮、人生、既定路線でも線路を外れても、地に足をつけて努力し続ける人が成功するのです。拓人くん、やっと分かったみたい。
◆母性 (湊かなえ)
うーん、ちょっと湊かなえさんらしくないような。
母の視点、娘の視点から語られる話の食い違い、でも、悪役になっちゃっている義母の視点ってのがあったら、どうなるのでしょうね、この話。
私は男なので、子から見れば親は目標、越えていくべきもので、親から見た子は、そう簡単に越えさせないもの、そして越えられたら離れていくべきものと思っています。
所詮男にはわからない話か。
◆オズの魔法使い (ライマン・フランク・ボーム)
映画にも舞台にもなった有名なお話にもかかわらず、今回が初読。
シンプルな勧善懲悪で適度な寓話性もあり、楽しいお話でした。
◆知ろうとすること。 (早野龍五,糸井重里)
原発事故に関する物理学者の早野さんと糸井さんの対談本。
想定外の事態に直面した時こそ、科学的な根拠に基づいた客観的な情報を冷静に発信することの重要性を痛切に感じます。
日本人は、表面では「絆」とか立派なことを言いながら、鼻血を出した漫画とか、いわれのない商品ボイコットとかいじめとか、そういうことに加担してしまいがちな人が多いのもまた事実。
自分は、自分の目で見たものや自分できちんと考えたことのみをベースに、科学的な根拠に基づいて行動を心掛けたいと思います。
◆革命のリベリオン: 第I部 いつわりの世界 (神永学)
ライトノベルですね。ラノベファンにとってはありがちな設定という感じ。さらっと読めました。
詳細は第Ⅱ部を読んでから。
◆神様のボート (江國香織)
放浪の旅を続ければ、最愛の父に会える、そう信じて娘を連れて旅がらすの生活を続ける母・葉子。父の存在そのものが疑わしく思えるほどハナから話が矛盾している。
母の妄想に突き合わされる娘こそいい迷惑ということだろうか。成長した娘は、母を愛しつつも自分の人生を見つけ、母のそばを離れていく。
ラストシーンが哀れ。きっと父は葉子のことなどとうに忘れているだろうに。
愛とはそうしたものといってしまえばそれまでだけど。
◆この部屋で君と
朝井リョウ「それでは二人組を作ってください」、飛鳥井千砂「隣の空も青い」、越谷オサム「ジャンピングニー」、坂木司「女子的生活」、徳永圭「鳥かごの中身」、似鳥鶏「十八階の良く飛ぶ神様」、三上延「月の砂漠を」、吉川トリコ「冷やし中華にマヨネーズ」の短編8作。
朝井さんと坂木さんのがいかにもらしくて良かった。
三上さんのも渋くて良い。
吉川さん、初読みですが、最後のSEXがリアルにわびし過ぎます。
カドフェスからも7冊。
◆オール1の落ちこぼれ、教師になる (宮本延春)
とっても良い本でした。何よりも、豊川高校の先生たちに感動、うるっとしてしまいました。
でも、先生たちをその気にさせたのは宮本さん、ちゃんと頑張れば、見ててほしい人が見てくれないこともあるけど。でも誰かはきっと見ててくれて評価してくれるということ。
豊川高校の先生たちの気持ちが宮本先生から、またその生徒たちにつながる、素晴らしいですよね。
◆ホテルジューシー (坂木司)
沖縄は十数回行ってます。うち6回はNAHAマラソン。マラソンの打ち上げはいつも国際通りの裏通りの島唄パブだったので、ホテルジューシーの雰囲気、分かります。
あの南国の独特の緩い雰囲気、ヒロちゃんのような人が、いらだったり、その中で何かを教えられたりするのが良く分かります。
ああ、また行かなくちゃ、沖縄。
◆魔女の宅急便 (角野栄子)
ジブリの映画のイメージが強いので、、、原作は少し違う話なのですね。
独立して自分の家以外に自分を必要としてくれる、ちゃんとした居場所ができること、とっても大切なことです。
◆こゝろ (夏目漱石)
再読。
司馬遼太郎が「文明の配電盤」と読んだ帝国大学、高い金で外国人教師を雇い、そこには日本を支えるエリートが集った、そんな気質も明治末期になるとかなり変わってきている。
それでも、当時の世の人のほとんどは「私」の父母のような人で、漱石の描く先生や私は、新聞連載という形式も含め、当時の人から見ればどれほど新しかったのかと思う。
この歳になってやっと夏目漱石のすごさを少し分かるようになってきた。
余談ですが、私は文京区小石川のこんにゃく閻魔の近所の生まれで、この小説の地元。 当時は泥んこの谷だったのか。
◆櫻子さんの足下には死体が埋まっている (太田紫織)
祝!10月よりアニメ化決定。櫻子さん役は小清水亜美さんだそうで、うん、なかなか良い配役と思います。
小説の方は、櫻子さんにドン引きという意見も多いようですが、ま、ラノベと思えばこういうのもありかと。
◆月魚 (三浦しをん)
「舟を編む」「まほろ駅」「なあなあ日常」「風が強く吹いている」「小暮荘」、三浦しをんの本、そんなにたくさん読んだわけでもないのだけど、これは今までのしをんさんとはちょっと違う。
特殊な職業ってことでは、辞書編纂、林業、便利屋、いろいろあったわけですが、これはビブリア並みに古書に魅せられ、嵌ってしまった人たちのお話、
しかももーほー。
しんとした、というか、寒々、冷え冷えとした雰囲気が全編に流れます。
水底の魚、沈んだ街、サブタイで話を引っ張っている感じもしますが。
◆バケモノの子 (細田守)
カドフェスが「バケモノの子」押し一色なので、つい手に取ってしまいましたが、予想よりも面白かった。
バケモノにはなくて、人間にだけある心の闇、ですか。
九太はどんな未来を選択するのでしょうか。お父さん、良い人っぽかったけど影薄い。
ナツイチが10冊。
◆追想五断章 (米澤穂信)
昔世間を騒がせた「ロス疑惑」事件を思わせる「アントワープの銃弾」事件。その謎解きに父が残した5つのリドル・ストーリー。
娘に対してと、世間に対して、死んだ父が残した筋書き、真実はどっちなのか、最後の一行に隠された父としての想い。
全体が一つのリドルストーリー、技巧的に、実によくできたミステリーでした。
◆R.P.G. (宮部みゆき)
なるほど、R.P.G.ってそういうことね。
匿名でつながることができるバーチャルな世界と現実世界、この作品が書かれた01年にしては、かなり斬新なテーマだったのではないでしょうか。
緻密に構成された、完成度の高い、納得の一冊です。
殺された所田のお父さんが自分にちょっと似ているような気がしてギクリ。
◆サラの柔らかな香車 (橋本長道)
話はちょっと荒っぽいけど、勢いがあって面白かった。実際に将棋をやっていた人でなければここまで書けない。
スポーツでも、素質、才能、この人ってアスリートの神様に愛されてんだなーって思える人、います。
サラ、塔子、七海、三人三様の才能。その才能の何たるかを知り、崇めたたえる著者の筆致が何ともノリノリで楽しい。
後半は一気読みでした。
◆ジヴェルニーの食卓 (原田マハ)
題名から「楽園のカンヴァス」的なお話かなと思ったのですが、違いました。
マティス、ドガ、セザンヌ、モネ、のちに巨匠と呼ばれる画家たちの葛藤。彼らに魅入られ、生涯をかけて応援した女性たちから見た巨匠を描いた短編4編。
絵画に対する造詣の浅い私ですが、ググって作品を確認しながら読みました。
期待したものとは違いましたが、やはり原田さんは外さない。私の好きな作家さんの一人です。
◆旅屋おかえり (原田マハ)
原田さん、2冊め。
美術(「楽園のカンヴァス」)や映画(「シネマの神様」)もだけど、旅も、原田マハさんの小説は、無条件の愛、思い入れに溢れてますね。
絵画は深い知識に裏打ちされているけど、映画や旅は、それがない分、理屈っぽくなくて、ストレートで、シンプルで、好感が持てます。
楽しませてくれて、元気ももらえる一冊でした。
◆泳ぐのに、安全でも適切でもありません (江國香織)
江國さんも2冊め。
仕事でも、プライべートでも、計画的な人生って夢を達成するためには必要で、でもそういうのではない人生も、それはそれでありなのかなと思わせる、男女の関係にまつわる短編が10編。
「うんとお腹を空かせてきてね」の幸せ、「サマーブランケット」や「りんご追分」の寂寥感。ま、人生ってやり直しがきかないから。ね。
短編だけど重たい話でした。
◆MOMENT (本多孝好)
死を目前にした患者さんの願いを一つだけ叶える仕事人という役割を引き受けることになったバイトの病院の掃除人、神田くんのお話。「FACE」「WISH」「FIREFLY」「MOMENT」の連作短編四編。
最初の二編は、意に反して依頼者に利用された感があるものの、最後の「MOMENT」での行動は、彼なりの成長の証なのでしょうか。
重いテーマですけど、割とさらっと読めました。
◆夏と花火と私の死体 (乙一)
乙一さんが16歳の時に書いたデビュー作。死体が一人称で語り部という発想が斬新で文章も上手。
表題作も「優子」も、器用でうまい!と思う。ま、軽めのミステリー・ホラーということで。
◆ホテルローヤル (桜木紫乃)
直木賞受賞作。
桜木さんの作品は「ラブレス」に次いで2作目だけど、そうか、桜木さんって釧路市出身なのですね。
連作の短編7編で、廃墟になった場末のラブホテルの時代をさかのぼる。
「シャッターチャンス」の貴史はホッケーでピークを越えて現実を見られなくなった、痛いです。
「本日開店」と最後の「ギフト」がなんとなくつながってて、「せんせぇ」はそういうことか。
「星を見ていた」も、全体を覆う貧しさ、場末感、薄幸の雰囲気の中で、「バブルバス」「えっち屋」はユーモアもあって少し救われます。
◆漂砂のうたう (木内昇)
遊郭を舞台にした女流作家の直木賞受賞作ということでは松井今朝子さんの吉原手引草と一緒だが、こちらの方は何とも地味なというか、純文学っぽい作風。
明治維新という時代と価値観の転換期に、没落し取り残された人々が求める其々の自由。
でも金魚の件はちょっとショック。
花魁の逞しさや、あえて時代に殉じる龍造の美学、定九郎は吹っ切れたのかな。
自分は文京区の出身で、根津神社も子供の頃は良く遊びに行きました。
あの辺は森鴎外や夏目漱石、文豪の香り漂う街と思ってましたが、その数十年前は遊郭だったんですね、びっくりです。
小学館文庫とハヤカワ文庫が1冊ずつ。
◆くちびるに歌を (小学館文庫)(中田永一)
「手紙~拝啓、十五の君へ~」、この歌、大好きです。
新垣結衣さんも好きで、頭の中で柏木先生を彼女に変換しながら読みました。
昔の自分に比べても純朴な五島列島の少年・少女たち、バラバラだったメンバーが、一つの目標に少しずつ距離を縮めていく、部活も、そして友達としても。
中田永一さんは「百瀬こっちを向いて」に続いて2冊目ですが、こういう話、うまいです。とてもあの人と同一人物とは思えません。
◆アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫)(フィリップ・K・ディック)
2年位前に題名買い、その後積読本になっていたのだが、ガーディアンの1000冊に入っていたので読んでみた。
第三次世界大戦、放射能汚染、冷戦構造の頃に書かれた近未来SFらしい。
アンドロイドが治安を乱す存在として狩られる世界、天然の動物が希少価値として珍重される世界。
でも、アンドロイドも電気仕掛けの動物も限りなく本物に近づき、いったい何を持って差別の理由とするのか。
特に後半で良く分からない部分がありながらも、社会派SF?まずまず楽しめました。
新潮文庫の100冊から7冊。
◆何者 (朝井リョウ)
序盤は「んー、これが直木賞か」と思いながら読んでいたのですが、後半一気に盛り上がりました。
拓人、光太郎、瑞月、里香、隆良と本人は登場しないが拓人の元友人GINJIの就活という人生の節目のイベントを通じたて明らかになる人間模様。
本音を言える人と自分を大きく見せようとかっこをつける人、匿名でないと本音を言えない人。
でも、どう自分を繕ったところで、友人も、会社も見ている。所詮、人生、既定路線でも線路を外れても、地に足をつけて努力し続ける人が成功するのです。拓人くん、やっと分かったみたい。
◆母性 (湊かなえ)
うーん、ちょっと湊かなえさんらしくないような。
母の視点、娘の視点から語られる話の食い違い、でも、悪役になっちゃっている義母の視点ってのがあったら、どうなるのでしょうね、この話。
私は男なので、子から見れば親は目標、越えていくべきもので、親から見た子は、そう簡単に越えさせないもの、そして越えられたら離れていくべきものと思っています。
所詮男にはわからない話か。
◆オズの魔法使い (ライマン・フランク・ボーム)
映画にも舞台にもなった有名なお話にもかかわらず、今回が初読。
シンプルな勧善懲悪で適度な寓話性もあり、楽しいお話でした。
◆知ろうとすること。 (早野龍五,糸井重里)
原発事故に関する物理学者の早野さんと糸井さんの対談本。
想定外の事態に直面した時こそ、科学的な根拠に基づいた客観的な情報を冷静に発信することの重要性を痛切に感じます。
日本人は、表面では「絆」とか立派なことを言いながら、鼻血を出した漫画とか、いわれのない商品ボイコットとかいじめとか、そういうことに加担してしまいがちな人が多いのもまた事実。
自分は、自分の目で見たものや自分できちんと考えたことのみをベースに、科学的な根拠に基づいて行動を心掛けたいと思います。
◆革命のリベリオン: 第I部 いつわりの世界 (神永学)
ライトノベルですね。ラノベファンにとってはありがちな設定という感じ。さらっと読めました。
詳細は第Ⅱ部を読んでから。
◆神様のボート (江國香織)
放浪の旅を続ければ、最愛の父に会える、そう信じて娘を連れて旅がらすの生活を続ける母・葉子。父の存在そのものが疑わしく思えるほどハナから話が矛盾している。
母の妄想に突き合わされる娘こそいい迷惑ということだろうか。成長した娘は、母を愛しつつも自分の人生を見つけ、母のそばを離れていく。
ラストシーンが哀れ。きっと父は葉子のことなどとうに忘れているだろうに。
愛とはそうしたものといってしまえばそれまでだけど。
◆この部屋で君と
朝井リョウ「それでは二人組を作ってください」、飛鳥井千砂「隣の空も青い」、越谷オサム「ジャンピングニー」、坂木司「女子的生活」、徳永圭「鳥かごの中身」、似鳥鶏「十八階の良く飛ぶ神様」、三上延「月の砂漠を」、吉川トリコ「冷やし中華にマヨネーズ」の短編8作。
朝井さんと坂木さんのがいかにもらしくて良かった。
三上さんのも渋くて良い。
吉川さん、初読みですが、最後のSEXがリアルにわびし過ぎます。
カドフェスからも7冊。
◆オール1の落ちこぼれ、教師になる (宮本延春)
とっても良い本でした。何よりも、豊川高校の先生たちに感動、うるっとしてしまいました。
でも、先生たちをその気にさせたのは宮本さん、ちゃんと頑張れば、見ててほしい人が見てくれないこともあるけど。でも誰かはきっと見ててくれて評価してくれるということ。
豊川高校の先生たちの気持ちが宮本先生から、またその生徒たちにつながる、素晴らしいですよね。
◆ホテルジューシー (坂木司)
沖縄は十数回行ってます。うち6回はNAHAマラソン。マラソンの打ち上げはいつも国際通りの裏通りの島唄パブだったので、ホテルジューシーの雰囲気、分かります。
あの南国の独特の緩い雰囲気、ヒロちゃんのような人が、いらだったり、その中で何かを教えられたりするのが良く分かります。
ああ、また行かなくちゃ、沖縄。
◆魔女の宅急便 (角野栄子)
ジブリの映画のイメージが強いので、、、原作は少し違う話なのですね。
独立して自分の家以外に自分を必要としてくれる、ちゃんとした居場所ができること、とっても大切なことです。
◆こゝろ (夏目漱石)
再読。
司馬遼太郎が「文明の配電盤」と読んだ帝国大学、高い金で外国人教師を雇い、そこには日本を支えるエリートが集った、そんな気質も明治末期になるとかなり変わってきている。
それでも、当時の世の人のほとんどは「私」の父母のような人で、漱石の描く先生や私は、新聞連載という形式も含め、当時の人から見ればどれほど新しかったのかと思う。
この歳になってやっと夏目漱石のすごさを少し分かるようになってきた。
余談ですが、私は文京区小石川のこんにゃく閻魔の近所の生まれで、この小説の地元。 当時は泥んこの谷だったのか。
◆櫻子さんの足下には死体が埋まっている (太田紫織)
祝!10月よりアニメ化決定。櫻子さん役は小清水亜美さんだそうで、うん、なかなか良い配役と思います。
小説の方は、櫻子さんにドン引きという意見も多いようですが、ま、ラノベと思えばこういうのもありかと。
◆月魚 (三浦しをん)
「舟を編む」「まほろ駅」「なあなあ日常」「風が強く吹いている」「小暮荘」、三浦しをんの本、そんなにたくさん読んだわけでもないのだけど、これは今までのしをんさんとはちょっと違う。
特殊な職業ってことでは、辞書編纂、林業、便利屋、いろいろあったわけですが、これはビブリア並みに古書に魅せられ、嵌ってしまった人たちのお話、
しかももーほー。
しんとした、というか、寒々、冷え冷えとした雰囲気が全編に流れます。
水底の魚、沈んだ街、サブタイで話を引っ張っている感じもしますが。
◆バケモノの子 (細田守)
カドフェスが「バケモノの子」押し一色なので、つい手に取ってしまいましたが、予想よりも面白かった。
バケモノにはなくて、人間にだけある心の闇、ですか。
九太はどんな未来を選択するのでしょうか。お父さん、良い人っぽかったけど影薄い。
ナツイチが10冊。
◆追想五断章 (米澤穂信)
昔世間を騒がせた「ロス疑惑」事件を思わせる「アントワープの銃弾」事件。その謎解きに父が残した5つのリドル・ストーリー。
娘に対してと、世間に対して、死んだ父が残した筋書き、真実はどっちなのか、最後の一行に隠された父としての想い。
全体が一つのリドルストーリー、技巧的に、実によくできたミステリーでした。
◆R.P.G. (宮部みゆき)
なるほど、R.P.G.ってそういうことね。
匿名でつながることができるバーチャルな世界と現実世界、この作品が書かれた01年にしては、かなり斬新なテーマだったのではないでしょうか。
緻密に構成された、完成度の高い、納得の一冊です。
殺された所田のお父さんが自分にちょっと似ているような気がしてギクリ。
◆サラの柔らかな香車 (橋本長道)
話はちょっと荒っぽいけど、勢いがあって面白かった。実際に将棋をやっていた人でなければここまで書けない。
スポーツでも、素質、才能、この人ってアスリートの神様に愛されてんだなーって思える人、います。
サラ、塔子、七海、三人三様の才能。その才能の何たるかを知り、崇めたたえる著者の筆致が何ともノリノリで楽しい。
後半は一気読みでした。
◆ジヴェルニーの食卓 (原田マハ)
題名から「楽園のカンヴァス」的なお話かなと思ったのですが、違いました。
マティス、ドガ、セザンヌ、モネ、のちに巨匠と呼ばれる画家たちの葛藤。彼らに魅入られ、生涯をかけて応援した女性たちから見た巨匠を描いた短編4編。
絵画に対する造詣の浅い私ですが、ググって作品を確認しながら読みました。
期待したものとは違いましたが、やはり原田さんは外さない。私の好きな作家さんの一人です。
◆旅屋おかえり (原田マハ)
原田さん、2冊め。
美術(「楽園のカンヴァス」)や映画(「シネマの神様」)もだけど、旅も、原田マハさんの小説は、無条件の愛、思い入れに溢れてますね。
絵画は深い知識に裏打ちされているけど、映画や旅は、それがない分、理屈っぽくなくて、ストレートで、シンプルで、好感が持てます。
楽しませてくれて、元気ももらえる一冊でした。
◆泳ぐのに、安全でも適切でもありません (江國香織)
江國さんも2冊め。
仕事でも、プライべートでも、計画的な人生って夢を達成するためには必要で、でもそういうのではない人生も、それはそれでありなのかなと思わせる、男女の関係にまつわる短編が10編。
「うんとお腹を空かせてきてね」の幸せ、「サマーブランケット」や「りんご追分」の寂寥感。ま、人生ってやり直しがきかないから。ね。
短編だけど重たい話でした。
◆MOMENT (本多孝好)
死を目前にした患者さんの願いを一つだけ叶える仕事人という役割を引き受けることになったバイトの病院の掃除人、神田くんのお話。「FACE」「WISH」「FIREFLY」「MOMENT」の連作短編四編。
最初の二編は、意に反して依頼者に利用された感があるものの、最後の「MOMENT」での行動は、彼なりの成長の証なのでしょうか。
重いテーマですけど、割とさらっと読めました。
◆夏と花火と私の死体 (乙一)
乙一さんが16歳の時に書いたデビュー作。死体が一人称で語り部という発想が斬新で文章も上手。
表題作も「優子」も、器用でうまい!と思う。ま、軽めのミステリー・ホラーということで。
◆ホテルローヤル (桜木紫乃)
直木賞受賞作。
桜木さんの作品は「ラブレス」に次いで2作目だけど、そうか、桜木さんって釧路市出身なのですね。
連作の短編7編で、廃墟になった場末のラブホテルの時代をさかのぼる。
「シャッターチャンス」の貴史はホッケーでピークを越えて現実を見られなくなった、痛いです。
「本日開店」と最後の「ギフト」がなんとなくつながってて、「せんせぇ」はそういうことか。
「星を見ていた」も、全体を覆う貧しさ、場末感、薄幸の雰囲気の中で、「バブルバス」「えっち屋」はユーモアもあって少し救われます。
◆漂砂のうたう (木内昇)
遊郭を舞台にした女流作家の直木賞受賞作ということでは松井今朝子さんの吉原手引草と一緒だが、こちらの方は何とも地味なというか、純文学っぽい作風。
明治維新という時代と価値観の転換期に、没落し取り残された人々が求める其々の自由。
でも金魚の件はちょっとショック。
花魁の逞しさや、あえて時代に殉じる龍造の美学、定九郎は吹っ切れたのかな。
自分は文京区の出身で、根津神社も子供の頃は良く遊びに行きました。
あの辺は森鴎外や夏目漱石、文豪の香り漂う街と思ってましたが、その数十年前は遊郭だったんですね、びっくりです。
小学館文庫とハヤカワ文庫が1冊ずつ。
◆くちびるに歌を (小学館文庫)(中田永一)
「手紙~拝啓、十五の君へ~」、この歌、大好きです。
新垣結衣さんも好きで、頭の中で柏木先生を彼女に変換しながら読みました。
昔の自分に比べても純朴な五島列島の少年・少女たち、バラバラだったメンバーが、一つの目標に少しずつ距離を縮めていく、部活も、そして友達としても。
中田永一さんは「百瀬こっちを向いて」に続いて2冊目ですが、こういう話、うまいです。とてもあの人と同一人物とは思えません。
◆アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫)(フィリップ・K・ディック)
2年位前に題名買い、その後積読本になっていたのだが、ガーディアンの1000冊に入っていたので読んでみた。
第三次世界大戦、放射能汚染、冷戦構造の頃に書かれた近未来SFらしい。
アンドロイドが治安を乱す存在として狩られる世界、天然の動物が希少価値として珍重される世界。
でも、アンドロイドも電気仕掛けの動物も限りなく本物に近づき、いったい何を持って差別の理由とするのか。
特に後半で良く分からない部分がありながらも、社会派SF?まずまず楽しめました。
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