大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・上からアリコ(^&^)!その二『美咲ちゃ~ん!』

2018-07-05 06:57:33 | 小説3

上からアリコ(^&^)! その二
『美咲ちゃ~ん!』
 


「美咲ちゃ~ん!」

 階段を降りかけていた美咲を呼び止めた。

「あ、千尋、オヒサだね。学校もう慣れた?」
「ちょっといいかな……」
「なによ、千尋」
「ちょっち、相談ってか、聞きたいことがあって」
「へ、中学以来だね、千尋の相談なんて。前は……対立してる亜里砂派と静香派に、両方いい顔しちゃって板挟みの話しだったね」
「今度は、そんなんじゃないのよ……」
 美咲は、千尋の顔を覗き込んだ。
「そこに立っていられると掃除のジャマなんだけど」
 掃除当番の三年生に小言を言われた。
「ごめん、千尋、あっち行こう」
「うん。あ、すみません」
 掃除当番の三年生は、あ、あんたかって顔した。
「阿倍野千尋さんでしょ。どうよ、バレー入る気になった?」
――あ、連休前にバレーの勧誘をされた三年生だ。
「あ、わたし文芸部に入っちゃったから」
「そうか、残念」
「千尋、こっち!」
 美咲が、掃除の済んだ渡り廊下の方で呼んでいる。

 Y高校は仏教系の私学で、十年前、男女共学にしたときに、校舎を建て替え、ミッションスクールのような清楚でオシャレな校舎になった。
 ベージュを基調とした壁に、緑青色の屋根瓦。ファサード(正面)は表通りに向けて少し張り出し、ささやかなバルコニーと尖塔が付いている。知らない人が見たら、とても仏教系の学校には見えない。尖塔の先にはCDのケースほどの板に「有」の一字が書かれて掲げられていたが、それに気づく者は、掲げた本人以外はほとんどいない。たまにいても、その意味までは分からず、飾りの一部だと思ってしまう。「有」の一字はほんの一年ちょっと前につけられたのだけれど、皆、最初から有ったもののように思いこみ、気にもしなかった。
 その本館と二号館を結ぶ渡り廊下の窓に、肘を突いて二人は並んだ。

 ぽっかり、ゆっくり流れる白い雲を背景にして、二筋向こうの通りのほうに鯉のぼりが仲良く泳いでいる。

「嫌みな鯉のぼり」
「あれ、美咲ちゃんちのだよね?」
「うん。男の子がいるわけじゃないのにね」
「お寺さんだから、仕方ないわよ」
「どうして、お寺だったら、鯉のぼりなのよさ」
「それは……」
「小さい頃は、檀家さんのためとかで納得してたけど。小学校の高学年くらいから、クラスの男どもに言われんのよね。美咲、おまえ、ホントは男なんだろうって」
「ウフ、思い出した。『やーい、やーい、オットコオーンナ!』」
「千尋!」
「イテ!」
 美咲に頭をポコンとされた。
「で、なによ千尋の相談って?」
「美咲ちゃん、アリコ先生に習ってるでしょう」
「ああ、上からアリコ」
「どんな先生?」
「どんなって……どうして?」
「それがね……わたし、文芸部に入っちゃってさ」
「アハハ、千尋が文芸部。マンガとラノベっきゃ読まないあんたが!?」
「……うん」
「アハハ……」
 五月晴れの空にふさわしい明るさで、美咲は笑った。その時、二人の後ろを一年生の女子が渡り廊下走り隊よろしく、キャッキャ言いながら走って来た。

「コラア! 廊下を猿みたいに走るんじゃない!」

 美咲は、外見とは似つかわしくない胴間声で、一年のガキンチョを叱った。
「す、すみません……」
 ビビった一年生たちは、スゴスゴと行ってしまった。
「み、美咲ちゃんの落差って、そのへんすごいんだよね」
「だからオトコオンナってか」
「そ、そうじゃなくって。美咲ちゃんの、そういうキッパリしたとこウラヤマでさ」
「ははーん……千尋、他のクラブの勧誘封じに文芸部入ったなあ」
「いや、それは……」
「今も、階段掃除やってたバレーの関根さんに、何か言われてたじゃんよ」
「……図星かな。さすが美咲ちゃん」
「文芸部は地味だけど、少数精鋭のエリ-トクラブだよ」
「先生の、サイドロッカーの横に文芸部のポップが貼ってあってさ、『来る者は拒まず。去る者はいない』って書いてあってさ……アリコ先生も、なんだか、『飛んで火に入る夏の虫』ってオーラがあってさ。わたしって、お気楽に腰掛けのつもりで入っちゃったから……」
「で、悩んでるわけ?」
「うん……」
 千尋は、体が縮んでしまいそうなため息をつきながら返事をした。美咲は相変わらずニマニマと笑って聞いている。
「ねえ、美咲ちゃん。美咲せんぱ~い!」
「それはね……」
 そこまで言って、美咲はCGのバグのようにフリ-ズした。
「ああ……」

 一番下の鯉のぼりが一匹風に吹き飛ばされてしまった。
 なんだか、とても不吉な予感がした……。

 つづく……。


コメント
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