上からアリコ(^&^)! その八
『謎の短冊』
「先生のこと呼んだりしてませんよ」
書類から目を上げて校長は言った。
「でも、校内放送で……校長先生の声でしたよ」
「わたしは、今の今まで教頭さんと話していたところですよ」
「今も話しているところなんですがね」
教頭が、嫌みったらしく続けた。
「……そうですか。わたしの聞き違いだったようです。失礼しました」
――あれは、間違いなく校長の声だった。
そう思いながら、アリコ先生は校長室のドアを閉めた。
――あ、ひょっとして……!
アリコ先生は、有る予感を感じ、書庫への廊下を急いだ。
「……!」
ドアを開けると、いっせいにみんなの視線が集まった。
「どうかしました、先生?」
「う、ううん……」
部長の加藤が、怪訝そうに聞いてきたのを、アリコ先生は、らしからぬハンパな笑顔で応えた。
卓真を含め、全員が、かわいらしく『でんでらりゅうば』の練習にいそしんでいた。
部屋の中に残った花の香りがかすかに乱れているだけだった……。
※ 参考:でんでらりゅうば https://youtu.be/3VIGB4u8mIY
地下鉄で帰るチマちゃんを見送って、千尋は美東先輩といっしょに歩き出した。
「チマちゃん、東京弁たいへんみたいだね」
「最初はオドオドしてたけど『でんでらりゅうば』で、すっかり溶け込んじゃいましたから」
「そうだね、地下鉄の階段降りるときは、元気に『じゃ、さようなら』って、挨拶してくれたもんね……でも、先生、なんで改めてこんなものくれたんだろう」
美東先輩は、短冊を手につぶやいた。短冊には例の言葉が書かれていた。
――来る者は拒まず、去る者はいない。
「これって、書いてある通りなんですか?」
「うん、結果的にね。なにも無理強いするようなことはないんだけど、去年アリコ先生が来てから、辞めた子はいないわね」
「そうなんだ」
「加藤君なんか、ひきこもりの不登校だったのよ。それをアリコ先生が家庭訪問くり返して、いつの間にか来るようになって、四月からは部長だもんね」
「あの、卓真って先輩、案外おとなしかったですね」
「最初は、かっこつけてたけどね」
「ですね、でも……」
「でも?」
「途中で、卓真って人の目が、ニクソゲに光ったような気がしたんですけど」
「そう、わたしは『でんでらりゅうば』に熱中してたから」
そこに美咲が、ナナを連れてやってきた。
「美咲ちゃん、お散歩?」
「うん、いつもはお父さんなんだけど、急なお通夜で。まあ、ナナも大人しくなったことだし」
「そうだよね、よい子のナナちゃんになったんだもんね」
「かわいい秋田犬ですね」
美東先輩が、頭をなでた。シッポを振ってじゃれつくナナ。
「や、やだ、くすぐったいわよ」
ナナは、美東先輩のツインテールが気に入ったようだ。
「アハハ……」
三人と一匹でじゃれているうちに、美東先輩の手提げバッグから、例の短冊がこぼれ落ち、ナナの頭をかすって地面に落ちた。
キャイン!
ナナは悲鳴を上げてあとずさった。シッポを垂れて、美咲の後ろで怯えている。
「どうしたの、ナナ……」
「これが……怖いの?」
美東先輩が、短冊を近づけた。ナナは尻もちをついてしまった。
「これも、怖いかなあ?」
半分からかうようにして、千尋は、自分の短冊を出した。
ナナは腰を抜かし、オシッコを漏らして、横ざまに倒れてしまった……。
つづく