大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋物語り2018・1『終わりの始まり』

2018-07-20 07:31:51 | 小説4

物語り2018・1
『終わりの始まり』
       


 入院していたということにした、三人とも……大丈夫かな。

 そんな気持ちで学校に行ったけど、先生も友だちもなにも言わないし聞いてもこなかった。
 もう、新学期に入って一週間になるという九月の二日から、わたしは学校に通い始めた。

 季節の変わり目って、いつもドンヨリで気まぐれだ。
 嫌になるほどジトジト降ったり、ゲリラ豪雨があったり、竜巻、落雷があったり。この九月の始まりは、個人的な環境までドンヨリの気まぐれの気配。

 えと……あれは一学期の終業式の日だった……。

 わたしも高二の夏なんで、そろそろ先を見越して、自分なりに進路のことを考えていた。
 考えた末、リボンも襟首まで上げて江角に相談に行った。
「先生、進路のことで……」
「悪い、二学期か他の先生にして。あたし、これからカットビで出なくちゃならないから」
 開けっ放しにしている江角のバッグにパスポートが覗いていた。ほんのチラ見だけなんだけど、江角は慌ててカバンの口を締めた。

「国外逃亡でもするんですか?」

 軽い冗談のつもりで言った。

「亜紀に言われる筋合いはないわよ。個人旅行だけど休暇の届けも出してるんだから!」

 まるで、秘密がバレタた子どものように、ツッケンドンだった。このところいろいろあるわたしは、いつになくしつこかった。
「集会で進路部長の片岡先生言ってた。進路は二年の夏休みから始まる。悩みや、迷いや分からないことがあったら、担任や、進路の先生に相談にいきなさいって」
「じゃ、悪いけど進路に行って。あたし月あけには帰ってくるから……」
「進学の吉田先生は出張、部長の先生は、担任とまず相談しろって言った!」

 職員室の半分ぐらいが、シーンとしてしまった。

「……分かった。あたしが昼抜きゃ済む話だから」
 振り返った江角の目は、因縁をつけられたスケバンのようだった。
「そこ、座って。で、どんな相談?」
 江角は勢いよく足を組み、引き出しからカロリーメイトを出した。
 わたしはムッとしたが、相談にのってもらう側なので、深呼吸して、言葉を改めた。
「手に職を付けようと思って、アニメーターの学校にいきたいんです。一応候補は……」
 希望校の一覧をメモった手帳を出した。
「なんだ、入学案内とか持ってないの?」
「大事なとこはメモってあります」

 大切なことはスマホなんかに落とさずにメモ。学年はじめに江角自身が言ったことだ。

「アニメの専門学校って、高いんだよ学費も諸費も。亜紀んとこ弟もいるんだろ」
「だから、奨学金を取れそうなところを……」
「バカね、成績とかなんとか、奨学金は条件厳しいんだよ。悪いこと言わないから、この夏に、よーく考えて、資料とか進路で見せてもらって、奨学金の取りやすい短大とか考えといで。チ、カロリーメイト湿気ってやんの。じゃ、みなさん、お先に失礼しま~す」

 周りの先生は、愛想笑いをして江角を見送った。

「最低だ、こんな学校!!」

 わたしはリボンをレギュラーなとこまで引き下げて職員室を飛び出した。

 呼び止めるどころか、目線を合わせようとする先生もいなかった……。

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高校ライトノベル・上からアリコ(^&^)!その18『千尋には手を出さないで!』

2018-07-20 06:26:59 | 小説3

上からアリコ(^&^)!その18
『千尋には手を出さないで!』


「千尋には手を出さないで!」

「やっぱり図星ね、この子を新しい寄代(よりしろ)にしようとしていたのね」
「ちがう、わたしは千尋に思いを伝えたかっただけ」
「有子、あなたが食べた人魚の肉が不十分だったことは分かっているのよ。あれから千年……ようやく、あなたも、その効き目がなくなってきたのよね」
「もう疲れたの、この世の移ろいを見続けることに」
「なにを殊勝げに……有子、あなたは永遠の命と若さが欲しいために、人魚の肉を食べたんでしょうが。わたしが食べた人魚の肉は、ほんのひとかけら。百歳の齢に息絶え絶えのわたしに、安倍晴明がわたしにくれた気まぐれのほんのひとかけら」
「ウソをおっしゃい。あなたは清明さまに取りすがり、残りの干し肉も平らげた……で、わたしと同じ永遠の命をさずかった。ただし百歳の卒塔婆小町の姿で、そのために、ときおり若い精気を吸い取っては、小野小町と呼ばれたころの若さを取り戻し続けている。餓鬼道に墜ちた外道よ!」
「確かに、わたしは、人間の精気を吸い取っている。ただ堕落した者だけをね。そして、その人間のDNAを修正し、ほんの髪の毛一本から新しく正しい人間として再生させ、この日の本の国を護ってきた。久しくそれも控えてきたわ……この国の人間たちの力を信じてやろうとした。でも……このテイタラク。わたしは再びそれを始めたのよ。久しぶりだから犬から試してみたけどね、力は衰えてはいなかったわ」
「あなたのやっていることは、間違っている。DNAを修正して再生した人間は、姿形だけがもとのままで、中身はまったく別な者になっている。体のいい殺人よ」
「お黙り!」
 これらの会話は、平安時代の言葉でやりとりされたが、千尋には音声多重放送のように、現代語でも聞こえた。意識を集中している今(なんといっても、チマちゃんの姿をした小町に殺されかけているのだ)は、ほとんど副音声の現代語として聞こえていた。

 起伏に富んだ野原が、巨大な人の胸のように脈打ち始めた。

 この風景はアリコ先生とチマちゃんの姿をしたコイツの心理が相互作用してできてしまった心象風景なのかも……小町に踏みつけられながら、千尋は、そう感じた。上空や、透けて見える地面には、歴史の断片と、小町によって置き換えられた人たちの姿が明滅しながら、渦巻いていた。
「屁理屈は、そこまで。関根さんや、こんなに多くの人の精気を吸い取っておいて、なにが日の本の国を護るよ!」
 アリコ先生は背後に迫った卓真に気を飛ばした。卓真は悲鳴をあげて吹き飛んでいった、手にした刀といっしょに。刀はくるくると旋回し、卓真の胸をさし貫いた。断末魔の声は、またたくうちに遠のいていってしまった。
「なんとでも言うがいい。これから、この千尋の精気をいただく。もう、おまえに寄代は無くなる……」
「おやめなさい!」
 小町の口が、千尋の喉にくらいつこうとした、その時、ゴツンという音がして、チマちゃんの姿をした小町は横倒しになってしまった。
「千尋、早くそいつから離れるんだ!」
 そう叫んだのは、もう一つ向こうの高みに現れたオジイチャンだった。
「阿倍野君!?」
「恭子さん……わたしの投石の腕は落ちてはおらんようです。この火炎瓶でトドメを……」
「そんなことをしても!」
 アリコ先生が叫んだときには、火炎瓶は投げられ、見事に小町の足許で炸裂した。しかしその直前に小町は気を飛ばし、オジイチャンは、渦巻く旋風の中に吹き飛ばされ、姿が見えなくなった……小町は火だるまになってのたうち回った。そして……周りの風景が一変した。

 そこは、川の中州のようなところだった。
 
 両岸の河原には、ポツンポツンと火が見える……たき火だろうか、周りにはボロをまとった人たちが寄り添っているように見える。月明かりの下には見覚えのある山並み、お寺とおぼしき塔がいくつかシルエットになって見える。まるで大河ドラマの舞台のよう……?
「そう、京の都よ。千年ちょっと前の」
 そう答えたアリコ先生は、平安時代の女房装束をしていた。
「アリコ先生!?」
「とんだ時代まで引き戻されたものね……これが、わたしの元の姿。糺之宮親王(ただすのみやしんのう)さまにお仕えしていた女房よ。心配しないで、小町とのケリがついたら元の時代に戻るから。それと周りの人たちは気にしなくていい。わたしたちの姿は見えていないから」
 その時、川で大きな魚がはねた。それを目ざとく見つけたたき火の中の男が一人たき火を松明に、もう一人が尖った棒を持って、川の中に入ってきた。千尋は自分のところに来るような気がして、思わず身をひいた。男たちは千尋が十回ほどまばたきする間、魚と格闘し、見事にしとめると「イオ(魚)が捕れた!」と、歓声をあげて岸に戻っていった。
 その間、直ぐ目の前にいる千尋たちにはまるで気づいてはいなかった。アリコ先生、いや有子は、なにやら紙に書き付けていたが、男たちに気を取られていた千尋は気がつかなかった。

 やがて、中州の川上の方角から、一人の老婆がヨボヨボと近づいてきた。
「あのお婆さんもわたしたちのことは見えていないんでしょ?」
「いいえ……あいつには見えているわ」
 有子の答えを聞いて振り返ると、プールの端ぐらいの距離に近づいたところで、千尋は、まともに婆さんと目が合ってしまった……。

    つづく

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