高校ライトノベル・上からアリコ(^&^)!その八
『ごめんね、変なの見せちゃって』
ナナは、短冊を隠すと、すぐに気を取り戻した。しかし震えは止まらない。
「ごめんね、変なの見せちゃって」
千尋は恐縮した。
「ううん、いいのよ。どこかが悪いってわけでもなさそうだし。ナナそろそろ家に帰ってご飯にしようか」
ナナは、もう何でもないように、シッポをふって、ヨダレまで垂らしている。
「ハハ、劇的にいい子になったけど。その食べ物に弱いところは、前のままだね」
「うん、でもね、前はわたしにオネダリするようなことはなかったのよ」
「わたしも、いっしょにご飯あげてもいい?」
「うん。ご飯たって、ドッグフードをお椀にいれてやるだけだけどね」
二人と一匹は、道を戻り始めた。すると、二筋後ろの道のほうに、パトカーのサイレン。ナナが耳をピンと立てた。
「学校のほうだね」
「行ってみようか」
「うん!」
「ナナ、ご飯はちょっとオアズケね。いくよ!」
ナナは「ワン!」と一声あげ、二人と一匹は、二筋向こうの道を目指した。
「あ、卓真……!」
美咲ちゃんは、思わず口を手でふさいだ。へたに声をかけたら、卓真がこっちに向かってきそうな気がしたのだ。
卓真は、不良っぽい四人を相手にケンカの真っ最中。卓真も怪我をしていたが、相手の四人のほうが被害は大きそう。三人は、ほとんどノビかけて、地面に転がっていて、最後の一人と睨み合っている。
睨み合っているといっても、卓真は自動車のボンネットの上、相手は唇を切り、顔を血だらけにして、叫んでいる。警官が、肩の無線で応援を呼びながら、卓真を牽制している。学校からも、まだ残っていた先生や生徒たちが出てきて遠巻きにしている。
「卓真、いいかげんにしなさい!」
今、校門から出てきたばかりのアリコ先生が、大声で叫んだ。
一瞬卓真は、先生に気を取られた。その隙に、卓真の死角に回っていた警官が卓真の足にタックルして、車から引きずり下ろし、すぐに足払いをかけてうつ伏せにし、後ろ手にして手錠をかけた。
「手錠はかけないで!」
アリコ先生が叫んだ。
「だめです。こいつ、こんなものを持ってやがるんでね」
警官は、卓真の懐から、ナイフを取りだした。
「うちの生徒です。学校で指導させていただけませんか」
教頭の手を振りほどいて、アリコ先生は警官の前に出た。
「だめです。市民の方から通報をうけていますし、四人も怪我させています。だいいち銃刀法違反ですから」
卓真は、ナイフを見て、あきらかに驚いていた。
「写真とか撮られないうちに、署に連れていきます。キミ、写メは撮らないで!」
携帯を構えていた何人かの生徒に声をかけたが手遅れだろう。アリコ先生も諦めたように言った。
「じゃ、わたしもいっしょに……」
「あとで、ご連絡します。それまでは自重願います。こら、さっさと乗らんか」
「気安く触んじゃねえよ!」
卓真は、ねじ込むようにしてパトカーに乗せられた。同時に応援のパトカーと救急車がやってきた。
警官同士、一言二言話して、すぐに卓真を乗せたパトカーは走り去っていった。
「ワルだったけど、ここまでやる子じゃなかったんだけどねえ……」
美咲ちゃんは、ため息をついた。
警官が、周囲の人たちから事情聴取をし始めた。アリコ先生は真っ先に聞かれていたが、何かの音に気が付いたのか、周囲を見回している。
「何か、聞こえるんですか?」
「あ、いいえ気のせいです……」
「じゃ、質問を続けます……」
警官はメモを取り直した。
「あ……聞こえる」
千尋にもそれは聞こえた。遠くでしているような、耳元で小さくささやかれているように、それは聞こえた。
――でんでらりゅば、出られるばってん、でんでられんけん……。
そう、それはチマちゃんの『でんでらりゅうば』だった。
千尋が家に帰ると、お祖父ちゃんが来ていた。千尋は、悪いときは悪いことが重なるもんだと思った。
お祖父ちゃんは、沖縄の米軍基地反対闘争というのをやっていて、ここしばらくは沖縄にいるはずだった。
「いやあ、昔マルキ(機動隊のこと)にやられた腰が痛みはじめてなあ。ドクターストップさ」
「え、じゃあ、しばらく家にいるの?」
「オレの家だ。文句あるか」
千尋は、素直に不満そうな顔をしてやった。並の孫と祖父さんの関係なら、これは、もう破局のキザシだが、このお祖父ちゃんは、孫の、この不満そうな顔がカワイクてしかたがないという屈折したというか、達観した愛情の持ち方をしているので始末が悪い。
千尋も、両親を始め、人には「トリアエズのいい顔」をしておくのだが、このお祖父ちゃんには、なぜか正直な不満顔になってしまう。
「反対闘争でもなんでもやって、早くポックリいきゃいいのに」
毒づきながら、千尋は上着を脱ぎながら、自分の部屋に向かった。
「千尋、おまえ少し胸が出てきたんじゃないか」
クソじじいは、千尋の部屋の前まで付いてきた。
「やだなあ、覗いたりないでよ」
「なに言ってんだ。ついこないだまでオシメ替えてやっていたんだぞ。千尋の体のことなら、隅から隅まで知ってるぞ」
「この変態ジジイ!」
千尋は、うかつにドアを開けて言い返した。で、自分が下着姿なのに気が付いた。
「ほほう、程よく成長してんじゃねえか」
「もう、やだ!」
千尋は、足許のカバンを投げつけて、ドアを閉めた。
昔取った杵柄。機動隊の警棒をよける要領で、お祖父ちゃんはカバンをかわした。
カバンは、廊下のロ-ランサンのイミテーションに当たって、廊下に落ちた。当然中身がぶちまけられた。
自分の反射神経に満足して、お祖父ちゃんはリビングに戻ろうとして、ハッとした。
お祖父ちゃんは、千尋を冷やかすことはするが、年頃の女の子のカバンの中身を詮索するほどのクソジジイではない。ほっときゃ、着替え終わった千尋が片づけるだろうと背を向けたのである。
しかし、カバンからはみ出た、短冊に一瞬でビビっときて、振り向いて、その短冊を手に取った。
つづく